一人っ子世代の親が80代へ 中国大都市で「家族だけでは支えきれない」介護の現実

2026/08/13 18:30

中国では、1970年代末から1980年代初めに生まれた一人っ子世代の親が、相次いで80歳前後の高齢期を迎えようとしている。少子化や都市化、人口流動が重なるなか、家族だけでは高齢者を支えきれないケースが増えており、北京や上海など高齢化が進む大都市では、介護サービスを社会全体で支える仕組みづくりが急務となっている。

民政部と全国老齢弁公室が発表した「2025年度国家老齢事業発展公報」によると、2025年末時点で中国の60歳以上の高齢者は3億2000万人に達し、総人口の23%を占めた。65歳以上も2億2000万人で、総人口の15.9%に上る。

中国の高齢化は規模が大きいだけでなく、進行速度も速い。2016年に2億3000万人だった60歳以上の人口は、2018年に2億5000万人、2024年には初めて3億人を突破した。2025年には前年末から1307万人増加しており、2016~2025年の10年間では年間平均約1000万人のペースで増えている。

なかでも北京、上海、天津などの大都市では、高齢化が全国平均を大きく上回る。

北京市では2024年、60歳以上の戸籍人口が447万5000人となり、戸籍人口の31.1%を占めた。上海市では2025年末、60歳以上の戸籍人口が584万3800人に達し、約37.6%を占めている。天津市でも今年7月末時点で、60歳以上の常住人口が365万人、総人口の26.8%に上り、65歳以上は264万人、19.3%となった。

こうした高齢化に加え、一人っ子政策、都市化、人口移動が重なったことで、大都市では家族による介護力そのものが低下している。

かつては複数の子どもが交代で親を介護するケースも少なくなかったが、現在は夫婦と子ども、そして双方の両親からなる「四二一」型の家族が増え、一組の夫婦が4人の高齢者と子どもを支える構造になっている。さらに、仕事などのため親子が別々の都市に暮らすケースも多く、独居高齢者や子どもと別居する「純老家庭」が増えている。

上海市の統計によると、80歳以上の高齢者は89万5600人で、高齢者人口の15.3%を占める。また、子どもと別居する高齢者夫婦や独居高齢者などの「純老家庭」は189万9200人、独居高齢者は36万8300人に達している。

こうした状況を背景に、「子どもが親を介護する」という従来の考え方にも変化が生じている。

上海の高齢者施設を利用する男性は、妻の体調が悪化した後、自身も冠動脈疾患と診断され、娘が両親2人を同時に介護することが難しくなったため、施設への入居を決めた。82歳の女性も、心臓疾患による入院を繰り返すなか、介護施設のスタッフによる24時間のサポートを受けることで、働いている子どもの負担を大幅に軽減できたという。

北京大学の研究者による高齢者への聞き取り調査でも、高齢、要介護、認知症などの高齢者を抱える家庭では、家政婦を雇ったり介護サービスを購入したりするケースが増えている。子どもが仕事を抱えながら日常的な介護や病院への付き添いを担うことには限界があり、「子どもによる介護」から「社会サービスを優先する介護」へと意識が変わりつつある。

もっとも、経済的な余裕がない家庭や、親子が同じ住宅で暮らしている家庭などでは、依然として子どもが介護の「最後の支え」となっている。今後の課題は、家族の負担を完全に切り離すことではなく、家庭だけに依存しない介護体制を構築することにある。

「一刻も早く」ではなく「15分圏内」の介護へ

こうしたなか、中国では政府、企業、地域社会、家庭が共同で高齢者を支える「社会化された介護」への転換が進められている。

特に大都市では、高齢者を住み慣れた地域から無理に離すのではなく、日常生活圏の中で介護サービスを受けられる環境づくりが重視されている。街区の介護サービスセンターや高齢者向け食事提供拠点などを整備し、食事、入浴、生活支援などを身近な場所で受けられる「15分圏内」の在宅・地域介護サービス網の構築が進んでいる。

今年初めには、民政部など8部門が「介護サービス事業主体を育成し、シルバー経済の発展を促進するための若干の措置」を発表し、15分圏内の生活サービス圏を拡大・高度化するとともに、介護サービス事業者のチェーン展開を地域社会へ広げる方針を示した。

民間の介護事業者も都市中心部でのサービスを拡充している。上海では、中心部に近い高齢者施設が、80歳以上の高齢者や基礎疾患を抱え、総合病院へのアクセスを重視する高齢者から支持を集めている。

子どもが車で30分程度で訪問できる距離、いわば「一杯のスープが冷めない距離」で暮らせることが、施設選びの重要な条件になっているという。

さらに、大型の介護施設が周辺の地域や家庭にサービスや医療支援を提供する「都市型介護連合体」のモデルも登場している。施設内だけでサービスを完結させるのではなく、その運営ノウハウや医療機能を地域へ広げることで、在宅介護と施設介護の間を埋める狙いだ。

介護業界関係者によると、大都市中心部では中高級介護施設への需要が着実に増えており、一部では開業から2年以内に満床となる施設もある。今後5~10年間で、都市中心部の介護ベッドは不足する可能性が高いという。

中国の高齢化は、単に高齢者の数が増える問題ではない。一人っ子世代の親が本格的な高齢期を迎えることで、「家族だけで親を支える」という従来の介護モデルそのものが限界を迎えつつある。

「十五五」期(2026~2030年)は、中国が中度の高齢化から重度の高齢化へと進む重要な転換期とされる。今後、介護を「家庭の問題」から「社会全体で支える仕組み」へと転換できるか。大都市で始まった介護サービスの再構築は、中国の高齢社会の行方を左右する重要な課題となっている。

(中国経済新聞)