配車運転手、脳に傷害を抱えた息子と客を同乗 3か月で1800回謝罪

2023/10/4 17:30

「すみません。助手席にいるのは息子で病気なんです。キャンセルしてもいいけれど、くれぐれも訴えないで下さい……」重慶で配車の運転手をしている53歳の易和平さんは、済まなそうに乗客に謝り続けている。脳性まひを患っている25歳の息子をもう3か月以上も乗せたまま車を走らせ、これまでおよそ1800人の乗客に謝罪をしている。

易さんはかつて「社長」であった。かなり早期である1996年に広東省深センで通信機器の会社を立ち上げ、のちに業界が下火になって不動産が伸びてきたころに建設業界に足を踏み入れ、ネットショッピングが流行り出したころに物流事業に手を出した。しかし2015年、投資に失敗して損失を蒙った上、建設現場や物流会社で立て続けに事故が発生して多額の出費をした。失意に陥った易さんは家族も顧みなくなり、離婚してしまった。

乗客はみな、助手席にいる易さんの息子を見ると、いぶかしげにナンバーを何度も確かめた上、目をむいて「乗り合いだったっけ?」などと尋ねる。すると易さんは慌てて客を脇に寄せて小声で訳を説明する。理解してくれる人もいればキャンセルする人もいる。一番心配なのは訴えられること、と易さんははっきり言う。少し前、指定の場所で乗せた複数の客を後部座席に押し込むことになってしまった。易さんは許しを得ようと運転しながら訳を説明し続けたが、渋滞にはまってしまい、乗客は気分が悪くなった挙句、下車してしまった。その後まもなく「知らない人と乗り合った」とのクレームが届き、易さんは罰金を科せられ、アカウントが3日間閉鎖された。

息子を乗せて走らせる易さんに対し、善意を示す乗客も多く、中には「牛乳でも買ってやって」とお金を渡してそそくさと立ち去る人もいた。また、到着後に料金を払う際、アプリでひそかにチップを送金する人もいた。易さんは、「今は十分満足だ。息子が生きているだけでいい」と話している。

(中国経済新聞)