中国経済が深刻な下振れ圧力に直面する中、市場には多くの動揺が広がっており、とりわけ自動車市場では新たな値下げの波が起き、それが車載電池、AI、半導体などの産業にも連鎖的な影響を与えている。
中国電子産業を代表する企業である華為(ファーウェイ)も、こうしたプレッシャーに晒されているのだろうか?
6月上旬、華為の創業者であり会長の任正非氏は、人民日報のインタビューに応じ、次のように語った。
Q:外部からの封鎖や圧力、困難に直面して、どのような思いを抱いていますか?
任氏:考えても仕方がない。困難について考えるよりも、ただ前に進むしかない。一歩一歩、やるだけだ。
Q:昇騰チップ(AIチップ)が使用リスクを「警告」されたことについて、影響はありますか?
任氏:中国にはチップを開発している企業が多数あり、多くは素晴らしい成果を上げている。華為はその一つにすぎない。アメリカは華為の実力を誇張している。我々はそこまで強くない。努力しなければ、彼らの評価に見合う水準には到達できない。
単体チップではまだアメリカに一世代遅れている。我々は、数学で物理を補い、非モア則でモア則を補い、クラスター計算で単体チップを補っている。結果的には実用レベルには達している。

Q:もし課題があるとすれば、どこにありますか?
任氏:困難は常にある。刀耕火種の時代に困難がなかっただろうか?石器時代はどうか?石器で暮らしていた人々が、高速鉄道を想像できただろうか?
中国は中・低性能チップにおいてチャンスがある。数十社、数百社のチップ会社が懸命に努力している。特に化合物半導体にはより大きな可能性がある。
ソフトウェアは「喉元を締められる」ような分野ではない。数学の記号やコードによって構成される世界であり、尖端のアルゴリズムを積み重ねたものだ。障壁は存在しない。
最大の課題は、教育・人材の育成体制だ。将来的には、数百、数千種類のオペレーティングシステムが中国で生まれ、産業・農業・医療などを支えることになる。
Q:現在、華為に対して称賛の声が多く上がっています。
任氏:褒められるとプレッシャーは増す。少し批判されるくらいが、ちょうど良い。我々が提供しているのは商品であり、使う人がいれば当然批判もある。それは正常なことだ。真実を語っている限り、批判であっても我々は支持する。
称賛にも非難にもこだわらず、大切なのは自分たちの仕事をしっかりやり遂げること。それができれば、問題はない。
Q:困難や批判に対する向き合い方から、強い精神力を感じます。
任氏:我々を褒めてくれる人は多いが、本当に理解されるべきは理論研究に取り組んでいる人たちだ。彼らの仕事は非常に高度で、一般の人には理解されにくい。成果が出るまでに数十年、あるいは百年かかることもある。
意味もなく彼らを非難するのは、国家の長期的発展にとってマイナスでしかない。彼らの崇高な志、黙々とした努力こそが、国家の未来を担っている。誰かを持ち上げて、誰かを貶めるようなことはしてはならない。
Q:基礎理論研究をどのように捉えていますか?
