中国の富裕層がこぞって日本で家を買う理由

2025/08/2 07:30

はじめに

日本の不動産市場はここ数年、火が付いたように好調である。東京の豪邸から大阪のタワマン、さらに伊豆半島の海沿いの別荘や北海道の土地まで、至る所で中国人が購入している。「日本の物件は半分ぐらい中国人に買い占められた」という冗談も聞かれるほどだ。誇張気味ではあるが、データが状況を物語っている。2024 年末現在、日本に住む中国人の数は 82.2 万人に上り、この 1 年間で 6 万人も増加し、近年にない移住ラッシュを迎えた。この中には、富裕層も随分と多く含まれている。太っ腹であり、100 億円を投じて東京でマンションを一気に 20 棟も手に入れたというケースもある。では、彼らがこぞって物件購入に走る理由は何なのか。

理由 1. 投資先としての優位性

まず、日本の不動産を投資先として選ぶ人が多い。土地代が中国のように倍に跳ね上がることもなく、安定性が売り物として魅力だ。特に東京や大阪などの主要都市では着実に価格が値上がりしており、賃借による収益回収率も高い点が支持される要因だ。さらに土地所有権について、中国では 70 年間と定められているが、日本では永久的なものであり、この点は投資をする上で極めて大きな魅力となっている。

また中国経済がこのところ先行き不透明であり、資産のあり方を見直している富裕層も増えている。彼らは財産の一部を海外へ移すことを検討しており、この点で日本は地理的にも近く、文化も似通っている上に、物件購入について制限が少ないので、第一希望先となっている。日本では国籍がなくても、また長期滞在者でなくても家を容易に購入することがきるので、資金の流動性が一段と高まる点も大きな理由だ。

理由 2.ビザ制度と生活環境の利点

次に、「移住」を狙いとした動きが挙げられる。日本では「住宅購入で移住可」という制度はないが、不動産を購入すれば経営管理ビザを申請する際にポイントが付く。このビザを取得すれば会社を設立したり投資や事業を行ったりすることが可能となり、長期滞在ができるようになる。このように、まず住宅を手に入れるか不動産投資を行い、その後ビザの申請をして日本に住み着こうとする中国人富裕層は多い。

ただ移住する目的は、ビザ取得のような単純なものだけではない。日本のいい点として、多くの人が生活環境を挙げている。街並みがきれいで医療体制や教育制度も充実しており、治安もかなり良い。こうした点が魅力なのだ。特に子供のいる世帯は、日本の外国人学校の整備状況や犯罪率の低さはまさに「うってつけ」の環境である。上海のある知り合いは、「ここで子供が学校に行けば安心だ」という単純な理由で東京にマンションを購入したほどだ。

理由 3. 文化的親しみとライフスタイルの魅力

それともう一つ見逃せないのが、文化的な親しみである。漢字や茶道、そして建物や食文化まで、日本は中国の影響を強く受けており、両国の間には常に「デジャブ-」といった感覚がある。「日本には唐や宋の味わいが残っている」と語る中国人もおり、この点はエリート層からすれば非常に魅力的と言える。

上海のある会社経営者は以前、「日本で暮らすと、子供のころのゆったりとしたテンポに戻った気分になる。隣近所と言葉を交わし、街中の騒音も聞こえない。こうした体験は中国の大都市ではもうあり得ない感覚だ」と話してくれた。このような生活様式に対する憧れから、家の購入や、一家そろって移住という選択につながるのだ。

おわりに

日本では、外国の資金流入による住宅価格の値上がりに対する懸念があり、特に東京や大阪の中心部は一般庶民に手が届かないものとなりつつある。中国人も含めた外国人の物件購入を規制する場合、居住資格や納税証明がないと購入不可といった法改正が必要となる。これは日本政府の判断次第である。

中国人富裕層による日本への移住ラッシュは実のところ、グローバル化と個人の選択が重なり合った結果である。社会と生活が安定し、オープンで文化的な魅力のある日本は、まさしく中国人が必要としていた世界といえる。またこの流れは、「資産の安全を願い、よりよい安定した生活への追求、そして将来に向けた様々な計画」という中国社会の側面を映し出したものでもある。

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アジア通信社(亜洲通訊社)代表取締役社長 徐静波

中国浙江省生まれ。

1992 年来日、東海大学大学院に留学。

2000 年、アジア通信社を設立。翌年「中国経済新聞」を創刊。

2009 年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997 年から連続

25 年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。胡錦涛、温家宝、中曽根康

弘など要人を取材。2020 年、日本政府から感謝状を贈られた。日本記者ク

ラブ会員。

【講演歴】

経団連、日本商工会議所など

【著 書】

「株式会社中華人民共和国」(PHP)、「2023 年の中国」、「日本人の活法」など。

【訳 書】

「一勝九敗」(柳井正氏著)など多数。

: xujingbo922@vip.163.com

: 03-5413-7010

出典:MIZUHO CHINA BUSINESS QUATER SUMMER Vol2 P19-21

(中国経済新聞)