バイトダンス、中核子会社を最大70億ドルで売却か、サウジ資本が有力候補に

2026/02/16 12:30

2月14日付のロイターの報道によると、中国IT大手の字節跳動(バイトダンス)は、サウジアラビア政府系ファンドPIF(公共投資基金)傘下のSavvy Games Groupと、傘下ゲーム会社「沐瞳科技(Moonton)」の売却に向けた最終協議を進めている。取引額は60億~70億ドルに達する見通しだ。

売却対象には、上海スタジオの複数の開発中タイトルや、広州Lighthouseスタジオの全資産なども含まれるとされる。関係者によれば、主要条件についてはすでに大筋で合意しており、2月中に株式譲渡契約を締結し、2026年第1四半期中の取引完了を目指している。

40億ドル買収から5年、帳簿上は大幅な利益

バイトダンスは2021年、約40億ドルでMoontonを買収した。今回の想定価格で売却が実現すれば、帳簿上は50%超の利益を確保する計算になる。

Moontonは2014年創業。2016年に配信を開始したモバイル向け対戦型オンラインゲーム『Mobile Legends: Bang Bang(モバイル・レジェンズ:バンバン)』は、東南アジアや中南米で国民的な人気を博した。2026年1月時点で、累計ダウンロード数は15億回を超え、月間利用者数は1億1,000万人以上にのぼる。

同作は東南アジアで本格的なeスポーツの仕組みを築き、地域プロリーグ「MPL」や世界大会を開催してきた。2026年にはアジア大会の正式種目にも採用され、1月にインドネシア・ジャカルタで行われた世界大会「M7」は、モバイルeスポーツ史上最高水準の同時視聴者数を記録した。娯楽の域を超え、地域社会に根差した文化的存在となっている。

買収当時、Moontonは東南アジアのモバイル対戦ゲーム市場でテンセント系タイトルを上回る存在感を示していた。テンセントが1億ドルの手付金を支払い有力な買収候補とみられる中、バイトダンスは市場予想(20億~30億ドル)を大きく上回る価格で買収を成立させた。

「流入客+内容」の構想はなぜ揺らいだのか

2019年から2021年にかけて、バイトダンスはゲーム事業で積極的な買収を進めた。短編動画アプリ「抖音(ドウイン)」やニュースアプリ「今日頭条(ジンリートウティアオ)」で築いた膨大な利用者基盤を武器に、「利用者流入+優良開発会社」の組み合わせで業界構造を塗り替えられると判断したのである。

しかし5年を経て、その構想は修正を迫られた。

創業者の張一鳴が退任し、梁汝波体制へ移行して以降、バイトダンスは「無境界の拡張」から「中核事業への集中」へと方針を転換した。人工知能、電子商取引、短編ドラマといった収益性と確実性の高い分野に資源を集中し、2025年には売上高でMetaを上回る四半期もあったとされる。

一方、ゲームは長期投資と高い不確実性を伴う創造産業である。精緻な推薦アルゴリズムや利用者流入の仕組みは、短編動画や電子商取引では効果を発揮したが、継続的な世界観構築や利用者コミュニティの運営、内容の磨き込みが求められるゲーム分野では、同じようには機能しなかった。

実際、バイトダンスの自社開発タイトルは多額の投資にもかかわらず、社会現象級の大ヒットには至らなかった。Moonton自体は年間売上10億~12億ドル規模、2024年には約2億ドルの利益を計上する収益源であったが、グループ全体の中核戦略との結びつきは次第に弱まっていった。

なぜ買い手はサウジなのか

今回の売却で注目されるのは、国内最大手のテンセントや欧米・日本の大手企業ではなく、サウジ資本が有力視されている点である。

テンセントに売却した場合、価格引き上げが難しいだけでなく、市場支配力のさらなる強化により規制上の問題が生じる可能性がある。欧米企業への売却は、地政学的な緊張の中で技術移転に関する審査に直面する恐れがある。

その点、Savvy Games Groupは第三の資本として政治的・規制的リスクが比較的低い。加えて、同社はサウジの国家戦略「ビジョン2030」の一環として、ゲームやeスポーツを次世代産業の柱に育成する役割を担っている。2023年には米ゲーム会社Scopelyを49億ドルで買収するなど、積極的な投資を続けてきた。

とはいえ、世界的な看板タイトルはまだ不足している。『Mobile Legends: Bang Bang』は、その空白を埋める存在となり得る。世界80以上の国・地域に展開する現地運営体制、2,000人超の人材、成熟したeスポーツ運営体系――単なるゲーム作品ではなく、確立された国際的運営モデルを獲得できる点が大きい。

ゲーム産業の曲がり角

2021年は中国ゲーム産業にとって転換点であった。国内市場の成長率は鈍化し、利用者数の伸びも頭打ちに近づいた。各社は海外市場に活路を求め、バイトダンスもその流れに乗った。

しかし最新の市場データによれば、2026年1月の中国パソコン向けゲーム市場の売上は前年同月比23.46%増と大きく伸びる一方、モバイルゲームは1.52%減少している。利用者は軽量型のスマートフォンゲームよりも、高品質で没入感の高い作品を求める傾向を強めている。

結局のところ、ゲームという創造産業では、利用者が対価を支払うのは優れた内容と革新性である。バイトダンスによるMoonton売却は、単なる資産整理ではなく、戦略の再定義を象徴する出来事と言えるだろう。

(中国経済新聞)