10億円相当の現金を白昼の中環で強奪――香港を震撼させた「中環大劫案」

2025/12/20 13:39

香港・中環の繁華街で、巨額の現金が入ったスーツケースが刃物を持った男らに奪われる大胆な強盗事件が発生し、市民に大きな衝撃を与えている。映画の一場面を思わせる出来事だが、これは2025年12月18日朝、上環の新紀元広場向かいで実際に起きた事件である。

事件が発生したのは同日午前9時6分ごろ。通勤ラッシュで人通りの多い皇后大道中において、両替商に勤務する男性従業員2人が、刃物を持った4人組に襲われた。警察によると、奪われたのは日本円で約10億円相当、金額にして約5,000万香港ドル(約4,500万元)にのぼる。

現場近くに居合わせた会社員の呉天明さんは、当時イヤホンで音楽を聴き、スマートフォンを見ながら地下鉄駅へ向かっていたという。「あまりにも一瞬の出来事で、何が起きたのか分からなかった。周囲も混乱はなく、撮影だと思った人も多かったようだ」と振り返る。

また、目撃者の何勝宗さんは、7人乗りの車が自分のそばを通り過ぎた直後、2人組が別の2人からスーツケースを奪い合っている場面を目にしたという。「すぐにもう1人が車から降り、刃物を取り出した。被害者は驚いて後ずさりし、犯人たちは十数秒で車に乗り込み逃走した」。車内には少なくとも3個のスーツケースがあったと証言している。

通報を受け、香港警察の港島総区重案組が捜査に着手。周辺道路を一時封鎖し、逃走経路の特定を急いだ。警務処は同日午後、容疑者の男1人を逮捕したと発表したが、残る3人はいまだ逃走中とされる。被害に遭ったのは39歳の中国本土籍の男性と50歳の香港人男性で、いずれもけがはなかった。

香港メディアによると、奪われた10億円の現金の所有者は貿易業を営む人物で、為替差益を狙い、日本円を他通貨に両替する予定だったという。これまで同様の取引で強盗被害に遭ったことはなかったとされる。

市民の関心を集めているのは金額の大きさだけではない。「10億円分の現金の重さと体積」も話題となっている。仮にすべて1万円札だった場合、枚数は10万枚に達し、重量は約100キログラムと、成人男性1人分に相当する。これほどの現金を、犯人たちはなぜ短時間で運び去ることができたのか、また、なぜ運搬の日時や場所を把握していたのかという点に疑問が残る。

背景には、香港特有の両替業界の慣行がある。香港では自由な外貨交換制度の下、街頭の両替店が数多く存在し、競争も激しい。関係者によれば、コスト削減のため、現金輸送を専門の警備会社に委託せず、従業員がスーツケースで銀行との間を往復する、いわゆる「人手による現金運搬」が珍しくないという。

呉天明さんも「朝9時ごろになると、両替店の従業員がスーツケースを引いて銀行へ向かう光景をよく見かける」と話す。銀行の営業時間に合わせて運搬時間やルートが固定化されがちなことは、犯行の下見や計画を容易にした可能性がある。

事件から1日が経過し、中環の街には再び日常の風景が戻りつつあるが、現場周辺では警察官による巡回が続いている。白昼堂々と行われたこの強盗事件は、利便性とコストを優先してきた現金取り扱いの慣行に、改めて警鐘を鳴らす形となった。

(中国経済新聞)