中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)は、技術革新、グローバル展開、産業チェーンの連携を軸に、事業構造の抜本的な転換を進めている。自動車の製造・販売を中心とする従来の事業モデルから、エネルギー、人工知能(AI)、モビリティーを融合した総合テクノロジー企業への進化を目指す。電動化から知能化へと競争の軸が移る世界の自動車産業において、コア技術の自社開発と海外市場への本格進出を通じ、新たな成長基盤の構築を加速している。
10月27日、BYD傘下の超高級車ブランド「仰望(ヤンワン)」は、超高級セダンの車名を「鼎曜」と発表した。「大器鼎成」という意味を込めた名称で、ブランドの高級化戦略を象徴する。また、BYDはこのほど、自動車運搬船を新たに10隻発注したことを明らかにした。全船が引き渡されれば、輸送能力は標準車両換算で13万台分を超える見通しだ。
2026年6月末時点で、BYDの新エネルギー車累計販売台数は1690万台を突破し、世界の新エネルギー車販売で4年連続首位を維持している。今年上半期の海外売上高は1813億元(約4兆2600億円)に達し、売上高全体の52.57%を占め、初めて国内売上高を上回った。中・高級ブランドの販売比率も12.8%に上昇しており、海外展開とブランドの高級化が同時に進んでいる。
こうした成長の背景には、20年以上にわたる研究開発への継続的な投資と、長期的な視点に立った経営戦略がある。BYDは「技術を重視し、革新を基盤とする」という理念の下、電動化技術を強みに事業を拡大してきた。現在は、次世代の競争領域となる自動運転や車載半導体、エネルギーシステムなどへの投資を強化し、企業全体の再構築に取り組んでいる。
2026年5月には、自社開発による初の4ナノメートル(nm)車載用運転支援半導体「璇璣A3」を発表した。同半導体は同クラスの製品と比べて単位演算能力当たりの消費電力を20%削減できるとされ、すでに量産を開始している。レベル3以上の高度自動運転の実用化を支える中核技術として位置付けられている。
BYDの王伝福(ワン・チュアンフー)董事長は、「電動化の前半戦はバッテリー、知能化の後半戦は半導体が鍵を握る。中核技術を自主的に確保することが、中国自動車産業の持続的な発展を支える根本的な力となる」と強調する。
かつて中国の自動車産業では、車載半導体や高度運転支援アルゴリズム、車載システムなどの多くを外部企業に依存していた。こうした依存は製造コストを押し上げるだけでなく、技術革新や製品開発のスピード、安全性にも影響を及ぼしてきた。中国の「スマートコネクテッド新エネルギー車産業発展第15次5カ年計画」でも、自動車用OSや車載半導体などが重点技術開発分野に位置付けられている。
BYDは累計2400億元(約5兆6400億円)を超える研究開発投資を実施しており、2025年の研究開発費は634億元(約1兆4900億円)、売上高に対する研究開発費比率は約8.7%に達した。車載半導体、スマートセンシング、車載大規模言語モデル、車両全体の知能化アーキテクチャーなどに重点的に投資し、知能化技術の全産業チェーンを構築している。
自社開発の「璇璣A3」の量産によって、BYDは半導体の企画・定義から設計、組み立て・検査、量産までを一貫して手掛ける国内有数の自動車メーカーとなった。現在、自社開発の車載用半導体は13分野、567製品に及び、国内外46ブランドに供給している。自社の生産体制を支えるだけでなく、他社への供給も進め、中国の車載半導体産業全体の発展を後押ししている。

また、BYDは高度運転支援システムの開発に向け、5000人を超える専門研究開発チームを編成した。走行中の量産車1000万台以上から、毎日1000テラバイトを超える道路状況データを収集・処理し、道路環境の収集、データのラベリング、AIモデルの訓練、OTA(無線通信によるソフトウエア更新)を組み合わせたデータ循環システムを構築。実際の走行データを活用しながら運転支援技術の精度向上を図っている。
王董事長は「知能化技術は高級車だけのものではない。誰もが利用できる安全な知能化技術こそ、科学技術を一般の人々の移動に役立てることにつながる」との考えを示している。こうした方針の下、BYDは都市部での高度運転支援機能の普及を進め、都市型NOA(ナビゲーション・オン・オートパイロット)は中国国内260都市以上で利用可能となった。一般向け車種にも運転支援機能を幅広く搭載し、利用者の負担を抑えながら、スマートモビリティーの普及を進めている。
エネルギー分野でも事業の高度化を進めている。次世代ブレードバッテリーは安全性、低温環境での航続性能、急速充電性能の向上を図り、大出力の急速充電技術では5分間の充電で300キロメートル分の走行距離を確保できるという。国内の急速充電ステーションは1万2000カ所を超え、車両、バッテリー、充電施設を連携させたエネルギーサービス網の整備が進む。充電、蓄電、エネルギー供給を一体化することで、従来の自動車製造から、エネルギーの生産・貯蔵・利用を網羅する事業へと領域を広げている。
