公務員はAIに代わってしまうのか

2025/03/15 11:40

各地方で行政手続きへのAI導入が進んでいる中国では今、「公務員の仕事が奪われてしまうのか」との声が随分と増えている。

このような動きはすでに一部の地域で見られている。江西省南昌市では、2021年には180人以上であった行政サービスの窓口担当者数が年々減り、今は3分の2がカットされたという。AIの導入が進むにつれてさらに人員整理が進みそうであり、「問い合わせ対応をする受付係や企業や市民関連の簡単な仕事は、すぐAIに代わるだろう」と見られている。

ただし手続き受付業務などは、しばらくは窓口対応となりそうである。「新たな事象が生まれれば企業や市民に受け入れてもらう必要がある。お年寄りが冷ややかなロボットを前にすれば気分も悪いだろうし、人が対応しなくてはいけない。また行政サービスは、人の判断が必要なかなり込み入ったケースもある」とのことである。

AI社員は決して公務員に代わるものではなく、公務員を煩雑でルーチンな事務の仕事から解放し、より創造性や感情のある仕事をさせなくてはならない。「例えば、AI社員が労働仲裁の判決文を速やかに作成してくれたら、担当者は申出人の気持ちに配慮したり、トラブルの調停に時間を割いたりすることができる」という。

AI社員を1人配置すればポストが1つ生じる。「自動車が出現したことで人力車夫が不要になったが、運転や洗車、修理といった人手が必要になっている」とのことである。

行政手続きにAIが導入されることで新たな雇用も生まれるが、部署が変わってしまうので、仕事内容が変わるという問題は解決に至っていない。これまで長年勤務してきた人などからすれば、AIが何でもやるようになって持ち場を失う」ことになる。言い換えれば、公務員の数自体は変わらなくてもその中身が変わってしまうのであり、こうした変化により起こり得る待遇や社会的地位などの変化は慣れるまで時間がかかるものである。

行政手続きへのAI導入や政府機能の改革で、公務員の削減・効率化が進み、人員の整理も進みそうである。すなわち、公務員を新たに採用する際はAIに関する下地やマシンとの協調性を見極める必要があり、現職者に対する教育も一段と強化しなくてはならない。

今の状況から見て、「AI+行政手続き」は対象範囲が一段と拡大する勢いである。AIはまた今後、意思決定者に対してより多くの実行策を打ち出すなど、これまで実現を願いながらも叶わなかった部分についてさらなる役割を発揮することになろう。

「行政手続きにおけるAIの導入にあたり、意思決定はとりわけ難易度が高いだろう」という。対応が必要な事象が発生した際、従来は意思決定者の経験やトータルな判断力に頼っていたが、情報の把握が不十分で正確な判断が下せないこともあった。しかしそれらの情報についてAIがトータルでアシストできるようになれば、より早く、よりよくなる。ただし、このような効果をAIで実現するのはかなり難しい。

また、込み入った場面でのAIの利用についても検討が必要である。リソースの配分に関わる場でのAIの利用はとりわけ注意が必要だ。「お年寄りや子供への手当の支給」などといった場合、漏れや差別があった場合は深刻な事態を招いてしまうので、どうしても人が判断しなくてはならない。

さらに、司法におけるAIの導入も慎重な対応が必要だ。洪山区検察院はDeepSeekを導入した際、量刑の際の助言など様々な実務の場について検証してみたが、AIによる量刑のアドバイスは実情とかなり開きがあり、システム的な差別が見られた。この理由は、検察院におけるLLM(大規模言語モデル)のパラメータが不十分で「脳の容量不足」であったほか、「マシンは冷ややかで、被告がなぜ罪を犯したのか、被告が未成年であるかなど、様々な要素を念頭に置いていない」というものであった。

深セン市福田区が行政手続き補助ロボットの管理に関する暫定法で「他の行政手続きロボットの設計や指導をさせてはならず、人の利益全般が損なわれないようにし、人を傷つけないことを前提にして人の命令に沿って動き、できるだけ自身を守ること」と定めているのは、このようなことが理由と思われる。

中国は今や、AIのイノベーションや活用についてトップクラスに立っているが、倫理や安全の問題について検討の余地が多分に存在する。

(中国経済新聞)