自動車メーカー・吉利汽車の創業者である李書福氏が、「車の中でも携帯電話がいるのか」という“中国の恥”を変えようと考えた。
中国工程院のアカデミー会員・王堅氏は2017年、あるフォーラムで、「車の中でも携帯が必要、だなんて自動車メーカーの恥だ」と発言し、スマートモビリティが遅れていることを強く批判した。
それから5年が過ぎたが、王氏の期待したような変化は起きていない。スマートフォンの車載ホルダーは通販でよく売れているが、新車を買っても、カーナビが別途必要、あるいは音楽ソフトが使いにくい、また機能が不十分、通信が悪い、といったことに悩まされる。
李氏はこうした状態を改めるべく、スマホの製造に乗り出した。
吉利は2021年9月、湖北省武漢に高級スマホの製造会社を設けて世界に売り出す、と発表した。それから半年余りが過ぎでようやく、スマホメーカー「魅族」の買収に向けて決済を進める段階に至った。
「車なんてタイヤ4つにソファー2列」との意気込みでクルマ作りに果敢に挑んだ李氏は今や、中国の実業界における「冒険王」となっている、ボルボ、プロトン、ロータス、Smartなどの外国ブランドを買収したほか、ベンツの筆頭株主にもなっている。
しかし、今回のスマホ製造進出については期待の声が少なく、家電メーカーのグリーの二の足を踏むと見られている。グリーの董明珠社長が7年前に、家電接続型のスマホを打ち出そうと試みて三代にわたり機種を発表したが、市場を賑わせるには至らず、ビジネス界における異業種コラボの典型的な失敗例となってしまった。
自動車のスマート化やコネクティッドが進むなか、シャオミ、ファーウェイ、アップルなどのスマホメーカーが自動車業界で急速に浸透しているが、自動車からスマホへの進出という「逆転思考」は、吉利が初めてである。
スマホの製造は完全な激戦状態であり、上位10社がマーケットシェアの9割以上を占めている。こうした中で、民間の自動車メーカーが高級スマホに参入して、今の高級機種から切り替えさせようとするのはなおさら至難のわざである。
MP3に端を発したスマホ「魅族」はマイナーブランドであり、2015年にアリババから5.9億ドルの出資を受け、ジャック・マー氏が「3年以内にスマホ市場のベスト3入り」という目標を掲げたが、かなわずに後退していった。そこで、「マー氏は魅族を救えなかったが、李氏はいけるかな」との声も上がっている。
(中国経済新聞)