日本政府の対中戦略見直しの好機が到来した

2026/05/21 15:30

アメリカのトランプ大統領が9年ぶりに中国を訪問した。しかもアメリカが戦時状態にある中での外遊である。商人出身のトランプが、巨大な利益を得られないとわかっていれば、わざわざ北京まで出向いて北京ダックを食べようとはしなかったはずだ。

 今号の『中国経済新聞』では、トランプの中国訪問を報道・分析するために6ページを割いた。今回の米中間のやり取りには、歴史的な転換点とでも呼ぶべき空気が漂っていると、私は感じている。

 トランプが北京に持参したのは、アメリカ大統領としての肩書だけではない。一人の商人としての算盤でもあった。彼はカメラの前で「G2」という言葉を口にした。つまり、世界はあまりにも複雑になりすぎた、いっそ米中両国で共同管理してはどうかという提案だ。

 壮大に聞こえるが、実態は極めて現実的な話である。

 その第一の実験台となるのが、イラン問題だ。このホルムズ海峡は世界のエネルギーの咽喉部を押さえており、日本が輸入する石油の八割以上がここを通過する。この海峡の安全を誰が保証するかは、世界経済の命綱を誰が握るかに直結する。米中が手を組んでこの情勢を安定させることができれば、「G2」は単なる概念ではなく、実際に機能する秩序となる。

 取引の条件も合意された。中国は農産品やボーイングの旅客機など大量のアメリカ製品を購入することを約束し、トランプが国内の有権者に好成績を示せるようにした。一方のトランプは、台湾問題について明確な立場を示したーー台湾独立を支持しない、台湾が独立を求めて動いた場合、アメリカは遠路はるばる軍を派遣して支援することはしない、と。

 トランプは最も率直な言葉で世界に告げた。台湾よ、おとなしくしていろ、騒ぎを起こすな、と。

 高市首相は、理念が明確で立場のはっきりした政治家だ。中国に対する強硬姿勢にも、彼女なりの論理があるーー「日米同盟」を基軸に、台湾問題でアメリカと肩を並べ、中国の台頭に共同で対処するというものだ。

 この論理は、ここ数年においては一定の合理性を持っていた。しかし問題は、トランプが彼女の論理体系が想定するような種類のアメリカ大統領ではない、という点だ。

 高市首相の考えはこうだーー日本がしっかりと立場を守っていれば、アメリカは必ず日本の側に立ってくれる。だがトランプは、同盟国の利益のために動く人間ではない。彼は取引を得意とする商人であり、視野に入っているのはアメリカの利益だけだ。中国がより大きな取引価値を提供できるとなれば、日本の戦略的要求など後回しにされるだけである。

 事実はすでに目の前に突きつけられている。高市首相が台湾問題での発言の結果、日中両国は事実上、正常な交流を中断する状態に陥った。外交の冷却、経済・貿易摩擦、人的往来の停滞ーーこれらの代償を、いま実際に払わされているのは、普通の日本企業と国民である。

 その一方でトランプは、みずから北京に乗り込み、笑顔で握手し、次々と協定に署名した。日本が待ち望んでいたアメリカの後ろ盾は来なかった。代わりに返ってきたのは、ほとんど無関心とも言える傍観者の視線だった。

 高市内閣が発足して以来、「脱中国戦略」が強力に推し進められてきた。サプライチェーンの再構築、対中依存の低減、インド太平洋戦略を枠組みとした対中包囲網の構築ーーこれが基本方針だった。

 この戦略は、かつては相当の支持を集めていた。バイデン政権時代には「デリスキング(リスク低減)」が西側全体の共通言語だったのだから、無理もない。しかし今回、トランプは台本どおりには動かなかった。

 北京訪問で合意された一連の協定が明確に発するメッセージがあるーーAIなど一部の機微領域を除き、アメリカは中国と全面的に協力する姿勢をとる、ということだ。技術協力、エネルギー協力、金融協力、扉は一つ、また一つと、再び開かれようとしている。

 トランプはみずからの手で、歴代政権が丹念に編み上げてきた対中包囲網を引き裂いた。そしてついでに、アメリカにおける「脱中国戦略」の終わりをも宣告した。

こうした状況のもとで、日本がなおも頑なに「脱 中国」路線にしがみつき続けたとしたら、何が待っているのか。道義的な孤立ではない。中国市場の喪失、サプライチェーンにおけるコスト優位の喪失、世界最大の製造業システムとの連携機会の喪失。いずれも、ひどく現実的な経済的代償だ。これは理念の争いではない。国家利益の損益計算書の問題だ。

日中関係の冷却は、すでに半年以上続いている。

外交における強硬姿勢が必要なときもある。それは態度を示し、一線を画すためのものだ。しかし強硬さが惰性となり、代償を顧みない執念へと変質してしまえば、それはもはや戦略ではなく、意地になっているにすぎない。

米中接近は、もはや避けようのない現実だ。日本が阻止できるものでも、日米同盟で覆せるものでもない。

 私が思うに、日本が本当に考えるべきは、この流れにどう抗うかではない。この新たな枠組みの中で、いかに自国にふさわしい立ち位置を見つけるか、である。日本政府が対中戦略を見直すための好機は、すでに訪れている。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立、代表取締役社長に就任。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。

(中国経済新聞)