中国のロボット応用の促進と市場拡大の展望 ~知能ロボットの開発重視とイノベーション促進策の強化を中心に~

2025/03/7 07:30

1. はじめに

AI や IoT 及びビッグデータの利活用を特徴とする第4次産業革命が進行する中、ロボットの知能化水準が大きく上がり、様々な分野でのロボット利用が進んでいる。中国ではロボット産業の発展が目覚ましく、すでに 2013 年から世界最大の産業ロボット市場となっている※1。図表 1 にみるように、中国における産業ロボットの導入利用が急速に進み、2023年には175.5万台が稼働し、世界最大規模となっている。従業員1万人当たりの導入台数を表す導入密度も2021 年にアメリカを超え、世界 5 位に上がり、2023年にはさらに日本を抜き、世界3位に躍り出た(図表1の【付図】)。

その背景には様々な要素があるが、ロボットの需要サイドの直接的な原因として、中国の生産年齢人口の減少(図表2)と都市部労働賃金の上昇(直近10年平均10%以上の伸び、図表3)が真っ先に挙げられる。供給サイドから見ると、近年に至るまで中国ではハイエンドの産業機械または戦略的新興産業としてロボット産業の育成促進が重要視されてきた。その結果、比較的短い期間において大きな生産規模と技術能力を持つようになり、国内需要への提供だけでなく海外輸出にも対応できる実力を備えるようになった。

図表3 中国都市部従業員の平均賃金額推移 (2011-2023年) 図表4 中国政府によるロボット産業発展政策の展開動向中国のロボット産業の発展は、政府による産業政策の実施における財政的な支援が密接に関係していることが、多くの研究で明らかになっている。本稿でも、直近までの産業政策の展開動向や最新の発展計画の実施状況に留意しながら、製造強国の建設においても重要なカギを握る中国のロボット産業の施策強化とその期待、および市場展望について述べたい。

図表 4 は中国におけるロボット産業の育成促進に関する中国政府の政策展開動向をまとめている。本腰を入れ始めたのは「中国製造2025」が正式公布された2015 年5月以前の2013年ごろにまで遡る。同年12月の産業ロボット発展の推進文書の公布(図表4の№1)を始め、2014年3月に、特定の産業ロボット部品の輸入に対する補助金の付与などを明記する輸入商品目録(図表4の№2)を適用し、それ以降も財政支援プロジェクトが継続的に実施されてきた(図表4の№5~17)。

また、その間にロボット産業の5か年計画(図表4の№15.16)も策定・実施された。これらの産業計画は「中国製造2025」を支えるものとして機能してきた。特に、2023年1月には、新たに「ロボット+応用行動実施方案」が公布された。(図表4の№18)これは、各分野でのロボット利用の拡大促進を啓発し、需要の創出を図っている。図表5では同方案に基づく十大分野へのロボット応用展開の実施内容が示されている。ここでは、「経済発展領域」と「社会民生領域」に分けて細かく展開内容を明記しており、経済・社会全般におけるロボットの利活用の拡大を進めている。

また、同2023年の11月に、「人型ロボットイノベーション発展指導意見」という政府文書も工業情報化部から公布され(図表4の№19)、最先端分野のロボット産業において、技術イノベーション発展の促進に意欲を示した。その後も、2024年1月に複数の政府部門から「未来産業イノベーション発展の促進に関する実施意見」(図表4の№20)が公布され、人型ロボットを「未来産業」として明確に位置付け、その発展と応用を提起した。

2. ロボット産業におけるイノベーション施策の主旨と概要

多くの産業計画や指導意見は2025年にフォーカスしているが、ここでは主に直近に策定された「人型ロボットのイノベーション発展指導意見」(以下「指導意見」)と「未来産業イノベーション発展の促進に関する実施意見」(以下「実施意見」)を中心に紹介する。 

まず、図表6では、「指導意見」の骨子内容をまとめている。そして、図表7では同「指導意見」による研究開発実施事業の詳細をまとめている。注目すべきは、2023年の公表時点で、3年後の2025 年までの政策目標を明確に掲げ、さらに 5 年後の2027 年までの発展ビジョンも展望している点が注目に値する。またイノベーション発展にリストアップされた人型ロボット技術と製品は、広範かつ先端の隅々まで及んでいることも特筆すべきである。

