陝西省西安市新荘村で8月8日、5人が乗っていた乗用車が道路わきのガードレールを突き破ってダムに転落し、近くにいた重慶省出身の農家の蒋正全さん(44歳)ら3人の男性が駆け付けて全員を救助したが、蒋さんは水中で力尽きて死亡した。この知らせは中国全体に伝わり、勇気ある行動に対して続々と見舞い金が寄せられている。
目撃者によると、現場から200メートルあまり離れた所にいた蒋さんと仲間の程心燦さん、秦建平さんは、車が衝突して水中に転落した音や叫び声を聞き、すぐに道路から林を突き抜けて水辺に駆け付け、そのまま水中に飛び込んで車の方に泳いでいったという。
その後蒋さんは、窓から救い出された女の子を抱き上げて水を飲ませないよう肩にのせ、頭を沈めたまま岸へと泳いでいき、駆け付けた地元の人がロープを使ってこの女の子を岸に上げた。さらに沈みゆく車の窓から残りの4人をわずか数分間で救い上げ、車はその後にダムの底へと沈んでいった。
別の目撃者によると、蒋さんは最後の1人を助ける際に、投げられたロープをつかませようと背中を踏ませたとのことである。そして結局、最後に力尽きて水中に沈んでいった。
救助された周さんは、当時の様子を思い浮かべて、「もう駄目だ、死んでしまう、と思っていた所でこんなにいい人がいたなんて。迷いもせずに家族全員を助けてくれた。みんなに次の命を与えてくれたの……」と涙ながらに語り、家族そろって蒋さんの通夜に出席した。
重慶市の山あいで農業に従事している蒋さんは、出稼ぎで西安市に来ていた。1か月余りで重慶市江津区の小学校に入学する7歳の息子には、一仕事終えて大型連休の10月の国慶節には帰省して一緒に過ごそう、と約束していたが、それは永遠に果たせぬものになってしまった。
有名人でもなかった蒋さんは、命を他人に譲り渡した人物として、古都・西安に感動を巻き起こし、地元市民も勇気ある行動に胸を打たれた。身代わりで命を落とした英雄を偲ぼうと、事故現場には慰霊台まで設けられた。
当時の模様を捉えた動画が8月10日に配信され、全国各地から数えきれないほどのアクセスを招き、蒋さんの勇気ある行動をほめたたえるコメントが寄せられた。
また、各地から見舞いのお金なども続々と集まっている。募金をしたというあるネットユーザーから、「わずかなお金だが残された子供のために使ってほしい。自分も出稼ぎで、一家の大黒柱であると重々承知している。このような行動を受け継ぎ、ご家族のために少しでも役に立ちたい」といったコメントも寄せられた。
西安市政府はこの件で、蒋さんに対し「人命救助の英雄」との肩書を与えた。
(中国経済新聞)