技術革新が切り開くエアコン市場の新領域 「すき間市場」が成長の突破口に

2026/08/13 08:30

中国のエアコン市場が構造的な転換期を迎えている。新築住宅や初回購入を追い風とした従来型の成長が鈍化する一方、メーカー各社はAIやIoTなどの技術革新を武器に、これまで十分に対応できていなかった特殊な需要を掘り起こし、新たな成長市場を開拓している。

奥維雲網(AVC)によると、2026年の中国国内のセパレート型エアコン小売市場は前年比6.9%減の2兆1950億元(約50兆4850億円)まで縮小する見通しだ。都市部では100世帯当たりのエアコン保有台数が176台、農村部でも112台に達しており、新築住宅や初回購入に依存した市場拡大は限界に近づいている。

しかし、市場の縮小は需要の消失を意味しない。これまで既存の製品では対応が難しかった「すき間市場」に目を向け、技術によって新たな需要を取り込む動きが広がっている。

写真は、海爾(ハイアール)の膠州エアコン連結工場で、欧州向け製品の生産ラインを稼働する産業用ロボット。

欧州の「穴を開けられない住宅」に商機

その代表例が欧州市場だ。今年の夏、欧州では記録的な猛暑に見舞われた一方、エアコンを設置している家庭は約20%にとどまる。

その背景には、古い建物では壁に穴を開けることが禁止されているケースが多いことや、高額な設置費用、賃貸住宅で大掛かりな改修を避けたいという事情がある。

こうした課題に対応するため、美的集団は「PortaSplit」シリーズを投入した。窓枠に取り付けられる穴開け不要の専用ブラケットを採用し、低騒音・低振動技術を組み合わせることで、ユーザー自身が約10分で設置できるようにした。

2026年上半期、美的の欧州市場における出荷台数は20万台を突破した。

海爾(ハイアール)も欧州市場で、メンテナンスのしやすさを重視した「Expert」シリーズを展開。「1本のネジ」で分解できる設計により、従来数時間かかっていた設置作業を約30分に短縮した。

海信(ハイセンス)は、欧州住宅にあらかじめ埋め込まれている配管に対応するよう「U6」シリーズの内部構造を改良。設置効率を35%高め、フランス市場では販売台数が倍増したという。

「暑すぎるキッチン」や高齢者向けにも

中国国内でも、特殊な生活環境に合わせた製品開発が進む。

夏場のキッチンは、高温、油煙、低い天井という三つの課題を抱える。海爾は単純な防油コーティングではなく、空気循環システムそのものを再設計。独立した二重循環構造と耐油汚れ熱交換器を採用し、レンジフードの近くでも安定して稼働できるエアコンを実現した。

また、長距離トラック向けには24Vの車載一体型駐車用エアコンが登場。アイドリングしながらエアコンを使用することで燃料を消費するというドライバーの悩みに対応している。

格力電器は、リモコンのボタンを減らし、音声案内機能を搭載した高齢者向けエアコン「馨天翁」を開発。冷えを感じやすい、視力が低下しているといった高齢者特有のニーズに対応する。

AIとロボットで「エアコン」の概念も変化

さらに、AIやロボット技術との融合によって、エアコンそのものの概念も変わりつつある。

2026年中国家電・消費電子博覧会(AWE)では、MOVAがAI搭載の移動式エアコンロボットを発表。ミリ波レーダーや多次元センサーを活用し、人の動きを追いながら空気を届ける仕組みを採用した。

追覓(ドリーミー)も、ロボット掃除機で培った高速モーター、AIビジョン、レーダー、ロボットアーム制御などの技術をエアコンに応用し、冷房技術と先端ロボット技術を融合させている。

奥維雲網のデータによると、2026年8月の中国国内向けエアコン生産計画は前年同月比13%減、輸出向けも1.2%減となり、全体では8.5%減少する見通しだ。6月の小売市場も販売台数が20.7%減、販売額が22.2%減と低迷している。

猛暑だけでは市場全体を押し上げることが難しくなった今、メーカーにとって重要なのは「暑いから売れる」という従来の発想から脱却することだ。

大衆市場から「すき間市場」へ

中国家用電器協会の王雷・事務局長は、市場にはなお掘り起こす余地があるとして、従来の買い替え需要を確保すると同時に、新たな市場を積極的に開拓する必要性を指摘している。

現在、エアコン業界では、乳幼児のいる家庭、高齢者世帯、ペットを飼う家庭、欧州の旧式住宅、トラックの駐車時、民泊・賃貸住宅、太陽光発電を導入した住宅、工業用基地局など、さまざまな「すき間市場」が生まれている。

こうした市場では、単なる価格競争ではなく、それぞれの利用環境に合わせた技術開発が求められる。

これまでのエアコン業界では、生産規模や販売網、冷暖房性能などが競争力を左右してきた。しかし、AIやIoTの普及によって、競争の軸は個別製品の性能から、ユーザーの状況を理解し、最適な空気環境を提供するシステムへと移りつつある。

奥維雲網の郭梅徳総裁は、AIエアコンの究極形は「ユーザーの感情まで理解する環境サービスロボット」になるとの見方を示す。

市場が縮小する中、メーカーが大衆市場だけでシェアを奪い合えば、価格競争によって利益がさらに圧迫される。これに対し、特定のユーザーや利用環境に焦点を絞り、技術力を生かして高付加価値製品を開発することで、新たな市場を生み出す余地がある。

中国のエアコン業界では今、「大量生産・大量販売」から「技術による細分化・高付加価値化」への転換が進んでいる。縮小する既存市場の中から、技術革新によって新たな「ブルーオーシャン」を切り開けるかが、今後の企業競争を左右しそうだ。

(中国経済新聞)