さらに、未来産業のイノベーション発展促進を図る「実施意見」※2では、国家の重大な戦略ニーズと国民のより良い生活のニーズに応え、重要な技術設備研究プロジェクトの実施を加速するとしている。ヒューマノイドロボット(人型ロボット)、量子コンピューター、超高速鉄道列車、次世代大型航空機、グリーンスマート船舶、無人船などのハイエンド装備製品で突破口を開き、新技術の産業化を推進し、世界をリードするハイエンドな設備システムを構築すると謳っている。また、人型ロボットを、「革新的象徴的な製品」と位置付けて、ロボット用の高トルク密度サーボモーター、高度な動態的動作計画と制御、バイオニック知覚・認知、インテリジェントで器用な手、電子皮膚といったコア技術でブレークスルーを実現することで、インテリジェント製造、ホームサービス、特殊環境作業などの分野での製品開発と応用の推進に注力すると提起している。さらに人型ロボットの技術と関連して「脳コンピューターインターフェース」の技術開発を提起している。脳コンピューター融合、脳型チップ、脳コンピューティングの神経モデルなどの主要技術とコアコンポーネントを画期的に、さらに使いやすく安全な製品を開発することで、医療リハビリテーション、無人運転、仮想現実などの代表的な分野での応用探求を促進すると明記している。

3. 中国の産業ロボットの応用拡大と市場動向

冒頭でも触れたように、中国のロボット産業はすでに世界の中で大きなプレゼンスを占めている。その発展の現状を概観し、政府の産業政策とも関連付けて将来を展望することは重要である。ここでは中国の産業ロボットの業況と市場を概観する。

まず、産業ロボットの応用拡大を支えている中国国内のロボット生産台数が、顕著に増加していることは、図表8から明確に見て取れる。2023年(前年比2.2%の減少)を除いて、ロボットの出荷拡大が継続しており、中国の機械産業の重要な成長領域を担っている。 次に、図表9と図表10を通じて、中国と世界のロボット産業の売上高の推移を見比べ、その市場動向や特徴をとらえてみよう。

世界と中国の三種類のロボット(産業ロボット、サービスロボット、特殊用途ロボット)は、ここ10年ほどでいずれも右肩上がりで二桁成長を続けている。特に、中国の成長度合いがより大きく、サービスロボットの成長に関しては、中国と世界では異なる動向が見て取れる。世界では2021年にサービスロボットの売上高は産業ロボットを上回り、その伸び率も産業ロボットを超えて、特殊ロボットと拮抗している。一方、中国ではサービスロボットの市場規模が産業ロボットに次いでいるが、成長率としては産業ロボットの伸び幅が最も低い。対してサービスロボットの伸び率は 20%以上の水準を維持しており、特殊ロボットの伸び率も同様に、20%以上の水準を維持している年も多くみられる。つまり、中国ではこれまでの産業ロボット主体の市場から変化し、サービスロボットと特殊ロボットが急速に市場拡大してきたことが言える。しかしながら、産業ロボットが依然として中国最大のロボット市場を保てているのは、世界の工場として大きな産業規模に裏付けられているからであろう。

また、サービスロボットと特殊ロボットの急速な成長は、まさに中国の社会実状によるロボットへの新規需要の旺盛さを反映するものであり、今後の中国社会と産業のデジタル化発展に伴い、長期的にその勢いが続くであろう。図表11は世界と中国の三種類ロボットの市場規模(売上高ベース)を比較して示したものである。中国の三種類ロボット市場規模の勢いは、世界全体よりも概ね強く世界でのシェア(図表11の折れ線グラフ)も拡大し続けているのが分かる。特に産業ロボットは、2021年にいったんシェアが縮小するものの、2020年にはすでに世界の約半分を占め、2024年にも同水準を維持すると見られる。サービスロボット市場も2021年には世界の30%を占め、2024年には35%程度にシェアが上昇すると予測されている。