任氏:我が国がある程度の経済力を持つようになった今、理論研究、とりわけ基礎研究を重視すべきだ。基礎研究は5~10年では済まない。10年、20年、あるいはそれ以上かかる。基礎がなければ、どんなに繁栄しているように見えても、風が吹けば倒れてしまう。
海外製品が高価なのは、その価格に基礎研究への投資が含まれているからだ。中国が基礎研究をしなければ、その分、他国にお金を払うしかない。
Q:「その研究、何の役に立つのか」と問われることもあります。
任氏:科学のブレイクスルーは、理解できる人が少ないのが常だ。理解できないなら、評価することも控えるべきだ。
アインシュタインが「光は曲がる」と提唱したのは、100年後にようやく証明された。中国には、1940年代に野生の果実「サンザシ」がビタミンCの王様であることを発見した農学者・羅登義がいる。当時の社会は抗日戦争中で、教育水準も低かったが、彼はその研究成果を論文にまとめた。そして数十年後、サンザシ飲料は高級品として市場に登場し、農民の貧困脱却にも貢献している。
Q:一見無関係に見える研究も、最終的には大きな意味を持ちます。
任氏:理論科学者は孤独な存在だ。我々は戦略的な忍耐を持って彼らを理解しなければならない。
青蒿素を発見した屠呦呦、科学に生涯を捧げた黄大年ーー彼らはみな、自らの頭脳で数式や理論を組み立てている。彼らの理解者はごく少数だ。だからこそ、社会は彼らを尊重し、国家は支援しなければならない。
Q:基礎研究には時間がかかりますが、企業は成果や利益を求めます。
任氏:我々は年間1800億元(約3・6兆円)を研究開発に投じている。そのうち約600億元が基礎理論研究で、成果の評価はしない。残り1200億元は商品開発に充て、こちらはしっかりと評価する。
理論がなければ、ブレークスルーもなく、アメリカに追いつけない。
Q:「黄大年茶思屋」というプロジェクトがあるそうですね。
任氏:黄大年は偉大な科学者だ。彼の存在は湾岸戦争の際、アメリカ軍が使用した兵器技術から知ることになった。戦闘開始と同時に、サダム・フセインの兵器が正確に破壊された。それを可能にしたのが、彼の探鉱技術だった。
彼は英国を辞めて帰国し、吉林大学の教員となった。40平米の部屋を借り、無料のコーヒーを提供し「一杯のコーヒーで宇宙のエネルギーを吸収する」という「茶思屋」を設けた。
我々は彼の家族の承認を得て、その名前で非営利のネットワークプラットフォーム「黄大年茶思屋」を立ち上げ、世界中の科学情報を無料で公開している。基礎理論研究の「喇叭口(ラッパ口)」として、多くの大学と連携している。これはすべて戦略的な投資であり、評価の対象とはしていない。
Q:米経済学者リチャード・ウルフらは、中国のような高速鉄道インフラがアメリカにないのは、資本主義が利益優先であるためだと指摘しています。
任氏:なぜ「儲からないこと」は社会主義でしかできないのか?社会主義の目的の一つは、社会の発展を図ることにある。
中国が採用している社会主義市場経済体制は、偉大な試みだ。高速鉄道、高速道路、ダム、水力発電……これらは社会主義市場経済の枠組みでなければ実現できなかった。
Q:人工知能の将来について、どのように見ていますか?
任氏:人工知能は、おそらく人類社会における最後の技術革命となるだろう。ただし、将来的に核融合エネルギーがそれに続くかもしれない。
AIの発展には数十年、数百年かかる。だが心配はいらない。中国にも多くの優位性がある。
Q:どのような優位性ですか?
任氏:中国には数億人の若者がいる。彼らこそが未来を担う存在だ。
習近平総書記が「国家の強盛は文化の興隆に支えられる」と語ったように、AIの技術的要点は、十分な電力と情報網が必要だ。中国の電力供給と通信ネットワークは世界有数のレベルで、「東数西算」の理想も実現可能だ。
Q:その他の優位性は?
任氏:チップ問題を心配する必要はない。重ね合わせやクラスタ計算などの手法を用いれば、結果の面では最先端に匹敵する。
ソフトウェアについても、今後は何百、何千種類ものオープンソースソフトが、社会全体の需要を満たすことになるだろう。
Q:中国の未来をどう見ていますか?
任氏:フリードマン氏は我々の会社を去った後、自分で二等席の高鉄チケットを買って、中国の実態を体験し、記事「私は未来を見た、それはアメリカではなかった」を書いた。
Q:彼はこう述べていました。「中国製造業の強さは、安価で高品質な製品を生産できるだけでなく、より速く、より良く、よりスマートに製造する力がある。人工知能の導入も急速だ」と。
任氏:根本的には、アルゴリズムはITエンジニアの手にあるのではなく、電力専門家、基礎建設者、石炭技師、医療関係者など、各分野の専門家が握っている。
実践の場面では、中国の製造業はAIの応用が非常に速く、多くの中国モデルが生まれることになる。
Q:開放と発展について、どのように考えますか?
任氏:中国はますます開放的になっており、それが我々をさらに進化させる。党の指導の下、行政の統一性があり、政令が全国に行き届く。統一市場の形成も可能であり、いかなる封鎖も打ち破り、偉大な復興を実現することができる。
(中国経済新聞)