中国を代表する名門・清華大学を卒業し、小紅書で年収1.67億元(約34.6億円)を誇示した34歳のウー・ジエン(呉艦)が、米国証券取引委員会(SEC)および米国司法省から民事および刑事の両方で訴追された。この事件は金融業界に衝撃を与え、ウーの経歴と行動が注目を集めている。
ウー・ジエンは2011年に清華大学で工学学士号を取得し、2017年には米国のコーネル大学で運筹学(オペレーションズ・リサーチ)の博士号を取得した。名門校を卒業後、彼は米国の著名なマーケットメーカーであるシタデル(Citadel)でインターンシップを経験。2018年4月には、トップクラスのクオンツ・ヘッジファンドであるトゥー・シグマ(Two Sigma)にクオンツ研究者として入社した。入社からわずか3年足らずで副社長に昇進し、2023年1月には上級副社長に抜擢された。この驚異的なキャリアアップは、彼の才能と野心を物語っている。

2023年、ウーは中国のソーシャルメディア「小紅書」で「都宝」というIDを使い、自身の年収が2022年に2350万米ドル(約1.67億元)に達したと投稿。「友達の輪(WeChatのモーメンツ)には投稿できない。まだ若いから知られていない場所でこっそり自慢したかった」と綴り、年収のスクリーンショットを公開した。この投稿は金融業界で大きな話題を呼び、トゥー・シグマの内部調査を誘発するきっかけとなった。
米国司法省によると、ウーは電信詐欺、証券詐欺、資金洗浄の罪で起訴された。現在34歳でニューヨーク在住の中国国籍のウーは、逃亡中とされており、弁護士情報も不明である。SECの訴状によれば、2021年11月から2023年8月にかけて、ウーは自身が作成または共同作成した少なくとも14の投資モデルを無許可で操作。これらのモデルは、同社が定める「既存モデルと高度に相関しない」基準を満たす独自の予測を生成すると偽り、実際には既存モデルを複製するように改変していた。
この不正操作により、トゥー・シグマの顧客向け証券取引の数量、集中度、頻度が戦略と一致せず、一部の顧客に少なくとも1.65億米ドルの損失をもたらした。一方で、トゥー・シグマの幹部や社員が投資するファンドは、この改変により4.5億米ドルの追加利益を得ていた。ウー自身もこの不正行為により、数百万米ドルの不当な報酬を得ており、2022年には2350万米ドルの報酬を受け取り、その一部でマンハッタンの数百万ドル相当のマンションを購入したとされる。
トゥー・シグマはウーの行為を「意図的な不正行為」とみなし、内部規定違反として厳しく対処する方針を示した。現在、ウーは強制的な行政休暇中であり、SECの調査が進行中である。一方で、一部ではウーが行ったのはモデル自体の変更ではなく、単なる「較正(キャリブレーション)」の調整であり、会社も利益を得ていたことから黙認していた可能性が指摘されている。しかし、顧客の損失を招いた行為は違法であり、たとえ利益を上げたとしても正当化されないとの見方が強い。
ウー・ジエンの事件は、クオンツ業界の透明性と倫理に対する議論を再燃させている。彼の華々しい学歴とキャリアは、本来輝かしい未来を約束するものだったが、過度な野心と倫理観の欠如が命運を狂わせた。SECの調査結果が明らかになるまで真相は不明だが、この事件は金融業界におけるコンプライアンスの重要性を改めて浮き彫りにした。また、小紅書のようなプラットフォームでの過剰な自己顕示が、意図しない形でキャリアや評判に影響を及ぼすリスクも示している。
(中国経済新聞)