近年、中国のスマートイメージング産業は目覚ましい発展を遂げている。特に、無人機(ドローン)と関連カメラ分野で、大疆創新(DJI)と影石創新(Insta360)の2社が激しい競争を展開している。66月10日、この対立は米国で新たな局面を迎えた。大疆は影石の新製品「Luna Ultra」クラウド台カメラに対し、米国テキサス東部地区連邦地方裁判所マーシャル支部に提訴。影石の製品が大疆の4件の実用特許を侵害したと主張した。訴訟のタイミングは象徴的だ。同日、影石は自社初のクラウド台カメラ「Luna Ultra」を正式発表し、大疆が長年深耕してきた市場に直接参入したのだ。
翌11日、大疆は追加訴状を提出。Luna Ultraの全体的な視覚印象が自社「Pocket3」との外観設計特許に実質的に同一であるとして、2件の外観設計特許侵害を主張した。これに対し、影石も迅速に反撃。11日、同裁判所に2件の訴状を提出し、大疆のクラウド台カメラや全景カメラなどが自社特許を侵害したと主張した。対象技術は、クラウドプラットフォーム安定化、指向制御、カメラ平滑防振、運動データ重ね合わせ、全景ビデオ防振など多岐にわたる。双方とも故意侵害の認定を求め、輸入・販売の仮処分および永久禁令、損害賠償、弁護士費用の負担を要求している。

この特許戦争は両社の初対決ではない。2026年3月、大疆は国内で影石に対し、無人機関連特許の権利帰属を巡る訴訟を提起していた。当時は影石の初号機全景ドローン発売からわずか3ヶ月後だった。今回、戦火が海外に拡大した背景には、大疆の海外市場戦略や米国の規制圧力があると見られる。
両社の企業概要と事業展開
大疆は世界最大の民生用ドローン企業として知られる。206年創業の同社は、革新的な飛行制御技術と映像安定化技術で急成長。Osmo Pocketシリーズはクラウド台カメラ市場の代名詞となり、短動画クリエイターの必須ツールとなった。2018年の初代Pocket以来、2020年のPocket2、2023年のPocket3、そして2026年のPocket・4Pへと進化を続け、優れた防抖性能、携帯性、撮影体験で市場をリードしている。IDCの報告によると、2025年のグローバルクラウド台カメラ出荷量は前年比100%以上増加し、大疆が圧倒的優位を保つ。
一方、影石創新は2015年7月創業、創業者兼法定代表人は劉靖康氏。本社は深圳市宝安区にあり、2025年6月に上海科創板市場に上場した。総時価総額は一時700億元(約1・66兆円)超。Insta360ブランドで全景カメラと運動カメラに強みを持ち、グローバル全景カメラ市場シェアで長期的にリード(最高67%)してきた。Xシリーズ全景カメラ、Ace Pro運動カメラ、GOシリーズ口袋カメラなどが主力。グローバルに200カ国以上で販売され、海外売上比率が高い。
影石の転機は2025年7月。消費級ドローン市場に「影翎」ブランドで参入し、大疆の核心事業に挑戦状を突きつけた。これに対し、大疆は即座に反撃。2025年7月末と9月下旬に全景運動カメラOsmo360と拇指カメラOsmo Nanoをリリースし、影石の伝統的強み分野に進出した。2026年3月26日には全景ドローン「Avata360」を発表。影石の「影翎AI」(起售价6799元)に対し、2788元という価格で強力に圧迫した。
Luna Ultraの発売は、影石による大疆「腹地」へのさらなる攻勢だ。8K Leicaデュアルカメラを搭載し、AI追尾や高度安定化を備える同製品は、Pocketシリーズの直接的競合となる。
米規制の影と市場戦略
この特許戦の舞台となった米国は、両社にとって重要な市場だ。しかし、大疆は2025年12月の米FCC(連邦通信委員会)の決定により厳しい状況に置かれている。FCCは国外生産のドローンシステムと主要部品を「規制対象リスト」に追加。大疆も対象となり、新製品のFCC認証が得られず、米国での上市・販売が制限された。これによPocket 4・4Pは米国市場で販売困難となり、影石のLuna Ultraが優位に立つ形となった。影石のクラウド台カメラ事業はこの規制の影響を受けていない。
大疆は2026年2月、第9巡回控訴裁判所に司法審査を申請し、決定の取り消しを求めているが、進展は未公表だ。こうした規制圧力下で、特許訴訟は市場シェアを守る重要な手段となっている。弁護士の分析では、知的財産権の排他性が高く、侵害認定されれば市場退出や再設計を余儀なくされるため、テック企業間の市場争奪戦で頻用される戦略だ。
研究開発と経費状況
影石は新分野での足場固めのため、研究開発に巨額を投じている。劉靖康氏は2025年年報で、2025年通年および2026年1~3月期のP&D費用が前年比95%以上増加したと報告。クラウド台カメラが重点投資分野の一つだ。この積極投資は収益性に圧力をかけている。2025年年報では売上97億元(前年比75%増)と過去最高を更新したが、帰母純利益は9・29億元と6・6減少し、「増収不増利」の状況となった。2026年Q1も売上は好調だが、利益は圧迫されている。

大疆は非上場のため詳細非公表だが、市場支配力と資金力を背景に、多角的な製品展開(ドローン、クラウド台カメラ、掃地ロボットなど)を続けている。6月11日には新掃地ロボットを発売。一方、影石も5月に初のワイヤレスマイクをリリースし、製品ラインを拡大中だ。
競争の意味と今後の展望
大疆と影石の対立は、中国スマートハードウェア産業の成熟を示す象徴だ。一方はドローンと安定化技術の絶対王者、もう一方は全景・クリエイティブ映像の専門家。互いの強みを侵食し合う「全面戦争」へと移行している。特許訴訟は短期的なコスト増を招くが、長期的に技術革新を促す可能性もある。影石は「持続的イノベーションで市場を拡大する」との姿勢を強調し、大疆は知的財産を守りつつ新製品で応戦する。
消費者にとっては選択肢の増加が恩恵となる。Luna UltraやPocket 4のような高性能クラウド台カメラは、短動画文化をさらに加速させるだろう。しかし、米中摩擦の影響で、海外市場でのサプライチェーン再編や価格競争が激化するリスクもある。日本市場でも両社製品は人気で、クリエイター層に広く浸透している。技術の進化は日中両国のコンテンツ制作や観光PRにも寄与するはずだ。
この競争はまだ序章に過ぎない。双方がデータ収集、AIアルゴリズム、バッテリー持続時間などの課題に挑み続ける中、勝者は技術力と市場適応力の双方を兼ね備えた企業となるだろう。中国発のイノベーションが世界をどう変えるか、静かに見守りたい。
この動きは、中国国内の過剰生産能力を海外に振り向けるとともに、グローバル自動車産業の勢力図を大きく塗り替える要因となっている。
(中国経済新聞)
