中国家電大手の美的集団(Midea Group)は、海外事業の成長モデルを転換しつつある。2026年上半期、スマートホーム事業の海外売上高に占める自社ブランド製品(OBM)の比率が50%を突破した。海外ブランド向けの受託生産を中心とする「世界に製品を売る」段階から、自社ブランドを軸に現地市場へ深く浸透する「ブランドを世界に広げる」段階へと移行している。
同社はグローバルな研究開発・製造拠点の整備に加え、現地のニーズに対応した製品開発や人材・調達網の現地化を進めている。中国製造業が製品輸出からブランド輸出へと進化する動きを象徴する事例となっている。
上期売上高は約5.5兆円、海外事業が成長を牽引
美的集団の2026年上半期の業績は、売上高が2,610億5,000万元(約5兆4,821億円)と前年同期比3.5%増加した。親会社株主に帰属する純利益は264億5,000万元(約5,555億円)で、同1.7%増だった。
海外事業の売上高は1,131億2,700万元(約2兆3,757億円)と前年同期比5.54%増加し、全社売上高の43.50%を占めた。海外事業が同社の成長を支える重要な柱となっている。
その基盤にあるのが、長年にわたり構築してきたグローバルネットワークだ。美的集団は世界200超の国・地域で事業を展開し、600社超の子会社、41カ所の研究開発センター、68カ所の主要製造拠点を擁する。従業員数は19万人を超える。
海外では11カ国に29カ所の研究開発センターを設置。68カ所の主要製造拠点のうち45カ所が海外にあり、約5,500カ所のアフターサービス拠点を整備している。販売プラットフォームには2万5,000社超の小売業者が参加し、海外従業員は約5万人に上る。
欧州:現地ニーズに合わせた製品開発が奏功。欧州では、TEKAとのバリューチェーン全体の統合を進め、「欧州で、欧州のために」という現地密着型の戦略を推進している。販売、研究開発、デザインを連携させる体制を構築した結果、2026年上半期のTEKAブランドの売上高は前年同期比20%超の伸びを記録した。
また、欧州の住宅事情に対応した移動式分離型エアコン「PortaSplit」がヒット商品となった。設置工事の難しさや高額な費用、賃貸住宅で壁に穴を開けられないといった課題に対応した製品で、ドイツ、フランス、英国などで需要が拡大している。

東南アジアでは、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシアの5カ国で、美的系ブランドの冷蔵庫と電子レンジの小売売上高シェアが、いずれも業界首位となった。
日本では、同社が過去に買収した東芝の白物家電事業が好調だった。2026年上半期の日本市場における売上高は前年同期比10%超増加。冷蔵庫、洗濯機、エアコン、電子レンジ、炊飯器、掃除機の主要6カテゴリーを合計した小売売上高シェアは16%以上を維持した。東芝ブランドの電子レンジは、日本市場で4年連続のシェア首位を確保したという。
米州では、2026年上半期の米国における自社ブランド事業の売上高が前年同期比24%増加した。美的ブランドの全自動コーヒーマシンも新たに米国市場へ投入された。米国では、美的系ブランドの一体型家庭用エアコンの販売台数シェアが46%、上開き式の2ドア冷蔵庫(TMF)が14.7%に達した。
ブラジルでは家庭用エアコンの販売台数シェアで業界首位を維持。美的ブランドの冷蔵庫とドラム式洗濯機も、それぞれ13%、23%のシェアを獲得し、いずれも業界上位3位に入った。
チリでは、美的ブランドの冷蔵庫の販売台数シェアが26%を超え、首位となった。大型オーブンと洗濯機も、それぞれ22%超、21%超のシェアを確保し、いずれも2位につけた。
自社ブランドを海外に定着させるうえで重要なのが、製造・調達・人材を含む事業運営の現地化だ。タイにある美的集団のエアコン工場は、中国家電業界で初の海外「ライトハウス工場」とされる。従業員の97.8%を現地採用とし、691社の現地サプライヤーと連携している。
同社の現地化戦略は、主に4つの要素から成る。
第一は人材の現地化だ。現地採用に加え、多言語対応のデジタル研修やAIデジタルヒューマン、AIを活用した対話型訓練などを導入し、評価制度、労働時間、労働法令への対応も現地事情に合わせている。
第二はサプライチェーンの構築である。中国国内で実績を積んだサプライヤーの海外進出を支援すると同時に、現地企業の育成にも取り組む。
第三はデジタル基盤の整備だ。中国で培ったスマート製造技術や、注文に応じて生産を進める「T+3」方式を現地工場に適応させる。
第四は現地ガバナンスの確立である。中国から派遣された人材が直接管理する従来型の体制から、現地スタッフの自立を支える「コーチ」型の役割へと移行している。
