国際データコーポレーション(IDC)が発表した「Worldwide Quarterly Wearable Device Tracker」によると、2026年第2四半期(4~6月)の世界のウェアラブルデバイス市場における腕時計型デバイスの出荷台数は4801万台となり、前年同期比4.3%減少した。
内訳を見ると、スマートウォッチは3708万台で同4.2%減、スマートバンドは1092万台で同4.7%減となった。これまで市場成長をけん引してきたスマートウォッチやスマートバンドの成長が鈍化するなか、業界では「端末側のAI(人工知能)」と「画面を持たない新たなウェアラブルデバイス」という2つの方向から、新たな成長機会を探る動きが強まっている。
これまでスマートウォッチのAI機能は、スマートフォンとの連携やクラウド上の大規模言語モデル(LLM)に依存するケースが多かった。スマートウォッチは主にデータを収集し、音声入力の窓口となり、処理結果をユーザーに提示する役割を担ってきた。
こうした構造に変化をもたらそうとしているのが、端末側でAI処理を行う「エッジAI」だ。
2026年3月には、クアルコムがNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を統合したウェアラブル向けプラットフォーム「Snapdragon Wear Elite」を発表。AI処理に特化した半導体が、スマートウォッチの性能向上を支える重要な要素になりつつある。
大手メーカーも、汎用的なAI処理を担う高性能な演算基盤から、特定機能に最適化した軽量AIエンジンまで、さまざまなレベルのAI処理能力を製品に組み込む動きを見せている。
端末側でAI処理を行うことで、クラウドやスマートフォンを経由する方式と比べ、応答速度の向上や電力効率の改善が期待できる。また、個人情報や健康データなどを外部に送信する必要性を減らせるため、プライバシー面でもメリットがある。
さらに、スマートウォッチには心拍数、睡眠、運動、活動量など、多様なセンサーが搭載されている。これらのデータをAIが継続的に分析することで、単純な音声コマンドの認識にとどまらず、ユーザーの状態や周囲の環境、さらにはユーザーの意図まで理解する方向へ進化する可能性がある。

もっとも、AIがそのまま市場の成長エンジンになるとは限らない。IDCは、スマートウォッチにおけるAI活用について、単なる「機能強化」から「高い価値を生み出す利用シーン」の創出へ進めることが重要だと指摘している。
現時点では、スマートウォッチでAIを活用できる場面はまだ限定的だ。小さな画面や限られた操作方法、モデルの処理能力など、スマートフォンとは異なる制約も存在する。
そのため、AIを搭載したという事実だけでは、ユーザーが新しいスマートウォッチに買い替える理由にはなりにくい。
求められるのは、スマートフォンでは実現しにくく、なおかつ日常的に利用する頻度が高い「スマートウォッチならではのAI体験」だ。
例えば、ユーザーの健康状態や運動状況を継続的に把握し、その時々の状態に応じて具体的なアドバイスを提供するなど、ウェアラブルデバイスならではのセンサーデータとAIを組み合わせたサービスが鍵になるとみられる。
もう一つの成長領域として注目されているのが、ディスプレイを搭載しない「画面なし」ウェアラブルデバイスだ。
画面を持たないスマートバンドやスマートリングは、軽量で装着時の負担が少なく、長時間のバッテリー駆動が可能で、通知などによる干渉も抑えられる。「存在を意識させない」「生活を邪魔しない」ウェアラブルデバイスを求めるユーザーにとって、新たな選択肢になりつつある。
なかでもWhoopのスマートバンドは、ハードウェアの販売だけでなく、健康データの分析やサービスを組み合わせたサブスクリプションモデルによって成長している。
ただし、画面なしデバイスの価値はハードウェアそのものだけでは決まらない。センサーから取得したデータをどのように分析し、ユーザーにどのような価値として還元するかという、ソフトウェアやアルゴリズム、継続的なサービス提供が重要になる。
そのため、短期的には従来型のスマートバンドを置き換え、幅広いユーザー向けの主力製品になるまでには時間がかかるとみられる。
世界市場では、ファーウェイのウェアラブルデバイスが引き続き出荷を伸ばしている。Watch Fitシリーズや「星鑽綻放」(Star Diamond Blooming)モデル、キッズ向けスマートウォッチなど、複数の新製品を投入し、ユーザー層や用途の細分化に対応している。
シャオミ(Xiaomi)はスマートバンドとスマートウォッチの双方で製品展開を強化しながら、製品ラインアップの高付加価値化を進めている。
AppleはApple Watchの価格戦略や地域市場の開拓を通じて、新たな需要の取り込みを図る。Garminは、強みであるスポーツ・フィットネス分野を軸に、専門性を武器としてユーザー層を広げている。
また、中国のBBKはキッズ向けスマートウォッチ市場を深耕するとともに、「imoo」ブランドを通じて海外市場での展開を加速している。
このように、各メーカーは同じウェアラブルデバイス市場に参入しながらも、AI、健康管理、スポーツ、キッズ、地域展開など、それぞれの強みを生かした成長戦略を描いている。
IDCは、ウェアラブルデバイス市場の次の成長が、単一のハードウェア革新だけによって生み出されるものではないとみている。
AIチップは「より高度なAIを実行できるか」という技術的な問題を解決する。一方で、市場を実際に成長させるためには、「ユーザーがAIのために新しい端末へ買い替えたいと思うか」という問いに答えなければならない。
メーカーに求められる戦略も一様ではない。ハードウェアやエコシステムに強みを持つ企業は、AIによって生まれる買い替え需要を掘り起こすことが重要になる。健康データやアルゴリズムに強みを持つ企業は、画面なしデバイスと継続的なサービスの組み合わせが有力な選択肢となる。
一方、ハードウェアの販売規模を強みにしてきたメーカーにとっては、長期的な運営が必要となるサブスクリプションモデルへの移行は慎重に見極める必要がある。
市場全体が成熟局面に入るなか、今後の競争軸は「どれだけ多機能なデバイスを作れるか」から、「取得したデータとAIを使って、ユーザーにどれだけ明確な価値を提供できるか」へと移りつつある。
スマートウォッチ市場の成長が一服するなか、AIと画面なしウェアラブルデバイスが新たな成長の芽となるのか。今後は、技術そのものよりも、それを日常生活の中でどのような価値へ変換できるかが、メーカー各社の成否を左右しそうだ。
(中国経済新聞)
