7月24日、中国財政部と国家税務総局は「オフショア信託に係る個人所得税に関する事項についての公告」(2026年第21号)を突然発表した。全文は4000字に満たない短い文書だったが、その日のうちに施行され、移行期間は一切設けられなかった。国内の家族事務所やクロスボーダー税務事務所は週末を通して徹夜で対応に追われ、信託の変遷履歴を洗い出し、再編案を検討する動きが相次いだ。タイトルに掲げられる1900億元(約4兆4986億円)という数字は、市場が推計するトップ層の潜在税負担の規模感を象徴している。
この措置の本質は、過去20年にわたって中国の富裕層が「標準装備」としてきたオフショア信託という仕組みに、ようやく税務上の「車のドア」を完全に溶接したことにある。
なぜオフショア信託が「免税の金庫」になったのか
オフショア信託の仕組みを簡単に言えば、こうだ。国内で保有する不動産や会社株式を、ケイマン諸島や英領ヴァージン諸島などの信託に「移す」。法律上、資産の名義は信託の受託者に移るため、国内の個人名義からは消え、国内での課税対象から外れる。信託が生む収益も、低税率・高秘匿性のオフショア地域では原則として課税されない。配当を国内に還流させない限り、株式の含み益も配当も相続も、中国側で課税されないーー少なくとも、実務上はそう運用されてきた。
