中東不動産市場に急増する中国人投資マネー

2025/10/16 18:30

 中東の不動産市場に、中国からの投資マネーが急速に流れ込んでいる。アラブ首長国連邦(UAE)の大手デベロッパー、アルダー・プロパティーズ(Aldar Properties)のジョナサン・エメリー最高経営責任者(CEO)は最近中国で開かれた交流会で、「中国はすでに当社にとって潜在的な巨大市場だ」と語った。

 同社によると、2025年上半期における販売額は183億ディルハム(約3560億円)に達し、そのうち17億ディルハム(約330億円)を中国人投資家が占めた。半年間の販売額はすでに前年通期を上回り、中国人顧客による購入件数は過去3年間で3倍に増加したという。

■ディラハム高騰とともに膨らむ市場規模

 アブダビやドバイといった中東の主要都市では、住宅市場が「量・価ともに上昇」する勢いを見せている。調査会社クレアリー(克而瑞)によると、2025年上半期のアブダビ住宅取引額は前年同期比30%増の219億ディルハム(約4260億円)、平均価格は17%上昇し、過去3年で最高水準となった。

 ドバイでも不動産市場は活況だ。Property Finderの統計では、2025年上半期の取引件数は9万8726件、前年同期比22%増、総取引額は3269億ディルハム(約6兆3500億円)に達した。これは2020年比で10倍を超える水準である。住宅平均価格も前年同期比16.6%上昇し、現在ドバイの住宅価格は1平方メートルあたり約3万8200円、アブダビでは約1万9900円に達している。

■急増する中国人投資家、狙いは「高級別荘地」へ

 ドバイ土地局のデータによると、2024年における中国人の不動産投資額は全体の8%を占め、国別順位で前年の9位から4位へと急浮上した。特に高級住宅市場では15%増と顕著な伸びを見せ、英国・インドに次ぐ第三の外国投資勢力となっている。

 これまで中国人投資家の主流は高層マンションだったが、近年は高級ヴィラやウォーターフロント物件など、より富裕層向けの高級コミュニティへの関心が高まっている。

■「黄金ビザ」など政策優遇で海外マネーを呼び込む

 投資熱を支えているのが、UAE政府による外国人向け優遇政策だ。2019年に導入された「ゴールデン・ビザ(Golden Visa)」は、200万ディルハム(約3880万円)以上の不動産投資を条件に長期滞在を認める制度で、2025年2月には制度がさらに緩和された。最低頭金要件の撤廃、未完成物件(期房)も対象とするなど、外国投資家の裾野を広げている。

 さらに2025年7月には「初回購入者プログラム」が始動し、18歳以上の外国人居住者に対し、優先購入権や割引価格、カスタマイズ型住宅ローンなどの特典が提供されている。

 AldarのエメリーCEOは「高い賃貸利回りと安定した資産価値、人口増加や主権基金の拡大などが、中国投資家を惹きつけている」と分析する。

■税負担の軽さと高利回りが魅力

 クレアリーの丁祖昱(ディン・ズーユー)会長は「ドバイでは登録費4%のみで、土地税や固定資産税はない。購入時の頭金もゼロに近く、外為規制も緩い。こうした条件が海外マネーを呼び込んでいる」と指摘する。

 実際、グローバル・プロパティ・ガイドによると、ドバイの住宅平均賃貸利回りは6.3%、アブダビは6%前後、人気地区では8〜9%に達するケースもある。高級住宅の利回りは世界でも上位に位置する。

■地政学リスクと為替変動への警鐘

 もっとも、「高利回り」の裏にはリスクも潜む。専門家は、投資判断に際して地政学リスクや政策の持続性を慎重に見極める必要があると警告する。

 丁氏は「中東地域は比較的安定しているが、原油価格や外交関係の変化、安全保障情勢によって市場が影響を受ける可能性がある」と話す。

 海外不動産研究者も「一部の地域では供給過剰による価格下落や賃料下落のリスクがある。購入前には税金、管理費、維持費など長期的コストも精査すべきだ」と指摘する。

■中国・中東協力の深化が背景に

 こうした投資拡大の背景には、両地域の経済関係強化もある。2024年、中国とUAEの首脳会談で「一帯一路」やエネルギー転換、デジタル経済など22件の協力案件が締結された。

 復旦大学の羅長遠教授は、「中国のEV、太陽光、リチウム電池などの分野は、アラブ諸国の脱炭素戦略と相性が良く、AIやデジタル経済の協力も広がっている。こうした経済連携が、個人投資家の心理的な安心感につながっている」と述べる。

 高収益を謳う中東不動産市場だが、地政学リスクや政策変動、為替リスクなど、見えないリスクも少なくない。富裕層を中心に“第二のドバイブーム”が広がる一方で、「高利回りの幻想」に冷静な視線を向けることが求められている。

(中国経済新聞)