中国の国慶節連休に合わせて公開された映画『神探之痕迹』が注目を集めている。10月4日19時時点で、上海で製作された同作の累計興行収入は2億6600万元を突破し、国慶節映画市場で暫定1位となった。
本作が描くのは、華やかな推理や劇的などんでん返しだけではない。事件現場に残された、ごく小さな「痕跡」に目を向け、物証を一つひとつ分析しながら真相に迫る「痕跡鑑識(痕検)」の世界だ。
映画では、痕跡鑑識の専門家たちが、肉眼では見落としてしまうような微細な物証の断片から手掛かりを見つけ出す。そして、複数の証拠をつなぎ合わせながら事件の全体像を再構築し、重大事件の解決に欠かせない決定的な証拠を導き出していく。
従来の中国の刑事・推理映画では、複雑な事件や鮮やかな推理、予想を覆すどんでん返しなど、ドラマ性の強い展開が物語の中心となることが多かった。これに対し、『神探之痕迹』は、いわゆる「名探偵伝説」の定番から一歩距離を置いている。カメラが捉えるのは、事件の派手な展開ではなく、顕微鏡の下にある小さな物証だ。
主人公が数十年にわたって歩んできた職業人生を軸に、これまで一般にはあまり知られてこなかった痕跡鑑識の仕事を丁寧に描き出している。

わずかな指紋や微細な痕跡、現場に残された物証の断片。それら一つひとつは取るに足らないように見えても、専門家の目を通すことで、事件を解く重要な手掛かりへと姿を変えていく。
作中の主人公・崔尋(ツイ・シュン)のモデルとなったのは、公安部が初めて特別招聘した刑事捜査の専門家であり、痕跡鑑識の第一人者、そして「七一勲章」受章者でもある崔道植(ツイ・ダオジー)氏だ。
1934年、崔道植氏は吉林省の朝鮮族の家庭に生まれた。4歳で父を亡くし、6歳の時には母とも生き別れとなり、祖父と二人で暮らした。17歳で軍に入隊し、軍を離れた後は公安の仕事に携わるようになった。当時、中国ではまだほぼ未開拓だった痕跡鑑識の分野に身を投じ、研究と実務の両面に取り組んだ。
70年以上にわたる警察官人生の中で、崔氏は数々の重大事件・難事件の解決に貢献してきた。これまで鑑定した痕跡・物証は7000件以上に上るが、鑑定に誤りは一度もなかったとされる。その実績から、重大・難解な刑事事件の痕跡鑑定における「定海神針(揺るぎない支柱)」と称されている。
映画では、崔尋が法医学者の黄仁徳、刑事の王衛国とともに長年にわたって捜査の第一線に立ち、力を合わせて数々の重大事件・難事件を解決するとともに、刑事捜査における数々の先例を切り開いていく姿が描かれる。
物語の時間軸は1971年から2016年までに及び、異なる時代に発生した4つの事件を取り上げている。個人の運命、事件捜査、そして刑事捜査技術の変化が複雑に絡み合いながら、物語が展開していく。
1971年に発生した「氷城色魔事件」の時代、中国国内の刑事捜査体制はまだ十分に整っておらず、技術者の地位も高くなかった。捜査は主に聞き込みや地道な捜索に頼っていた。そんな中、崔尋は虫眼鏡を使って歯形を照合するなど、微細な手掛かりに着目。師である徐明海とともに、限られた設備しかない厳しい環境の中で真相を追い求めていく。
1983年の「特大殺人強盗事件」では、痕跡や物証が持つ司法上の価値が徐々に認められるようになっていた。崔尋は爪に残された痕跡の「同一認定」に関する研究に力を注ぎ、かつては証拠として採用することが難しかった爪痕に、犯罪者を有罪に導くための証拠能力を持たせることに尽力する。これによって国内の関連分野に存在していた技術的な空白を埋め、事件解決が一刻を争う局面で容疑者を特定し、誤判や冤罪を防ぐことにつなげていく。
1998年の「バス爆破事件」では、現場の被害が甚大で、物証も細かく破損していた。そこで捜査は、さまざまな分野の専門家が共同で分析・検討する方向へと転換していく。専門家たちは力を合わせて事件の経緯を復元し、再現が極めて困難だった事件の真相をついに明らかにしていく。
2016年の連続強姦殺人事件の捜査では、従来の刑事捜査手法と最新技術を組み合わせる姿が描かれる。現代の科学捜査技術が行き詰まりを見せる中、崔尋が長年にわたって培ってきた痕跡鑑識の経験が突破口を見つけ出し、事件解決へと導いていく。
映画の中で、崔尋の「戦場」は犯人を逮捕する現場ではない。顕微鏡の下にある物証の断片、そして事件の捜査資料の中にある。
「通ったところには、必ず痕跡が残る」。これは恩師から受け継いだ彼の職業上の信条であると同時に、彼自身の人生そのものを表す言葉でもある。
張訳(チャン・イー)が演じる崔尋は、激しい感情をあらわにする場面が少ない。むしろ映画では、鑑識室に座り、物証を何度も照合し、さまざまな可能性を繰り返し検証する姿に多くの時間が割かれている。
役柄を原型に近づけるため、張訳は『中国の名探偵――共和国刑事・崔道植』を読み込み、崔道植氏の家族やかつての同僚を訪ね、痕跡鑑識の実際の作業についても学んだ。
実際に崔道植本人と対面すると、90歳を超えた彼は今なお早足で歩く運動習慣を続けており、机の上には長年愛用してきた顕微鏡が置かれ、現在も教材作りに取り組んでいた。刑事捜査の仕事について語るとき、口数は多くないものの、その情熱は少しも衰えていなかった。
生涯をかけて真相を追い求め、数え切れないほどの事件の謎を解き明かしてきた崔道植。しかし、その胸には一生消えることのない悔恨も刻まれている。6歳の時に母親と生き別れ、その後、二度と消息を知ることはできなかった。今も心から離れないのは、トウモロコシ畑の中へと消えていった母親の後ろ姿だった。
張訳は文章の中で、崔尋という人物の特徴は「内向的で、揺るぎがないこと」だと記している。周囲の人々がどれほど変化していっても、彼だけは長い歳月の中で初心を失わず、岩のように揺るがない。「この役では、『演技力』を意識する必要はありません。なぜなら、あらゆる演技の技術は、ひたむきな信念の前ではかなわないからです」

映画では、刑事捜査に携わる人々の群像も描かれている。馬麗(マー・リー)が演じる黄仁徳は、崔尋の見解が疑問視された際にも、常に彼の側に立ち続ける。ある場面では、周囲の人々が歯形の照合実験に疑念を抱く中、黄仁徳が真っ先に立ち上がり、崔尋に「自分の顔を使って実験してほしい」と促す。
馬麗が演じるのは、科学を信じ、事件に知的かつ冷静に向き合いながら、自らの内なる恐怖も克服し、刑事捜査という仕事に生涯を捧げる女性法医学者の姿である。
(中国経済新聞)