2025年末時点で、BYDの研究開発人員は12万人を超えた。過去5年間に採用した新卒者7万人以上のうち、約8割が技術開発部門に配属されている。長期的な研究開発投資と大規模な技術者集団が、同社の競争力を支える基盤となっている。
海外生産と現地化を加速、国内外の双輪駆動へ
中国自動車メーカーの海外進出は、新たな段階に入っている。単に製品を輸出するだけでなく、現地生産や技術、サービス、ブランド力を含めた総合的な国際競争力が問われるようになった。
王董事長は「中国自動車のグローバル化は、製品を販売し、価格で競争するだけでは不十分だ。技術、生産能力、規格、エコシステムを輸出し、現地に深く根付く必要がある」と指摘する。
BYDは従来の輸出中心のビジネスモデルから脱却し、地域ごとの市場特性に合わせた現地化戦略を推進している。タイ、ブラジル、ハンガリー、インドネシアなどでは完成車工場の稼働が進み、海外の計画生産能力は年間150万台を超える。中国国内で培った製造技術や品質管理体制を海外に展開するとともに、現地の部品供給網の育成や雇用創出にも取り組んでいる。
製品戦略でも地域ごとの需要や法規制に合わせた差別化を図る。日本市場では、国内の道路事情や消費者の利用習慣に適した専用モデルを投入。欧州市場では高級ブランド「騰勢(DENZA)」を軸に、安全性、排出ガス、知能化に関する厳しい規制への対応を進めている。南米や東南アジアでは、完成車製造に加え、蓄電設備や雲軌(スカイレール)などの事業も展開し、環境配慮型の交通・エネルギーソリューションを提供している。
2025年の海外販売台数は104万台を突破し、海外売上高比率は22%に上昇した。海外事業は国内市場の競争激化を補うだけでなく、企業全体の安定成長を支える重要な柱となっている。
「海外進出とは、遠くの市場に車を売ることではなく、現地に企業の能力を根付かせることだ。販売は貿易だが、現地に能力を定着させてこそ真のグローバル化といえる」。こうした考えの下、BYDは海外90カ国・地域以上に販売網を広げ、店舗数は約2000店に達した。
王董事長は、中国自動車の海外展開について「短期的な販売台数ではなく、長期的なブランド力、法令順守能力、サービス力で競争すべきだ。優れた技術によって世界から信頼を得なければならない」と強調する。BYDの現地生産と販売網の構築は、自社の成長にとどまらず、中国自動車産業の海外展開に向けた一つのモデルとなりつつある。
産業チェーンの連携強化、中国自動車産業全体の競争力向上へ
BYDは国内の新エネルギー車産業チェーンをけん引する中核企業として、自社の成長だけでなく、関連企業との連携にも力を入れている。王董事長が業界の重要な場面で繰り返し発信してきた「一緒になってこそ、中国の自動車産業は強くなれる」という考え方は、同社の産業戦略を象徴している。
BYDは長年にわたる垂直統合を通じて、バッテリー材料、パワー半導体、モーター、電子制御、完成車製造などの主要分野で自社の技術・生産基盤を確立した。サプライチェーンの自社調達率は約75%に達し、世界的な供給網の変動や原材料価格の変動に対応できる体制を整えている。
一方、垂直統合を他社との競争や排除に結び付けるのではなく、産業全体の発展につなげる方針を掲げる。完成車プラットフォームや主要部品、検査・試験設備、研究開発シミュレーションなどの資源を外部に開放し、8000社を超える中小のサプライヤーを支援。技術共有、共同研究、規格の共同策定、生産能力の連携などを通じて、部品メーカーの技術力と生産効率の向上を促している。
さらに、国内の部品メーカーがBYDの海外生産拠点に同行して進出できるよう支援し、中国企業が連携して国際市場で競争する体制づくりも進めている。
王董事長は「14億人の中国国民は、世界に通用する自国の自動車ブランドを期待している。中国の自動車産業には、その実現に必要な基盤も能力も自信もある。力を合わせれば、世界の産業の頂点に立つことができる」と述べている。
自動車産業の競争は、もはや個々の企業間の競争にとどまらず、産業チェーン全体の集積力を競う段階に入った。BYDは過度な価格競争を避け、健全な競争と協調発展を重視する姿勢を打ち出しており、国内メーカーや関連企業との連携を通じて、中国の新エネルギー車産業全体の競争力と国際的な発言力の向上を目指している。
BYDの企業名は「Build Your Dreams(夢を実現する)」の頭文字に由来する。20年以上にわたり、短期的な利益より研究開発を優先し、販売規模より基盤技術の確立を重視し、自社の業績だけでなく産業全体の競争力向上を目指してきたことが、現在の成長につながっている。
第15次5カ年計画が始まる新たな段階を迎え、BYDは技術革新を中核に、グローバル展開を成長の支えとし、産業間の連携を基盤として、さらなる事業改革を進める構えだ。世界の自動車産業が大きな転換期を迎える中、同社の取り組みは、中国自動車産業が量的拡大から質的向上へと歩みを進める動きを象徴している。
(中国経済新聞)