特殊ロボット市場の世界シェアの伸びは比較的緩やかであるものの、それでも2024年には25%まで拡大していくと予測される。なお、世界主要国・地域における産業ロボットの設置台数、市場評価額、世界シェアとの比較においても中国は突出している(図表12と図表13)。その背景には、図表14の設置台数上位10か国のユーザー動向からもわかるように、中国が世界製造業の3分の1を占め、中国最大の2大成長産業である自動車と電気・電子産業に利用されるロボットの数が最も多いことは自明である。

これだけの産業規模拡大が続いている反面、中国の産業ロボットの供給水準はまだ不十分であり、毎年海外から多くの輸入を続けてきている。図表15のように、中国の産業ロボットの貿易収支は大きなマイナスで推移しており、直近の2023年に輸入額が最高記録を示したと共に、輸出入において最大の赤字額に達している。一方、中国地場系ロボット製品の供給比率が伸びつつあり、2023年には50%に迫っている(図表16)2※3。これは中国のロボット製造技術と設備能力の増強と、従来の一般の産業ロボットにとどまらず、知能型や人型ロボット産業への発展のための重要な基礎条件にもなっている。

4. 人型ロボット産業への取り組み加速と市場展望(結びに代えて)

2022年11月のChat GPTのリリースにより、生成AIの利用による知能ロボットの研究開発が活発化し、いわゆる人型ロボット(ヒューマノイドロボット)の開発が世界中で盛んになり、急速な進化が見られてきた(図表17)。 中国でも政府のイノベーション発展の推進策が追い風となり、研究開発が広く行われ、試作品だけでなく、商業化生産や自動車工場への導入利用も始まった。2024年は中国の人型ロボット元年と言われたように、AI技術に加え、急速に進化する中国の人型ロボット技術が世界的な注目を集めている。市場規模は2024年に27.6億元(約570億円)であったが、2035年には数千億元規模に成長すると予想されている(「時事速報」2025.2.21)深セン市に設立されている「高工机器人产业研究所」(GGII)の作成した「中国人形機器人発展藍皮書(2024)」では、中国人型ロボットの発展動向を詳細に研究分析し、2024年 から2030年までの中国および世界の人型ロボット市場の急成長を予測している※4。

図表18 は中国の人型ロボット市場の成長を予測するもので、世界の拡大傾向と一致している。市場規模は2030年に向けて急速に拡大し、2024年の10億元から2030年には150 億元に達する見込みである。販売台数も 2024 年の 1 万 2 千台未満から 2030 年の60.5 万台へと大きく増加する見込みである。大きな市場発展を支える要因として、中国の各分野、特に人口高齢化によるスマート養老介護の需要拡大と、イノベーションによる製品機能の向上と供給価格の低減が挙げられる。2030年の人型ロボットの単体価格は2024年の54万元から14万元に低下する(現在の約4分の1の値段で求められる)と予測されている。この価格低下は、人型ロボット製品技術におけるイノベーションの発展成果によるところが大きいことは言うまでもない。

実際、中国では人型ロボット産業における投融資活動も2023年に大きく拡大し、現在も続いている(図表19)。また人型ロボット技術のイノベーションの成果として、中国の技術特許の出願件数と保有件数のいずれも日本企業に比肩する水準になっている。(図表20)、世界上位 15 社の人型ロボットの特許保有数でも中国企業が約半分の7社がランクインしている(図表21)。特に優必選科技社は、世界最大の人型ロボットの特許技術を保持しており、中国の人型ロボットのイノベーションをリードしている。

無論、日本企業も世界の人型ロボットにおける出願件数は先駆者的な存在であり、本田をはじめ、トヨタ、セイコーエプソン、ソニーなども各分野において多数の特許を出願して強い技術力を示している(図表22)。日中両国の企業間に相互補完的になっているところが多く存在しており、競争よりも協業の可能性がより高く、両国民の生活改善と福祉向上に資するものとして、日中企業が協力できる潜在性が高い分野の一つだと考えられよう。

未来産業である人型ロボット産業は大きな可能性と将来性に満ちている。それだけに、同分野における日中間の技術交流と研究協力が今後盛んになることが期待されており、中国政府のイノベーション発展政策においても歓迎されている。中国工業情報化部直属のシンクタンクである中国通信院の最新レポートに掲載されている、人型ロボットのキーテクノロジーにおける三大アクチュエータのサプライチェーン(図表23)のように、今後中国人型ロボットの技術研究と製品開発もサプライチェーンの整備構築に照準・注力することが求められている。

