「ホテル部屋もシェア」の時代へ? 中国の若者に広がる“拼房”と「搭子」文化

2026/10/6 13:12

「拼房(ピンファン)」まで来た中国の若者の節約術 知らない人とホテルをシェアする「搭子(ダーズ)」文化

相乗り、共同購入、そしてホテルの「相部屋」まで――。中国の若者の間で、「拼(ピン)」と呼ばれるシェア文化が、旅行やレジャーの場面にまで広がっている。

最近では、ホテル代を安くするために、面識のない人と1室を共同利用し、宿泊費を折半する「拼房(ピンファン)」が注目を集めている。その背景にあるのは、単なる節約志向だけではない。そこには、「必要な部分だけ誰かと一緒に過ごし、プライベートな領域は守る」という、若い世代ならではの新しい人間関係の作り方が見えてくる。

「1人で1室」に全額払いたくない!中国の旅行予約サービス「去哪儿(Qunar)」によると、国慶節(建国記念日)の連休期間には、複数人でホテルを予約する「拼好房(ピンハオファン)」の利用が増加。複数人による予約が全体の4割を超え、前月比で倍増したという。

例えば、10月6日に上海ディズニーリゾート周辺の「懐夢Dream Harbor酒店(上海国際旅游度假区店)」に宿泊する場合、通常価格は1泊346元(約7,300円)。一方、「拼好房」を利用すると327元(約6,900円)となり、19元(約400円)安くなる。大幅な値引きではなくても、「宿泊は寝るだけ」と考える旅行者にとっては、数百円の差も積み重なれば大きい。

浮いたお金を食事や観光、コンサートのチケットなどに回す――。「宿泊費はできるだけ抑え、旅行そのものにはお金を使いたい」という価値観が、若い旅行者の間で広がっている。

現在、中国で広がる「拼房」には、大きく2つの形がある。1つは、旅行予約サイトが提供するサービスだ。「拼好房」では、利用者自身が一緒に泊まる相手を探す必要がない。プラットフォーム側が複数の予約をまとめることで、通常より安い料金を提示する。

つまり、「拼」の対象は人ではなく、価格だ。利用者は知らない人と直接やり取りする必要がなく、ホテルの部屋も基本的には個人利用。いわば、アルゴリズムが「誰かを誘う」という面倒な作業を肩代わりしてくれる仕組みだ。

一方、もう1つは、SNSを通じて自分で「拼房搭子(宿泊仲間)」を探す方法。こちらは、文字通り知らない人と1室をシェアする。

小紅書(RED)などのSNSには、「女性で拼房できる人を探しています」、「2日間、1人250元(約5,300円)程度。昼間は一緒に観光できる人希望」、「学生です。お金はすぐに払えます。一緒に食事もできる人」といった投稿が並ぶ。小紅書では「拼房」に関連する話題の総閲覧数が4,000万回を超えているという。

こうした「拼房」を理解するうえで重要なのが、中国の若者の間で広がる「搭子(ダーツ)」文化だ。「搭子(ダーズ)」とは、恋人や親友のような深い関係ではなく、特定の目的や趣味のために一緒に行動する相手を指す。

例えば、スポーツを一緒にする「スポーツ搭子」、食事を一緒にする「ご飯搭子」、コンサートに行く「ライブ搭子」、映画を見る「映画搭子」といった具合だ。

新京報が2025年に発表した「2025若者ライフスタイル報告」によれば、回答者の39.9%が主にオンラインで「活動搭子」を探しており、「趣味をきっかけにつながる搭子関係」は45.38%に達した。

ここで重要なのは、こうした関係が必ずしも「友達になること」を目的としていない点だ。共通の目的を達成したら、それ以上は踏み込まない。

一緒にスポーツをする。一緒に食事をする。一緒にコンサートへ行く。そして、目的が終われば、それぞれの日常に戻る。

この「必要な場面だけつながる」という軽い人間関係が、若い世代にとって心地よいものになっている。そして今、その文化が「睡眠」という最もプライベートな領域にまで入り込もうとしている。

コンサートが「拼房」を加速させる

特に「拼房」が活発になるのが、大型コンサートやイベントの開催時だ。中国では国慶節の大型連休に、周杰倫(ジェイ・チョウ)、薛之謙(シュエ・ジーチエン)、張韶涵(チャン・シャオハン)、王力宏(ワン・リーホン)、A-Lin(アリン)、李健(リー・ジェン)、胡彦斌(フー・イエンビン)、李栄浩(リー・ロンハオ)ら人気アーティストの公演が各地で開催された。

人気公演では、会場周辺のホテルが一気に埋まる。コンサートのチケットには惜しみなくお金を使う一方、「ホテルは寝るだけだから、できるだけ安くしたい」という心理が働く。そこでSNSやファンコミュニティーに、「一緒に泊まれる人を探しています」という投稿が増える。

拼房の方法もさまざまだ。すでにホテルを予約している人の部屋に入れてもらう方法、自分が予約した部屋に同行者を募る方法、最初にメンバーを集めてからホテルを探す方法などがある。

