中国人はなぜ黄金にそんなに執着するのですか

2026/06/22 08:30

6月13日、上海金交易所の現物取引価格(Au99・99)は一時1グラム924元(約2・19万円)に達し、1グラム900元台を回復した。北京菜市口百貨の宝飾カウンターでは、価格が900元を割り込んだ6月11日以降、投資目的の来店者が急増し、5グラムや10グラムなどの小口金地金が完売。翌12日には20グラム、30グラムサイズもほぼ売り切れたという。販売員は「小さいグラム数の金地金が特に人気で、価格反発を恐れて今買う人が多かった」と語る。この光景は、中国社会全体に根付く黄金への強い執着を象徴している。

 この執念は、単なる投機的熱狂ではない。政府レベルから一般国民まで、多層的な理由が絡み合っている。中国人民銀行(PBおC)は2024年11月から19ヶ月連続で金準備を積み増し、5月末時点で7496万オンス(約2331トン)に達した。公的準備資産全体に占める金の割合は依然として低いものの、国際的な「脱ドル化」潮流の中で、戦略的な資産分散を進めている。匯管研究院の趙慶明副院長は、「ドル建て資産のリスク回避として、金積み増しは合理的な選択」と指摘する。中国の外貨準備総額は約4兆ドル規模だが、金の価値は3000億ドル程度と相対的に少なく、米国・ドイツなど主要国に比べて最適化の余地が大きい。

 政府の黄金戦略の背景には、地政学的緊張の高まりがある。米中対立の長期化、貿易摩擦、中東情勢などの不確実性の中で、米国債などドル資産への過度な依存を減らす動きが加速している。世界的に中央銀行の金購入が活発化しており、IMFデータでも金の準備資産比率が上昇。2025年末には世界の公的準備で金が米国債を上回ったとの報告もある。中国はこれを国家的なリスクヘッジとして位置づけ、準備資産の多様化を推進している。将来的には、人民元の国際化や金融主権強化の観点からも、金保有は重要なツールだ。こうしたトップダウンの姿勢が、市場全体に安心感を与え、国民の金志向を後押ししている。

 一方、一般国民の黄金愛は、より根源的で文化的なものだ。中国では古くから黄金は「富の象徴」として尊ばれてきた。歴史的に見て、王朝時代から金は権力・繁栄の証であり、結婚指輪や宝飾品だけでなく、災厄避けや価値保存の手段として親しまれてきた。この伝統が、現代の経済不安の中で再燃している。近年、不動産市場の低迷や株式市場の変動性が高まる中、人々は実物資産である金を「安全資産」として求める。インフレヘッジや通貨価値下落への備えとして、小口金地金や金ETFへの投資が急増している。2026年初頭には金ETF流入が記録的に伸び、春節期の需要も堅調だった。

 価格が高騰しても需要が衰えないのは、中国人の「触れられる安心感」へのこだわりからだ。銀行預金や紙資産ではなく、手元に置ける物理的な金が好まれる。上海や北京の金店では、価格下落時に「今が買い時」と駆け込む姿が日常的だ。 専門家によると、中国の金消費は世界の約30~40%を占め、インドとともにグローバル市場を牽引している。特に若い世代では「金豆」(小さな金粒)のような手軽な投資商品が人気で、日常的な貯蓄手段となっている。経済成長の果実を享受してきた中間層が、将来の不確実性に対して「有形の富」を求める心理は深い。

 この執念のもう一つの要因は、経済構造の変化にある。中国経済は高速成長期を過ぎ、構造調整の局面を迎えている。地方政府債務、不動産セクターの調整、消費低迷などの課題が、家計の資産防衛意識を高めている。金は株式や債券のように市場変動に左右されにくく、グローバルな価値を持つ。地政学リスクが世界的に高まる中、中国国民は「自国通貨や政策に依存しない資産」を本能的に選ぶ。CICCの2026年下半期見通しでも、金の強気市場は継続するとされつつ、変動拡大の可能性を指摘しているが、こうした不確実性自体が需要を刺激している。

政府と国民の黄金志向は、相互に連動している。PBOCの継続購入が市場の信頼を支え、国民の買い意欲を高める。一方、旺盛な個人需要が国内金市場を活性化し、国際価格にも影響を与える。2025~2026年にかけての金価格高騰は、中国の現物需要が大きな要因の一つだ。中国は世界最大の金生産国でもあるが、国内消費がそれを上回る状況が続いている。このサイクルは、産業政策としても重要で、金鉱業や精錬、宝飾産業の成長を促している。

 しかし、執念の裏側には課題もある。高価格による宝飾品需要の抑制、投機過熱のリスク、国際的な貿易摩擦の影響などだ。政府は金市場の健全化を図りつつ、過度な依存を避けるバランスを取っている。国民レベルでは、品質や保管の安全性が新たな関心事となっている。

 中国の黄金への深い執念は、単なる経済現象を超えた文化的・戦略的な表れである。政府にとっては金融主権とリスク管理の手段であり、国民にとっては歴史的伝統と現代的不安が融合した安心の象徴だ。この二つの層が重なり合うことで、中国は世界の金市場で圧倒的な存在感を発揮している。地政学的緊張が続く限り、この傾向は当面続き、グローバルな金価格や金融秩序に大きな影響を及ぼし続けるだろう。将来的には、デジタル人民元や新たな金融商品との融合も見込まれ、中国独自の「黄金戦略」がさらに進化する可能性が高い。

(中国経済新聞)