中国の医薬品大手、中国生物製薬(Sino Biopharmaceutical Limited)の董事長(会長)を務める34歳の経営者、謝其潤が、世界的製薬企業サノフィ(Sanofi)との大型ライセンス契約をまとめた。
同社が3月4日に発表したところによると、両社は移植医療分野の革新的医薬品について独占ライセンス契約を締結した。契約総額は15億3000万ドル(約2300億円、約105億元)に達する。
謝其潤氏のチームは契約締結時に1億3500万ドル(約200億円)の前払い金を受け取る。さらに今後、開発や規制承認、販売の進展に応じて、最大13億9500万ドル(約2100億円)のマイルストーン収入と、二桁台の販売ロイヤルティを得る可能性がある。

これは中国生物製薬にとって、多国籍製薬企業と結ぶ初の革新的医薬品ライセンス契約であり、中国の製薬企業が移植医療分野で結んだ契約としては過去最大規模となる。
世界初の移植医療向け新薬
今回の契約の対象となるのは、同社子会社の正大天晴薬業(Chia Tai Tianqing Pharmaceutical Group)が独自に開発した新薬ロヴァキシチニブである。
この薬は世界初のJAK/ROCK二重標的型の低分子阻害薬で、抗炎症作用と抗線維化作用を同時に発揮する特徴を持つ。骨髄増殖性腫瘍や移植後の拒絶反応など、移植医療に関わる重要な病態のメカニズムに直接作用する薬剤とされている。
2026年2月には、中国で次の疾患を対象に承認された。それは骨髄線維症(MF)と移植片対宿主病(GVHD)である。謝氏は電話会議で「すでに販売承認を得ている薬であり、今後数年のうちに売上への貢献が見込まれる」と説明した。
契約により、サノフィはこの薬について世界での開発、製造、販売の独占権を取得する。海外での臨床試験は、今後サノフィが主導して進める予定だ。謝氏は「サノフィは移植医療分野で長年の経験を持つ。ロヴァキシチニブは同社にとって重要な戦略製品の一つとなり、世界市場への展開が加速するだろう」と期待を示した。
海外展開を加速する戦略
謝其潤氏は、海外企業へのライセンス供与について次の三つの戦略を挙げた。
1.国際的な可能性を持つ大型新薬は海外企業と提携し、収益と企業価値を同時に高める
2.先端技術の初期研究は柔軟な協力体制で海外臨床を進める
3.成熟した製品は新興市場を開拓し、利益と資金の拡大を図る
ロヴァキシチニブは希少疾病向け医薬品に該当し、世界市場の拡大が見込まれている。一方、海外での開発には国際的な臨床試験体制が不可欠であり、サノフィとの提携は合理的な選択とみられる。またサノフィの主力血液腫瘍薬の一部が今後特許切れを迎えることから、この薬はその後継候補としても期待されており、双方にとって利益の大きい戦略的な提携とされる。
謝氏は海外提携と並行して、中国国内の革新的バイオ企業への投資や買収も進めている。
主な動きは次の通り。
2026年初め:低分子干渉RNA(siRNA)創薬企業赫吉亜生物(Hejia Biotech)を12億元(約240億円)で完全買収
2025年7月:バイオ医薬企業礼新医薬(LaNova Medicines)を68億2200万元(約1360億円)で完全買収、同年の中国革新医薬分野で最大規模の企業買収となる。
2024年10月:アレルギー診断企業浩欧博(HOB Biotech)を6億3000万元(約126億円)で取得
そのなか、礼新医薬は「二重特異性抗体と抗体薬物複合体(ADC)」という二つの技術基盤を持つ数少ない企業で、謝氏は「中国生物製薬が持つ臨床開発や製造、販売の能力と組み合わせることで、革新的な新薬の開発を大きく加速できる」と説明している。
若い姉弟が率いる医薬事業
中国生物製薬は、タイ系財閥の正大集団(CP Group)の医薬事業の中核企業である。現在は謝家の第四世代が経営を担い、董事長謝其潤と最高経営責任者(CEO)である弟の謝承潤、という1990年代生まれの姉弟体制で運営されている。

謝其潤氏は2015年、23歳で董事長に就任。それまで後発医薬品中心だった事業を、革新的医薬品の開発へと大きく転換した。現在はがんと慢性疾患の二つを重点分野として研究開発と企業買収を並行して進めている。
10年前、中国生物製薬の革新的医薬品はわずか2品目だった。現在は21品目まで増え、売上高約290億元(約5800億円)のうちほぼ半分を革新的医薬品が占めるまでになった。
企業価値も大きく伸び、後発医薬品中心の時代は時価総額500億香港ドル未満で、現在は1000億香港ドル超(約1兆9000億円)となり、倍以上に拡大している。さらに同社の新薬開発パイプラインは世界15位規模に入るとされる。謝氏は「今後3年間で革新的医薬品は30品目以上に増える」と見込む。
2026年は「次の10年」の出発点
謝其潤氏は2026年を新たな10年戦略の出発点と位置付けている。その中心となるのがグローバル化による第二の成長軌道の確立だ。2025年6月時点で、同社の手元資金は300億元超(約6000億円)に達している。豊富な資金を背景に、海外ライセンス契約、企業買収、新薬開発パイプラインの拡充を同時に進める体制を整えている。今回のサノフィとの大型契約は、その国際戦略を象徴する重要な第一歩とみられている。
(中国経済新聞)