なかでも難易度が高いのが、現地サプライチェーンの構築だ。中国国内では部品メーカーが高密度に集積し、企業間の連携も密接だが、海外ではサプライヤーが分散し、技術力や供給能力にもばらつきがある。多国籍の労働力への対応も必要となり、構築には長い時間と不確実性を伴う。
海外工場は一般に国内工場より直接製造コストが高くなりやすい。それでも美的集団は、製造拠点を単純に集約するのではなく、世界各地の需要に応じて生産資源を最適配置する方針を取る。
中国は引き続き、グローバルなイノベーション、コア技術、重要部品の供給を支える中核拠点となる。一方、海外工場は市場に近い場所で生産することで、納期の短縮や現地規制・販売チャネル・アフターサービスへの対応力を高める。
製造コストだけでなく、物流費、在庫、納期、市場への対応速度、長期的な事業リスクを含めて判断する考え方だ。大型で輸送費がかさみ、納期や法規制への対応が重要な製品は現地生産に適している一方、コア部品や共通技術、高度な技術を要する一部の少量製品は、中国の成熟した供給網を活用する。
さらに2026年6月には、タイで「海外進出パートナープログラム」を発表した。デジタル・AIソリューション72種類、AIエージェント13種類、25の活用シーンを組み合わせ、中国企業の海外工場の計画から生産ラインの立ち上げ、現地運営までを支援する。自社の海外展開で蓄積したノウハウを他社にも提供し、中国製造業の海外進出を個別企業の工場移転から、体系的な能力の共有へと発展させる狙いだ。
「PortaSplit」に見る現地発の製品イノベーション
供給網の現地化が「どこで造るか」という課題への対応だとすれば、ブランドを定着させる決め手となるのは、現地の暮らしを理解した製品開発である。その代表例が、欧州市場向けの「PortaSplit」だ。2026年上半期の販売台数と売上高は、いずれも前年同期比200%超の伸びを記録した。

欧州では、夏の暑さを背景に移動式エアコンの需要が拡大している。しかし、従来型の移動式エアコンには騒音、省エネ性能、冷房能力に課題があった。一方、一般的な壁掛け型の分離式エアコンは性能に優れるものの、設置工事が複雑で費用も高い。賃貸住宅や集合住宅、歴史的建造物では、壁への穴開けが認められない場合もある。
美的集団は、分離式エアコンの性能と移動式エアコンの手軽さを両立できないかと考え、ドイツ・シュツットガルトの研究開発拠点を中心に開発を進めた。
欧州各地の住宅を対象にユーザー調査や実地検証を重ね、窓の形状、気流、騒音制御などを2年以上にわたり試験。実際の家庭でのフィールドテストを通じて製品を改良し、2024年に欧州市場へ投入した。2026年には需要が一段と拡大し、ドイツ、フランス、英国などで供給が追いつかない状況になったという。
重要なのは、既存製品をそのまま海外に持ち込むのではなく、現地の生活環境や住宅事情を起点に新しい製品カテゴリーを生み出した点だ。長期的な市場観察と現地の研究開発体制が、ブランドの差別化につながっている。
ベトナムでは炊飯器を現地の食習慣に合わせて開発
東南アジアでも、現地の食文化に対応した商品づくりを進めている。ベトナム市場向けの炊飯器は、中国国内向け製品をそのまま転用せず、現地の調理習慣に合わせて設計している。例えば、立体的に加熱する3D加熱機能を広く採用し、一度炊いたご飯を長時間保温して食べる習慣に対応した。
内釜も厚みと重量を持たせ、炊きむらを抑えたご飯のおいしさや耐久性を重視する現地消費者の嗜好に配慮した。さらに、祖先祭祀や日常の食事で、もち米を使った料理が食べられることを踏まえ、途中でかき混ぜなくてももち米を炊ける専用プログラムを開発した。こうした細かな対応が、現地消費者からの評価につながっている。
製品輸出からブランド輸出へ
美的集団の海外戦略は、製品を輸出するだけの段階から、現地で研究開発・製造・販売・サービスを一体運営する段階へと進化している。その背景には、自社ブランドの育成だけでなく、世界各地の需要を理解する研究開発力、現地の人材と供給網を活用する運営力、地域ごとの生活習慣に対応した商品開発力がある。自社ブランド比率が50%を超えたことは、海外事業の量的拡大だけでなく、収益構造と競争戦略の転換を示す節目といえる。
中国企業の海外進出が広がるなか、今後の競争を左右するのは、どれだけ多くの製品を輸出できるかだけではない。現地の市場や生活者を理解し、ブランドへの信頼を長期的に築けるかどうかが重要になる。
美的集団の取り組みは、中国製造業が「世界で売る」段階から「世界でブランドを育てる」段階へ移りつつあることを示している。
(中国経済新聞)
