「和墨神韻」——油彩のなかの「筆墨」

2025/04/22 14:29

在日華人画家、多摩美術大学芸術博士李焱氏の画展「和墨神韻」オープニングが2025年4月16日午後、東京で開催された。同展では李焱の作品54点が展示され、そのうち51点は新作だった。

オープニングでは多くの著名な文化人が出席し、李焱氏の芸術的業績に対する高い評価と深い期待を表した。宮城県蔵王町の竹泉荘の代表取締役、香港名力グループ取締役査美莉氏が、開会の祝辞を述べた。美術史学者、元学習院大学教授で横浜美術大学客員教授の島尾新氏、東京大学名誉教授の河野元昭氏、シンワオークション(株)副会長の馬場元氏が挨拶し、「東洋と西洋を融合し、古代を現代に昇華させた」李焱氏独特の芸術スタイルを称賛した。栃木県真岡市議会議員の日下田喜義氏が乾杯の挨拶を述べ、同展に心からの祝福を贈った。

島尾新先生は、開会式で下記のように述べた。

「李焱は、5歳で水墨を描きはじめ、15歳にしてアメリカで個展を開いた天才少女。それが油彩へと転じて日本へやってきた。私が出会ったのは多摩美術大学で、「筆墨の力」を活かした「油彩の潑墨」ともいうべき激しい表現を試みていた。それから20年たった一昨年の秋に再会して、12月には銀座にあったShinwaギャラリーの展覧会を少しばかり手伝った。今回は同ギャラリーが丸の内に移っての2回目ということになる。油画の世界に入り込んだときの水墨は、顔料のムーヴメントと黒という色彩に対する独特の感覚として作用する。この感覚は「筆と墨と紙」によってこそ培われるもの。

「世外桃源」は2年前の作品で、油彩のなかに墨と余白を活かした山水である。タイトルのとおりなんとなくの文人風で、このおしゃれな感覚も好きなのだが、現在は油彩と筆墨をより融合させる方向へと進んでいる。

「繁花似錦」では、色彩のコンビネーションと化しつつある花弁のなかの「筆墨」が、自在な姿をとりつつよく効いて、しずかな花に「気韻」を与えているのだが、暖色とたたかうこともなく浮いてもいない。

そして「明心見性」では「筆墨」が青の世界の構成要素としてちりばめられている。もとを辿れば輪郭を描く墨線であったり、山水の景観を調える墨のドットだったりするのだが、そうであることを主張することなく、そのもつ表現上の力へと純化され変換されて閑 しずかにしかししっかりと絵を支えている。李焱は「自己と他者の隔たりなき共存」がテーマだという展覧会タイトルの「墨神」は造語だが、「筆墨の力の発露」から「墨に宿る神の奏でる韻に和す」という領域に近づきつつあるように思える。現在も制作中で、展示作品の全体は見ていない。どのようなものが出てくるのかが楽しみである。」と発言した。

(島尾 新/美術史家・元学習院大学教授、横浜美術大学客員教授)

また、東京大学名誉教授河野元昭先生の話によると、李焱の絵は三つの融合でできている。

「李焱の絵画は、一般的には水墨画と油彩画の融合と言われる。

しかし、私は彼女の作品を分析するにあたり、別の三つの融合を提案する。

一つ目は東西の融合、二つ目は具象・抽象の融合、そして伝統と個人の融合である。

まず、西洋と東洋はそのスタイルから水墨画、油彩画の技法のみならず、西洋的、東洋的な思想の融合までを含む。

二つ目の具象と抽象は、前回の東京銀座での展覧会では、まだ具象の要素が多かったが、今回の展示されている作品群では具体的な形は弱まり、より抽象性が高まってきた。しかし、西洋画のスタイルでの抽象ではなく、やはり具体的なイメージが浮かんでくるのだが、ここに彼女の作品の醍醐味がある。

西洋では、壁のシミを見てそれを形に起こすが、李焱はあえて絵画にシミのような形を作り出し、そこにはっきりと具体的なものを描き表さない。しかし見る者は何かしらのイメージ、自分の祖先や太古の、懐かしいような記憶を感じるのではないだろうか。

その理由は、第三の融合、伝統と李焱個人の融合があるからである。

しっかりとした中国、水墨画の伝統、歴史を背景に、今、李焱という個人があるからである。

この強さが、彼女の作品を見るときに、何かしらのイメージを感じる理由なのである。」と称賛した。

(河野元昭:美術史学者。元静嘉堂文庫美術館館長。東京大学名誉教授。秋田県立近代美術館名誉館長。出光美術館理事。)

李焱画展は4月30日まで開催される予定。場所:

東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階

(中国経済新聞)