中国映画市場、年間興行収入500億元突破へ 国産作品が歴代トップ3に躍進

2025/12/10 18:35

中国映画市場が2025年も力強い回復を続けている。国家映画局の速報によれば、12月7日時点の年間興行収入は495.11億元(約9,900億円、前年比22.02%増)、観客動員は11.82億人(前年比22.93%増)。このペースでいけば、年内に500億元(約1兆円)の大台を突破する見通しで、中国映画史では5度目の快挙となる。

なかでも存在感が際立つのが国産映画だ。国産作品の興行収入は407.70億元(約8,150億円、前年比28.19%増)に到達し、歴代トップ3に入る規模となった。シェアは82.35%に達し、市場の主導権を完全に握った形だ。一方、外国映画は87.40億元(約1,748億円)とほぼ横ばいで、シェア縮小が続いている。

年間興行収入10億元(約200億円)を超える作品は50本に増え、そのうち国産映画が33本を占めた。作品数・内容の両面で国産作品の優位が鮮明となっている。

■ 市場の底力を支える「上映インフラ」―― 下沉市場が新たな成長エンジンに

市場拡大を下支えしているのは、都市から農村まで張り巡らされた上映ネットワークである。

2025年10月末時点で、中国全土では新たに233館の映画館が開業し、スクリーンは1,588枚増加した。映画館総数は15,438館、スクリーン総数は92,556枚に達し、世界最多の座を維持している。

特に、三・四線都市および県・郷レベルの映画館の比率が年々上昇している点が特徴だ。三・四線市場の興行収入シェアは42.5%に達し、いわゆる「下沉市場」が興行成長の主要な原動力となりつつある。

設備投資も進んでいる。IMAXやCINITYといった高規格上映をはじめ、4K上映、4D動感シートなどの没入型体験が広がりつつある。また、グッズ販売、テーマ上映会、企業とのコラボ企画などの非チケット収入も増加。映画館の役割は「単なる上映施設」から「複合型文化消費空間」へと進化しつつある。

■ 四大興行期が売上の53%を占める―― 『哪吒2』『唐探1900』が牽引

2025年は、**春節档(旧正月)・暑期档(夏休み)・国慶档(国慶節)・賀歳档(年末年始)という四大興行期が計264億元(約5,280億円)**を稼ぎ、年間興行収入の約53%を占めた。

● 春節档:95.1億元(約1,900億円)で歴代最高、主力作品はいずれも国産映画である。

『哪吒之魔童闹海(Ne Zha: Reborn of the Demon Child)』:48.39億元(約968億円)

『唐探1900(Detective Chinatown 1900)』:22.78億元(約456億円)

『封神第二部:戦火西岐(Creation of the Gods II: Flames of Xiqi)』:9.97億元(約199億円)

春節档全体で歴代最高の95.1億元を記録した。

● 暑期档:119.66億元(約2,393億円)、観客3.21億人

中外作品が多様なジャンルで競い合った。

『南京照相館(The Nanjing Photo Studio)』
『浪浪山小妖怪(The Little Demon of Langlang Mountain)』
『捕风追影(Chasing the Vanished)』
『長安的荔枝(Litchis of Chang’an)』
『侏羅紀世界:重生(Jurassic World: Rebirth)』
『F1:狂飇飛車(F1: Full Throttle)』

興行収入は前年比2.76%増、観客数は12.75%増。夏休みシーズンの強さを示した。

● 国慶档:18.35億元(約367億円)、国産がほぼ独占、国産映画のシェアは 98.93% に達した。『志愿軍:浴血和平(The Volunteers: Battle for Peace)』、『731(Unit 731)』、『刺殺小説家2(A Writer’s Odyssey II)』、『浪浪人生(Life in Wave)』、『震耳欲聾(Deafening)』などリアリズム作品への支持が目立つ。

● 賀歳档:年末の追い上げで30.51億元(約610億円)突破

50本以上の公開が重なり、年末興行は大きく加速。年間500億元突破に向けた“最後のひと押し”となった。

■ 観客層の変化―― 女性比率60%で10年ぶり最高、内容重視が鮮明に

中国映画家協会と灯塔研究院によるレポートでは、2025年の観客動向に以下の変化が見られた。観客の平均年齢は4年連続で上昇、女性観客の割合が60%に達し、過去10年で最高。「内容の質」「感情の共鳴」を重視する傾向が一段と強まる。

かつて市場を左右した“流量スター”(アイドル的人気俳優)の神通力は弱まり、テーマ性・社会性・芸術性の高い作品が支持される流れが加速している。

具体的には、

歴史的記憶に訴える作品:

『南京照相館(The Nanjing Photo Studio)』
『志愿軍:浴血和平(The Volunteers: Battle for Peace)』
『東极島(Dongji Island)』

普遍的な情感を描いた作品:

『窗外是藍星(Blue Star Beyond the Window)』

国風アニメの躍進:

『浪浪山小妖怪(The Little Demon of Langlang Mountain)』

ジャンル映画の革新:

『捕风追影(Chasing the Vanished)』
『狂野時代(Wild Era)』

といった具合に、作品の多様化と内容の深化が市場成長を後押ししている。

■ 【まとめ】500億元の壁を超えた先に見えるもの

2025年の中国映画市場は、興行収入の回復だけにとどまらず、インフラ整備の進展、観客層の変化、国産映画の質の向上、非興行収入の増加など、複数の面で成熟度を高めた一年となった。

500億元突破は単なる数字ではなく、市場の多極化・構造転換が進行している証でもある。

(中国経済新聞)