中国のテクノロジー大手、華為(ファーウェイ)が、人工知能(AI)分野での新たな挑戦に乗り出している。最新の情報によると、华为は最先端のAIプロセッサ「昇騰910D」のテスト準備を進めており、その目標は米国の半導体大手NVIDIAのフラッグシップ製品「H100」を超えることだ。このニュースは、AIチップ市場での競争がさらに激化する兆しを見せている。今日は、昇騰910Dの開発背景とその可能性、そして华为の戦略について探ってみよう。
昇騰910Dの野心的な目標
2025年4月、複数のメディアが報じたところによると、華為は昇騰910Dのテストを間もなく開始し、早ければ5月末までに初期サンプルを入手する計画だ。このチップは、NVIDIAのH100と同等、またはそれ以上の性能を目指しており、AI市場における华为の地位を大きく引き上げる可能性がある。H100は現在、AIモデルのトレーニングや推論処理で業界標準とも言える存在であり、GoogleやMicrosoftといったグローバル企業がデータセンターで採用している。もし昇騰910DがH100を凌駕できれば、華為は国際的なAIチップ市場で一気に存在感を増し、海外メーカーの高性能チップの独占状態に風穴を開けるかもしれない。
昇騰910Dはまだ開発の初期段階にあるが、華為は既に国内の複数のテクノロジー企業と接触し、チップの技術的実現可能性を検証するためのテストについて協議している。このプロセスは、アスリートが本番前に繰り返しトレーニングを行い、弱点を克服する過程に似ている。テストを通じて、華為はチップの性能を細かく調整し、市場投入時に顧客のニーズを満たす高品質な製品を提供することを目指している。業界関係者によると、昇騰910Dの成功は、AIアプリケーションに必要な膨大な計算能力を支える基盤となり、中国のAI産業全体の競争力を高める可能性があるという。
華為のAIチップ戦略とこれまでの成果
華為のAIチップ開発は、昇騰シリーズの登場以来、着実に進化してきた。2019年に発表された「昇騰910」は、当時NVIDIAのV100を上回る計算能力を謳い、AIトレーニング向けの強力な選択肢として注目された。その後、2024年に登場した「昇騰910C」は、中芯国際の7nmプロセスを採用し、チップレット技術による統合で530億トランジスタを実現。DeepSeekのテストでは、推論タスクでNVIDIA H100の60%の性能を発揮し、国内生産率55%という高い自給率を達成した。
これらの成果は、米国による輸出規制や技術封鎖という厳しい環境下で、華為が独自の技術開発に注力してきた証だ。特に、昇騰910Cは既に阿里巴巴(アリババ)、百度(バイドゥ)、騰訊(テンセント)といった中国のテクノロジー大手向けに約7万個供給され、1個あたり約2万元(約40万円)というコストパフォーマンスの高さも評価されている。 昇騰910Dは、この流れをさらに加速させるべく、性能と効率の両面で飛躍を目指している。
NVIDIA H100との比較と課題
NVIDIAのH100は、AIチップ市場の金字塔だ。4nmプロセスで製造され、800億トランジスタを搭載、FP16(半精度浮点)演算で最大1410 TFLOPSの性能を誇る。さらに、NVIDIAの強みはCUDAやcuDNNといった成熟したソフトウェアエコシステムにあり、開発者が簡単にAIモデルを最適化できる環境が整っている。 これに対し、昇騰910Dは7nmプロセスをベースにするとみられ、トランジスタ数はH100に及ばない可能性が高い。また、華為のAIフレームワーク「MindSpore」はTensorFlowやPyTorchに比べると普及度が低く、ソフトウェア面でのギャップが課題とされている。
それでも、華為には独自の強みがある。まず、コスト面での優位性だ。H100の価格は1枚あたり約300万円以上とも言われるが、昇騰シリーズは大幅に安価で、国内企業にとって魅力的な選択肢となっている。次に、中国市場特化の戦略だ。米国による輸出規制でH100やその派生モデル(H800、H20)の入手が困難な中、昇騰910Dは「国産代替」の役割を担い、阿里巴巴や字節跳動(バイトダンス)といった企業からの需要を確実に取り込むだろう。
テストと市場投入への道
昇騰910Dの開発はまだ「基礎固め」の段階にあるが、华为は慎重かつ戦略的に進めている。報道によると、华为は複数の国内企業と協力し、チップの性能や安定性を検証するためのテストを計画している。 これらのテストは、AIモデルのトレーニングや推論、データセンターでのスケーラビリティなど、多岐にわたるシナリオをカバーする予定だ。5G与6G公众号の分析では、こうしたテストを通じて、华为はチップの弱点を洗い出し、市場投入時に顧客の期待に応える製品を完成させる狙いがあるという。
また、昇騰910Dの生産スケジュールも注目されている。一部の情報筋によると、華為は2025年第1四半期に量産を開始する計画で、年産10万個以下(推定5万個程度)を目指している。 対照的に、NVIDIAのH100は年間100万個以上の出荷が見込まれており、生産規模の差は明らかだ。それでも、中国国内の需要を満たすには十分な数量であり、コストと供給の安定性で優位性を発揮できる可能性がある。
市場への影響と今後の展望
もし昇騰910DがH100を上回る性能を実現できれば、AIチップ市場の勢力図は大きく変わるだろう。中国はAI技術のフロンティアとして、膨大な計算能力を必要としている。国内のテクノロジー大手は、NVIDIAへの依存を減らし、国産チップへの移行を加速させる可能性が高い。 さらに、昇騰910Dが成功すれば、华为は国際市場でも競争力を高め、アジアやアフリカの新興市場でのシェア拡大を狙えるかもしれない。
しかし、課題も少なくない。まず、技術的なハードルだ。H100を超えるには、単なるハードウェア性能だけでなく、ソフトウェアエコシステムの強化が不可欠だ。华为はMindSporeの改良やオープンソース化を進めているが、NVIDIAのCUDAに匹敵する開発者コミュニティを築くには時間がかかる。また、地政学的な制約も無視できない。米国やその同盟国が中国製チップの採用を敬遠する可能性があり、昇騰910Dのグローバル展開は限定的になるかもしれない。
昇騰910Dは、華為の技術力と野心を象徴するプロジェクトだ。NVIDIAのH100を超えるという目標は容易ではないが、テストと改良を通じて、華為は着実にその距離を縮めている。中国国内の需要と国産化の流れを背景に、昇騰910DはAIチップ市場での「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。5月末のサンプル入手を皮切りに、どのような成果を見せるのか。世界のテクノロジー業界が、華為の次の一手に注目している。
(中国経済新聞)