女優那尔那茜は学歴疑惑で作品が放送中止

2025/07/20 16:30

2025年は、本来なら中国の女優那尔那茜(ナー・ナーチェン)にとって飛躍の年になるはずだった。彼女は2本のヒット映画と期待のテレビドラマ『長安の荔枝』で重要な役を演じ、注目を集めていた。しかし、6月に彼女の十数年前の受験記録に関する疑惑がネット上で爆発的に広がり、公式な調査が開始されたことで、彼女の輝かしいキャリアは突然暗転した。この事件は、中国の教育公平をめぐる議論を再燃させ、特権階級への批判を一層強めるきっかけとなった。

那尔那茜は、2008年に中国の大学入試(高考)を通じて上海戯劇学院に入学した。しかし、ネットユーザーが彼女の学歴を調査した結果、彼女が内蒙古自治区の「委託教育」政策を利用して入学した可能性が浮上した。この政策は、特定の地域や民族(彼女の場合はモンゴル族)の学生に対し、入学基準の緩和や卒業後の公務員としての就職保証を提供するものだ。彼女の母親も1980年代に同じプログラムで同学院に在籍していたことから、「母親のコネを利用して入学したのではないか」との疑惑が持ち上がった。

さらに、過去のインタビュー映像が再び注目を集めた。彼女は、卒業後に内蒙古に戻って働くというプログラムの義務を果たさず、ノルウェーに3年間留学したと語っていた。この発言は、定向委培政策の違反行為にあたるとして、ネット上で大きな反発を呼んだ。

6月初旬、中国では数百万人の高校生が高考に向けて準備を進める中、那尔那茜の受験記録に対する疑惑が急速に広まった。特に、ネットユーザーが彼女の高考スコアが極めて低い「179点(満点750点)」だったと推測し、こうした低スコアで名門校に入学できたのは不正な手段によるものだと主張した。彼女が北京の名門校「北京十一学校」で学びながら、高考直前に戸籍を内蒙古に移し、受験資格を得た「高考移民」の疑いも浮上した。

これに対し、内蒙古当局は調査を行い、那尔那茜が2008年に呼和浩特第八中学の卒業生として高考に登録したが、実際には同校での就学歴や学籍がなかったことを確認。彼女の高考登録書類に偽造の疑いがあると発表した。公式発表では、彼女のスコアが179点という噂は誤りで、実際はそれよりも高かったとされたが、詳細な点数は公開されなかった。この曖昧な対応は、かえって民衆の不信感を増幅させた。

中国では、高考は公平な競争の場として、若者が努力で未来を切り開くための重要な機会と見なされている。しかし、那尔那茜の事件は、この公平性が特権やコネによって侵されているのではないかという疑念を呼び起こした。調査によると、彼女が卒業証書を取り戻し、留学を許可された背景にも、規則の抜け穴や特権の影響が疑われている。これにより、定向委培政策そのものの意義や、違約時のペナルティの軽さが問題視されるようになった。

事件が公になった後、那尔那茜の名前は『長安の荔枝』のクレジットから削除され、彼女が出演した複数の作品が放送中止や配信停止となった。さらに、彼女と契約していた大手ブランドも次々と関係を解消。央视(中国中央電視台)は、彼女が出演していた高考応援動画をわずか6時間で削除するなど、異例の対応を見せた。

この事件がこれほど大きな反響を呼んだ背景には、中国社会の構造的な問題がある。近年、失業率の上昇や経済成長の鈍化により、若者の間で「努力よりも人脈が重要」という認識が広がっている。多くの若者が、特権階級がルールを無視して利益を得ていると感じ、こうした不公平に対する不満が高まっている。

(中国経済新聞)