中国の人口減少の実態と対応 ~ 政策とAI技術の活用による人口減少への対応 ~

2025/03/5 17:00

はじめに 

中国の人口は2024年に出生数が辰年効果で増加したものの、22、23年に続き三年連続で減少した。一方、工場自動化、ドローン宅配、自動運転タクシー・バス、AⅠによる電話応対や診療などが実用段階にあり、人口増加政策の奏功が見込みにくい中、少子高齢化への対応も着々と進んでいる。

1. 三年連続で人口減少 ~婚姻数は2013年のピーク時から半減~

(1) 出生数は8年ぶりに増加するも、高齢化は進展

中国国家統計局は2025年1月17日、中国本土の24年末の総人口が14億828万人となり、23 年末から139万人減ったと発表した※1 。中国の人口は22年に61年以来61年ぶりに減少に転じて以来、減少は三年連続。出生数は前年を上回ったが、65 歳以上が総人口に占める割合は15.6%と、高齢化が進んだ。

24 年は中国で縁起が良いとされる辰年だったことが影響し、出生数は954万人と、前年から52万人増えた。出生数の増加は8年ぶりだったが、三年連続で1,000万人を下回った。 一方、65歳以上の人口は2億2,023万人で、比率は15.6%、前年から0.2%PT上昇した。16~59歳の生産年齢人口は8億5,798万人と、23年末から683万人減少した。総人口に占める割合は60.9%と、前年比で0.4%PT低下した。

都市農村別にみると、都市常住人口は9億4,350万人で前年末比1,083万人増加、農村常住人口は4億6,478万人で1,222万人減少、都市人口比率は67%と前年末比0.83%PT上昇した。

(2) 婚姻数は2013年ピーク時の半分以下

人口減少の大きな要因として結婚・出産数の減少が挙げられる(図表1)。 24年に受理された中国国内の婚姻届件数は610万6,000組であった。前年から157万6,000組減、統計を遡れる1978年以降で最低、同最高だった13年(1,346万9,267組)の半分以下となった。婚姻数の落ち込みは出生数の減少に直結することから、25 年の出生数も減少する可能性が高い。一方、離婚件数は262万1,000組で2万8,000組増加した。

結婚数の減少の背景には、景気先行きの不透明感の高まりや雇用所得環境の悪化(図表2)、若者の結婚観の変化などがある。

2. 政策・AI技術活用により人手不足に対応

 (1)人手不足対応の進展:定年延長や人材育成

中国当局は出生率を引き上げるため、一人っ子政策の撤廃をはじめとしてさまざまな結婚・出産促進措置を講じている※2が、その効果は限定的なものにとどまる。こうした中、24 年 9 月に打ち出された選択的な定年延長政策※3は、当面の人手不足対応として直接的な効果を期待できる。

この他、限られた人口数をより効率的に活用するための職業訓練等、人材育成に焦点を当てた政策方針も打ち出している※4。

(2) AI技術活用による人手不足対応の進展

人口減少に伴う人手不足への対策として、工場自動化、ドローンによる宅配や農作業、自動運転タクシー・バス、AIによる電話応対や診療などで、AI技術が活用されている。 このうち、自動運転タクシーでは、百度がアポロ(車両とハードウエアシステムを結び付け、百度の自動運転システムを構築する人工知能(AI))の技術を用いて、無人運転タクシーサービスプラットフォーム「Apollo Go(蘿蔔快跑)」を展開している※5。22年の同サービス開始以降、24年11月時点、中国国内11都市(北京市、上海市、広州市、深圳市、重慶市、武漢市、成都市、長沙市、合肥市、山西省陽泉市、浙江省桐郷市鳥鎮鎮)で運用されている。 24 年6月、百度が4~6月期報告内で「武漢市内全域で、実質的に100%無人運転のタクシーサービスを提供することが可能となった」と発表。25年1月時点、同市内に400台以上(同市内タクシーの1%未満)が走行している※6。

百度の発表によると、24年第2四半期(4~6月)の「Apollo Go」オーダー数は89万9,000 回、前年同期比 26%増、単純計算で1日平均約1万回のオーダーを受けたことになる。10~12月期の受注件数は前年同期比36%増の110万件以上であった(1日平均約1.2 万回受注した計算)。また、22 年のサービス開始以来、25 年 1 月に累計受注件数が900 万件を超え、25 年2月からは中国全土で完全無人の自動運転を実現したという※7。

ドローンについては、登録済み民間用無人航空機(UAV、ドローン)の数が170万機を超え、物流配送、農業、気象などの分野での利用が拡大していると、24年12月30日の中国低空産業連盟(LAIA)年次会議で発表された※8。

