中国陝西省西安市臨潼区にある華清池(華清宮)景区で、楊貴妃をモチーフにした彫刻作品「貴妃出浴」像をめぐり、再び議論が巻き起こっている。複数のネットユーザーがSNSに投稿したところ、この像が上半身裸で表現されている点について、「不適切だ」「社会の風紀を乱す」「楊貴妃の古典的イメージを損なう」といった批判が相次ぎ、撤去を求める声が広がった。投稿は瞬く間に拡散され、数万人規模の関心を集める事態となっている。

華清池は、中国を代表する古代の温泉地として知られ、周代から秦・漢・隋・唐に至るまで、歴代王朝が離宮を築いてきた由緒ある場所である。特に唐の玄宗皇帝と楊貴妃の恋物語で名高く、白居易の『長恨歌』に詠まれた「春寒賜浴華清池、温泉水滑洗凝脂」の舞台として広く知られている。現在の景区は唐代の遺構を基に再現され、御湯遺址博物館、九龍湖、芙蓉湖などが人気の観光スポットとなっており、国家5A級観光地として毎年多くの観光客を集めている。
問題となっている「貴妃出浴」像は、中国を代表する彫刻家で、かつて広州美術学院の教授を務めた潘鶴(はん・かく)氏が1991年に制作した作品である。制作当時、地方政府の文化部門による審査を経て正式に設置され、華清池が持つ皇家庭園としての歴史的雰囲気を高めることを目的としていた。白い大理石で作られた像は、入浴前の楊貴妃の姿を、豊かな体躯と優雅な佇まいで表現している。2005年には九龍湖付近から現在の御湯遺址博物館近くへ移設されたが、新たに設置されたものではなく、長年にわたり景区の一部として存在してきた。
景区管理委員会の担当者は、メディアの取材に対し、「この像は1991年から設置されており、当時の設計案は地方政府の文化部門の正式な承認を得ています。創作意図は、華清池の歴史的背景を表現することにありました」と説明する。その上で、「中国には古くから裸体彫刻の伝統があります。漢代の壁画や碑刻、銅鏡、さらには敦煌・莫高窟の壁画や彫刻にも、女性の半裸や裸体表現は数多く見られます。これらはいずれも、当時の風俗や美意識を反映したものです」と理解を求めた。

また、景区側は、これまでも市民や観光客から同様の指摘を受けており、すでに上級部門へ報告済みで、現在は判断を待っている段階だと明らかにした。西安市文化観光局も、「華清宮は国家5A級観光地として、毎年専門家による評価を受けています。この像は開園当初から存在しており、新たに建設・追加されたものではありません」とコメントしている。
今回の騒動は、中国社会における価値観の変化を象徴する出来事とも言える。一方で、伝統的な芸術表現を尊重すべきだとする意見も根強い。ネット上では、「芸術作品として美しい」「歴史的背景に基づいた表現だ」「中国の古典美術に裸体表現は珍しくない」といった擁護の声も多く見られる。一方で、「公共の場で子どもが見るにはふさわしくない」「現代の倫理観に合わない」「楊貴妃のイメージを損なう」といった批判も後を絶たない。
こうした議論は、華清池に限ったものではない。例えば、遼寧省大連市の中央大道観光文化ショッピングセンターに設置されていた、高さ約8メートルのマリリン・モンロー像(映画『七年目の浮気』のスカートがめくれ上がる場面を再現したもの)は、2026年1月に撤去された。一部では「女性の下着を強調する表現は不適切だ」と支持されたが、運営側は「計画調整によるもので、世論の論争とは無関係」と説明している。
華清池の「貴妃出浴」像は、1990年代という時代背景の中で制作された作品である。改革開放が進み、西洋美術の影響を受けながらも、中国伝統文化の再評価が進んでいた時期だった。潘鶴氏は『開荒牛』や『珠海漁女』など数々の公共彫刻で知られる巨匠であり、本作もその代表作の一つとされている。しかし、時代の変化とネット社会の拡大により、「不適切」とされる基準が厳しくなる中で、こうした古典的表現が改めて問い直されている。
現時点で景区側は撤去を決定していないものの、上級部門の判断次第では何らかの対応が取られる可能性もある。中国の観光地においては、歴史文化遺産の保存と、現代社会の倫理観とのバランスが常に課題となっている。華清池においても、この彫像の芸術的価値と公共空間としての配慮をいかに両立させるか、慎重な議論が求められている。
千年以上前の楊貴妃の物語は、今なお人々の想像力をかき立てる。温泉の湯気が立ち上る華清池で、彼女の優美な姿に思いを馳せる観光客は少なくない。この「貴妃出浴」像が今後も残されるのか――それは、中国が自らの文化遺産をどのように守り、現代に伝えていくのかを象徴する問いでもあるのかもしれない。
(中国経済新聞)