相手を探す場所は、ファンコミュニティーやSNSが中心だ。「同じファンだから安心」はどこまで通用する?SNSで知らない人と同室になる以上、最大の問題は「信頼」だ。ホテル予約サイトの「拼好房」なら、利用者同士が直接相手を選ぶ必要はない。つまり、プラットフォーム側が一定程度「信頼」を引き受けてくれる。

しかし、SNSでの拼房ではそうはいかない。自分自身で相手を見極めなければならない。ある女性ファンの梁怡さん(仮名)は、以前ファンコミュニティーを通じて拼房した経験がある。彼女がまず重視するのは、「同じファンであること」。「同じアーティストが好きなら共通の話題があり、互いに信頼しやすい」と考えるからだ。

ただし、同じファンだからといって、必ずしも「一緒に泊まっても安心」とは限らない。複数回の拼房経験を持つ謝俪さん(仮名)は、相手を選ぶ際にかなり細かくチェックするという。まず自分の予定や希望を伝え、それに対する相手の反応を見る。さらにSNSのプロフィール、いつからそのアーティストを応援しているのか、過去の投稿や保存内容なども確認する。

ファン歴が短かったり、関連する投稿がほとんどなかったりする場合には、コンサートチケットや航空券、ホテルの予約情報などの提示を求めることもある。つまり、「同じ趣味」は信頼の入口にはなるが、それだけでは十分ではない。

拼房で最も恐れられているのが、いわゆる「鸽(鳩)」――約束を突然キャンセルすることだ。例えば2人で1室を予約し、宿泊費を折半する予定だったのに、直前になって相手が来なくなれば、残された側がホテル代を全額負担する可能性がある。そこで若者たちの間では、ある種の暗黙のルールが生まれている。「先に宿泊費を払ってもらう」「デポジットを受け取る」「キャンセルしても返金しないと事前に決める」といった方法だ。

実際、10月3日に同好の友人と拼房した王琳さん(仮名)も、相手には事前に宿泊費を支払ってもらうようにしている。「少なくともデポジットを払ってもらえば、ドタキャンされにくい」という考え方だ。

これは一見すると単純なトラブル対策だが、興味深いのは、若者たちが「信用」を金銭に置き換えていることだ。相手を完全に信用できないからこそ、デポジットという目に見える形で信用を担保する。

「安くなった宿泊費」に含まれる信頼コスト。拼房の魅力は明確だ。1人で泊まれば1室分を負担しなければならないところを、2人で泊まれば単純計算で半分になる。例えば600元(約1万2,600円)の部屋なら、2人で割れば1人300元(約6,300円)。300元(約6,300円)で宿泊できれば、その分を食事や観光、コンサートグッズなどに回せる。

しかし、ここには見えないコストも存在する。相手を探す時間。SNSを確認する手間。

メッセージのやり取り。ドタキャンへの不安。そして、初対面の人と同じ部屋で寝る心理的な負担。つまり、安くなった宿泊費の一部は、「信頼」という別のコストによって相殺されている。

言い換えれば、拼房には「信頼税」が含まれている。次に必要なのは「人を安心してシェアする仕組み」。これまで「拼」の対象は、食事、交通、買い物などが中心だった。

しかし今、その対象はホテルの部屋にまで広がった。「拼好房」が解決したのは、「どうすれば安く泊まれるか」という問題だ。一方、SNS上の拼房が直面しているのは、「どうすれば知らない人と安心して泊まれるか」という問題である。

ここに、プラットフォームが介入する余地がある。例えば、実名認証、本人確認、利用者の信用スコア、宿泊費の第三者預託、デポジット制度、キャンセル時の補償、男女別のマッチング、過去の利用者による評価制度などだ。

「拼好房」がアルゴリズムによって「人を探す手間」をなくしたように、次の段階では「人を信用する不安」をプラットフォームが引き受けることが考えられる。そうなれば、若者が節約できるのはホテル代だけではない。

知らない人を信用できるかどうかを見極めるための、時間と心理的な負担も減らせる。「一人で泊まる」が当たり前ではなくなる?「飯代は割り勘、交通費も割り勘。なら、ホテル代も割り勘でいい」。拼房の広がりは、そんな合理的な発想から始まっている。

しかし、その背景には、もっと大きな価値観の変化がある。若い世代にとって、人間関係は必ずしも「親しくなること」が目的ではない。同じ趣味なら一緒に楽しむ。同じ目的なら一緒に行動する。目的が終われば、それぞれの生活に戻る。

必要なときだけつながる「搭子」という関係性は、現代の若者にとって一つの合理的な人間関係になりつつある。そして「拼房」は、その究極形ともいえる。食事や移動だけでなく、ついには「寝る場所」まで共有する。もちろん、見知らぬ人との同室には安全面などのリスクもあり、誰にでも適したサービスとはいえない。それでも、「一人で1室を使う」というこれまで当たり前だったホテル利用の常識が、若者の間で少しずつ変わり始めていることは確かだ。

「できるだけ安く、必要なときだけ誰かとつながる」。拼房は、そんな新しい若者文化の一端を映し出している。

(中国経済新聞)