AI の活用は人の仕事を奪う側面もある※9ものの、今後の人口増に期待しにくい環境下では、人手不足問題の解決に決定的な役割を果たすことが考えられる。

おわりに

中国の人口減少は労働力不足や消費市場の縮小を招き、経済成長に圧力をかけている。しかし、高齢化・都市化の進行に伴い医療、介護業界の需要が増加し、ロボット技術や自動化、AI分野などで新たなビジネスチャンスが広がる可能性が期待される。そして、これら技術は、自動運転でみられるように(安全員同乗なしの)完全自動運転実現までに要した年月は極めて短く、また「ディープシーク(深度求策)」のような生成AIなど新たな技術が次々と出現する。これら技術革新と社会実装の動向から今後も目が離せない。

※1 中国国家統計局 25年1月17日「国新办举行新闻发布会 介绍2024年国民经济运行情况」

http://www.scio.gov.cn/live/2025/35385/tw/ なお、日本の人口は 24 年8 月現在、1億2,388 万7千人、▲55万2千人(▲0.44%)。15年連続減少。

総務省統計局https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

※2  一人っ子政策は79年(80年9月に正式開始)から14年末まで実施された、原則として一組の夫婦につき子供は一人までとする「計画生育政策」。生産年齢人口(15~59歳)が11年をピークに減少に転じ、16年1月に「一人っ子政策」は撤廃、すべての夫婦に「第2子の出産」が認められた。21年の出生数は1,062 万人、うち第1子の出生数は468.3万人と初めて500万人を下回り、21年8月20日の全国人民代表大会常務委員会において、「人口・計画出産法」を改正、全ての夫婦に「第3子の出産」を認めた。

労働政策研究・研修機構「中央政府の「第3子政策」を受け、各地で支援強化が進む」

https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2022/09/china_02.html

24 年7月の三中全会では、①出産・子育て支援政策体系とインセンティブメカニズムを整え、子どもを産み育てやすい社会の建設を促す。②出産・子育て・教育費用を効果的に引き下げ、産休育休制度を整備し、出産・育児手当制度を確立、出産・小児医療の基本公共サービスの水準を向上させ、個人所得税扶養控除の基準額引き上げ。③ユニバーサル保育サービス体系の整備を強化、雇用者側による保育所の設置やコミュニティ併設型保育、自宅利用型保育など多様なモデルの発展支援。④人口流動の客観的法則を把握し、関連公共サービスのポータビリティを推進、都市農村間・地域間の人口の合理的な集積と秩序立った

移動を促す、方針を提示。中共中央关于进一步全面深化改革 推进中国式现代化的决定(二〇二四年七月十八日中国共产党第二十届中央委员会第三次全体会议通过(改革をいっそう全面的に深化させ中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定 2024年7月18日、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議にて採択)) 人民日報24年07月22日

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2024-07/22/nw.D110000renmrb_20240722_2-01.htm

※3  現在、男性で60歳、管理職の女性で55歳、非管理職の女性で50歳となっている定年を25年から15年かけて段階的にそれぞれ63歳、58歳、55歳へと引き上げる。年金の受給資格取得年数を現在の15年から2039年までに段階的に20年へと引き上げる。人民日报 2024年09月14日 第7面)「全国人民代表大会常务委员会关于实施渐进式延迟法定退休年龄的决定(2024年9月13日第十四届全国人民代表大会常务委员会第十一次会议通过)」

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2024-09/14/nw.D110000renmrb_20240914_2-07.htm

※4 十四次五か年計画「質の高い教育体系」における、人的資本の投入を増やし、職業技術教育の即応性強化等。新華社20年11月3日「中共中央关于制定国民经济和社会发展第十四个五年规划和二〇三五年远景目标的建议 」

※5 JETRO地域・分析レポート24年12月19日「武漢市の自動運転技術開発の変遷と展望 百度、「Apollo Go」の事例」 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/1201/ca07147c1878517a.html

※6 朝日新聞夕刊 25年1月9日「武漢 なるか「自動運転都市」」 

※7 NNA 2月19日「百度の24年は17%増益、本業外が伸び」 

※8 中国通信2月19日「中国の登録民間用ドローン170万機超に」 

※9 北京・中関村では生成AI普及によりプログラマーが百人単位で解雇される事例が発生。実業之日本フォーラム 福本智之「少子高齢化が消費を押し下げる中国経済 奥の手とも言える農民工の「市民化」」

https://forum.j-n.co.jp/narrative

(文:細川 美穂子)

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みずほ銀行  

中国営業推進部 上席主任研究員  細川 美穂子

1988 年慶応義塾大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、調査部にて

アジア及び中国経済担当。02年みずほ総合研究所出向。 05~08年北京支店、11

年4月~23年1月まで上海駐在、瑞穂銀行(中国)有限公司中国アドバイザリ

ー部 中国業務部主任研究員。同年1月より現職。これまで週刊エコノミスト、

東亜 他多数メディアにて、現地発中国マクロ経済に関する記事を連載。

出典:

MIZUHO BUSINESS MONTHLY 2025年3月号 P5-8