原油高騰でプラスチック原料が逼迫 東莞市樟木頭鎮に買い殺到

2026/03/11 11:16

中東情勢の緊迫化を背景に、中国・広東省のプラスチック原料市場がかつてない活況に包まれている。華南地区最大級のプラスチック現物取引拠点として知られる東莞市樟木頭鎮では、この1週間、百果洞路周辺で大型トラックが数百メートルにわたって列を作る渋滞が常態化した。全長十数メートルの車両が早朝から順番待ちを続け、深夜になっても荷下ろしできないケースが相次いでいる。業界関係者は「この仕事を15年続けてきたが、これほどの“争奪戦”は初めてだ」と驚きを隠さない。

混乱の発端は中東での軍事衝突である。プラスチックは代表的な中間製品で、原料は原油、製品は電子機器や自動車、家電製品など幅広い製造業へ供給される。足元では米国とイランの衝突を受けて原油価格が急騰し、石油化学製品のコスト全体に強い上昇圧力がかかっている。

3月9日、米国の指標原油であるWTI原油先物は一時1バレル=119.48ドル(約1万8,000円)、欧州の指標原油であるブレント原油先物も119.5ドル(約1万8,000円)まで上昇し、衝突前と比べて約78%の急騰となった。化学品市場でも価格上昇が連鎖的に広がっている。中国国内の商品相場によると、ポリプロピレン主力限月は値幅制限いっぱいまで上昇し1トン=8034元(約16万7,000円)、ポリエチレン主力限月も7944元(約16万5,000円)まで上昇、いずれも1日で400元(約8,000円)以上値上がりした。

今回の買い急ぎは実需の拡大なのか、それとも価格上昇を見越した思惑買いなのか――。地元関係者の見方は比較的冷静だ。3月9日、現地事情に詳しいベテラン企業関係者は「今回の大量購入は、相場上昇を見込んだ業者による在庫確保の側面が大きい」と指摘する。一方で「中東情勢が短期間で落ち着かなければ、プラスチック価格は変動を伴いながらも上昇基調が続く可能性が高い」との見通しも示した。

緊張の震源地となっているのは、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡だ。2月28日、米国とイスラエルがイランに対する軍事行動を実施し、この海域の安全保障上の懸念が急速に高まった。ホルムズ海峡は世界の石油供給量の約2割、海上輸送される原油取引量の約27%を担い、その8割以上がアジア向けとされる。さらに、アジアが輸入するナフサの6割以上も中東地域に依存している。

原油は石油化学産業の最上流に位置し、価格上昇は「原油→ナフサ→基礎化学品→プラスチック原料」という流れで瞬時に下流へ波及する。実際、コスト増加と供給不安の見通しを受け、中国国内の商品先物市場は即座に反応した。3月初旬には、メタノール、純ベンゼン、プロピレン、エチレングリコール、ポリプロピレン、プラスチックなどの主力契約が相次いで値幅制限いっぱいまで上昇した。

現物市場もこれに追随し、レジ袋の原料に使われる低密度ポリエチレンは数日で18%以上上昇し、1トン当たり1633元(約3万4,000円)値上がりした。ABS樹脂やポリカーボネートなど一部の工業用プラスチックも4割を超える上昇率を記録した。

世界の化学大手も相次いで値上げを打ち出している。中国の万華化学、ドイツのBASF、中国の国有エネルギー大手である中国石油天然気集団および中国石油化工集団の傘下企業などが相次ぎ価格改定を発表し、国際的な値上げの連鎖が鮮明になっている。

こうした環境変化は、樟木頭鎮の取引業者にとって商機ともなっている。同鎮は単なる物流拠点ではなく、大規模な産業集積地としての機能を持つ点が特徴だ。世界60以上の国・地域の石油化学メーカー約900社、中国国内の新材料メーカー3000社以上が集まり、300種類以上・約10万規格に及ぶプラスチック材料の供給網を形成している。低煙・無ハロゲン難燃ポリプロピレンなどの高機能材料の一部は、世界市場の7割以上のシェアを占めている。

もっとも、供給面への直接的な影響は限定的との見方もある。東莞市プラスチック業界協会の調査によると、同市の原料調達先は中国国内の製油・石油化学拠点のほか、中東(イランを除く)や東南アジアが中心で、イラン産原料の割合は比較的低い。現時点で実質的な供給停止は発生しておらず、一部の品種に小幅な影響が見られるにとどまるという。

同協会は「今回の衝突は主要な供給経路を直撃しておらず、短期的な価格変動は抑制可能な範囲にある。中長期的に見れば需給構造は安定を保つ」と分析している。

中東情勢という外部リスクを引き金に、中国の一地方都市の取引現場が世界の供給網の縮図として揺れている。樟木頭鎮で見られるトラックの長い列は、地政学的リスクが実体経済へ波及する速さと影響の大きさを象徴する光景と言えそうだ。

(中国経済新聞)