前掲図表7に示す多数の主要製品・部品及び関連素材の開発が加速され、中国地場の「専精特新」企業だけでなく、様々な民営・外資系企業の参入協業が望まれている。中国の市場規模と資源および政府の支援策のもとでプロダクトとプロセスの両面においてオープンイノベーションの成果拡大が実現され、新産業・新領域における企業発展と経済成長につながるであろう。

中国はこれまでの経済成長や産業発展で培われてきた経験や技術力をもとに、世界の最先端の産業領域の開拓と製品技術の開発に取り組んできている。DX・GXの進展を活かして、ロボット産業分野においても新たなイノベーション発展の成果を収め、世界に貢献することが期待されている。

※1  IFR(国際ロボット連盟)などによれば、中国は2013年からすでに世界産業ロボットの最大市場になり、今日に続いている。直近の2021年の中国産業ロボットの導入数が27万台近くに達し、世界全体の半分強(52%)を占めており、2019年の38%、2020年の45%より大きくシェア拡大をしている。2023年に中国で導入された産業ロボットの台数が27.63万台で世界全体の51%を占めた(IFR統計)。

※2  未来産業のイノベーション発展の施策は習近平国家主席が2023年9月に提起した「新質生産力」の発展促進を踏まえて公布・実施されたものである。

※3  中国のロボット輸入量(台数)と金額の双方において日本が最大のプレゼンスを保ち続けてきている。これについて本誌2023年6月号の関連記事を参照されたい。中国産業ロボットの自給率について2023年すでに50%を超えたとする報道も見られている。また、張紅詠「日本を急追する中国のロボット産業―政府も支援,国産コア部品など課題」(遊川和郎・湯浅健司/日本経済研究センター編著『新中国産業論―その政策と企業の競争力』文眞堂、2024年7月)による研究でも、近年における日中のロボット産業の売上高成長率、労働生産性成長率および研究開発(R&D)集約度において中国企業はすでに日本企業を上回っていると指摘されている。

※4  前述の「時事速報」より若干控えめな予測になるが、あるいは市場発展は思った以上に速いとも言うべきであろう。米投資銀行大手モルガン・スタンレーの最新報告書によれば、中国の人型ロボット産業の規模は欧米をリードしており、人型ロボットの開発に携わる上位企業100社のうち、56%が中国に拠点を置いているという。

※1IFR(国際ロボット連盟)などによれば、中国は 2013 年からすでに世界産業ロボットの最大市場になり、今日に続いている。直近の 2021 年の中国産業ロボットの導入数が 27 万台近くに達し、世界全体の半分強(52%)を占めており、2019 年の 38%、2020 年の 45%より大きくシェア拡大をしている。2023 年に中国で導入された産業ロボットの台数が 27.63 万台で世界全体の 51%を占めた(IFR 統計)。

※2 未来産業のイノベーション発展の施策は習近平国家主席が 2023 年 9 月に提起した「新質生産力」の発展促進を踏まえて公布・実施されたものである。

※3 中国のロボット輸入量(台数)と金額の双方において日本が最大のプレゼンスを保ち続けてきている。これについて本誌 2023 年 6 月号の関連記事を参照されたい。中国産業ロボットの自給率について 2023 年すでに 50%を超えたとする報道も見られている。また、張紅詠「日本を急追する中国のロボット産業―政府も支援,国産コア部品など課題」(遊川和郎・湯浅健司/日本経済研究センター編著『新中国産業論―その政策と企業の競争力』文眞堂、2024 年 7 月)による研究でも、近年における日中のロボット産業の売上高成長率、労働生産性成長率および研究開発(R&D)集約度において中国企業はすでに日本企業を上回っていると指摘されている。

(文;邵 永裕)

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みずほ銀行 中国営業推進部

特別研究員 邵 永裕 Ph. D. :  yongyu.a.shao@mizuho-bk.co.jp

出典:MIZUHO BUSINESS MONTHLY 2025年3月号 P9-17