国民的アパレルブランドというユニクロの地位が危うくなっている。中国発の越境ECアパレル会社「SHEIN」は今年9月に日本でのユーザー数が804万人となり、ユニクロの日本でのオンラインユーザー数648万人を上回った。ユニクロが10年かけて積み上げた数字をわずか3年あまりで塗り替えてしまった。
貧困なZ世代に支えられるSHEINとTemu
SHEINは、日本語の通販サイトを立ち上げた2年後の2022年1月に、女子高生のファッション発信地である東京・原宿のキャットストリートに初の常設店舗をオープンした。立地場所を見てもターゲット層を見ても、SHEINの狙いは非常に明確である。
店内にはSHEINの様々な商品が目移りするほど並び、店の細かいデザインについても利用者のSNSから得た趣向がアピールされている。
中にはステッカーウォールがあり、スタイルの違った試着室が3つある。いずれもKOLではなくKOC(キーオピニオンコンシューマー)をかねてから重視していることの表れである。
店では、商品は展示用であり手に入れたければAppのダウンロードが必要という、「展示のみで販売せず」という決まりを設けている。SHEINの目的は、じかに触れ感じてもらう環境を作ることで「商品意識」を打ち立て、品質に対する不信感をなくした上、APPの普及へとこぎつけることである。
品数は大変豊富であるが、競争の決め手になるのはやはり「値段」であり、ニットシャツが200円(9.5元)、アクセサリーが100円(4.7元)、Tシャツもたった334円(16元)である。一方でユニクロは対照的に、このところ国内外で値上げ路線を歩んでいる。大学生やなり立ての社会人からすれば、果たしてどちらが魅力的なのかは言わずもがなである。
SHEINが安値で商品を売れる理由は、もはや有名になっている中国広東省のアパレル企業群の存在である。AIを使ってモダンなデザインを作り、さらに生産面でも小口即対応やコストダウン、スピーディーな新品揃えといった策を講じ、1日の新商品数は老舗のZaraやユニクロを上回る3000件に達している。
日本で「安値」による競争力の引き上げといった方策は、SHEINだけでなく同じく急速に地盤を広げているTemu(拼多多の傘下の海外ブランド)も実践している。
Temuは2023年7月に日本に進出し、今年1月にはユーザー数がSHEINより多い1500万人以上となり、さらに毎月220万人規模で増え続けているという。レディースファッション中心のSHEINとは異なり生活雑貨を特色としていることで、ターゲット層もより広くなっている。
SHEINとTemuはここ1、2年、知的財産権を侵害したと両者が主張し法廷で争っており、控訴した後で両者とも取り下げという事態も発生している。最近では今年8月にアメリカで、SHEINがTemuを相手取り、模造品の販売という不正なやり方で客を集め売り上げを奪われたとして提訴した。SHEINはまた、「Temuの社員に売れ筋商品の企業秘密を盗まれた」「Temuは広告やSNSでSHEINと偽って自社にログインさせている」などと主張している。Temuはこれらを否定している。
このようないきさつから、「どちらが安いか」を競争の軸とした低価格輸出モデルが続かなくなる恐れがある。SHEINはなにしろ、ヨーロッパでの売上高がすでにH&MやZaraの上を行っている。
海外ではこうした安売りに批判の声が上がっているが、中国国内の有識者は「値段が安いのは国内のマーケットが膨大である故に産業全体のコストが低減されているからであり、商品の製造コストは海外より少なくとも30%-40%は低い」と反論している。追加関税を導入する国も出ているが、中国品のコストはやはり競争力があるもので、新エネ車でも同じことが言えるという。
SHEINの最新の動きとして、評価額をこれまでの1000億ドルから500億ポンド(約660億ドル)に引き下げた上、IPOではなくDPO(Direct Public Offering、既存の株式のネットでの一般公開)によるイギリスでの上場を目指しているという。
SHEINは現在、グローバル化を進めながらも海外事業のリスクを軽減するため、本社をシンガポールに移転し、中国では関連会社を一斉に廃止するがサプライチェーン本部を設け、一方でアメリカなど海外市場への強化を続けるという「3か国展開」という形への改革を進めている。上場しやすいように「純然たる中国企業」という印象を薄めることが狙いである。
(中国経済新聞)