西安の蔦屋書店、現地に馴染めず閉店へ

2024/10/13 14:30

中国の古都・西安(唐代の首都・長安)にある蔦屋書店が9月9日に突如、10月8日に営業を終了すると発表した。

店員が「悲しまずに本を読み続けて」とのメッセージを印刷し、カウンターの目立つところに掲げた。

 2021年春に颯爽とオープンしたこの書店は、こだわりが感じられるデザインで「キレイな書店ランキング」に登場したことで、街中の若者たちが詰めかけた。

 ところが長続きすることなく、わずか3年で歴史と文化の古都に別れを告げることになった。

 日本では圧倒的人気を誇る蔦屋が、一体なぜたった3年間で消えてしまうのか。

 この店は2021年3月、浙江省杭州、上海に次ぐ中国3号店として西安市雁塔区の邁科商業中心(マイケセンター)にオープンした。

 上を見ると未来感十分の鉄筋高層ビルに挟まれ、見た目はまさに文句なしである。

 店のデザインを担当したのは、代官山の蔦屋書店のデザインも手掛けた池貝知子さんで、大明宮宮殿をヒントにして古都の含蓄とアバンギャルドを交えた形とした。4500平方メートルという広大な面積の2階構造で、書籍数は13万冊である。

 一階部分は新書や新生活、新コンテンツで、中国の文化をくみ取り「温故知新」を体現するコーナーもある。

 二階部分はデザイン系の書籍やイラスト本を中心に並べているほか、クリエイティブ品や雑貨、映像や音楽をたっぷりと楽しめるコーナーもあり、カフェも備えている。

この場所は以前も書店であり、2018年にオープンしかなりの人気を誇ったが2020年に撤退し、今は店名自体が街中から消え去っている。

 そして2021年、蔦屋書店の中国3号店に生まれ変わった。場所は西安市のハイテク産業開発区錦業路の中心部にある邁科商業センターである。ビジネス上の一等地ではあるが、若者たちが寄り集まるスポットではなかった。

 西安では、「あまりに遠すぎる」という不満の声が後を絶たなかった。

「一回行けばもう十分。近くに住んでいるわけでもなく、一時間もかけてわざわざ行こうなんて思わない」といったコメントが出ている。

 これこそ、人気が続かなかった理由の一つである。邁科商業センターは、地元の人に言わせれば、郊外環状高速の近くで、少し南に行けば「自転車で長安県まで行ける」ところである。

 市街地南西部の住民にとってはやや近いが、北部や東部から来るなら地下鉄で40~50分はかかる。

 また、似たような商業施設が住まいの近くにもあって蔦屋に行く用事でもない限りわざわざ足を運ぶことはない、という人もいる。

 またこの店は、蔦屋の別の店舗と同じく値段が高くて敬遠されている。

 海外の書籍や芸術本、イラスト本がふんだんにあるので当然高価にはなるが、問題なのは「為替レート」である。

 「イラスト本の値段はほぼ円価格の下一桁の0をとったもので、今は円安なので元値の2倍になっている」「小物品なども随分と高い。ジブリのトランプは日本で36元で買ったことがあるが、ここでは70元だ」とのコメントがある。

 ども連れで一度行ったがもう二度と行かない、という親もいる。本を読む所ではないと言い、「本棚は本当に立派だけれど座って読む場所がなく、地べたにも座れない。ネットでは騒がれるが読む人はいない……」とのことである。

 今年の前半に北京でオープンした蔦屋書店も、似たような問題が起きている。

 店で、王さんという女性が新書のパッケージを店員に開けてもらおうとしたところ、「自分でやって」などと言われ、開けようとした際にうっかりとページを破ってしまった。そこで店員に、全額を賠償するよう言われたという。

 この件はネットで随分反響を呼んだ。王さんは、壊したものを弁償するのは当然だとする一方で、立ち読み用の本がないことに疑問を投げかけた。

蔦屋は現在、中国に12店舗あり、すべてがフランチャイズ店である。このうち1号店である杭州店と、上海の上生新所と前灘太古里の計2か所、西安店の計4店が「蔦屋書店」であり、それ以外は「TSUTAYA BOOKSTORE」という。

 蔦屋は2020年に中国に上陸し、大型店100店と小型店1000店の計1100店を構える予定としている。

 今の状況を見ると、この計画はほぼ大型店舗のネットでの人気に依存しているように見え、日本のように街中に浸透させるにはまだかなりの道のりが必要と思われる。

 蔦屋書店の創業者である増田宗昭氏は立ち上げ当初、「生活スタイルの情報を提供する拠点」というコンセプトを掲げた。本を売るだけでなく生活スタイルを売ること、これが長期的な目標なのだった。

 西安の蔦屋書店の背後には、邁科集団が存在している。公開情報によると、蔦屋を呼び寄せ、同社の子会社である蔦屋投資(上海)有限公司とともに店舗開設を果たしたのは、邁科投資控股の全額出資子会社である西安邁騏図書文化伝播である。

邁科投資は1993年創立の陝西省地場の民間企業で、近代的物流やフィナンシャル事業などを主に手掛け、経営トップである何金碧氏の夫婦はともに何度も胡潤の中国長者番付にランクインしている。蔦屋は開店当初、邁科センターの重要なテナントであって、ビジネス上で文化全体を引き上げていく大切な存在であった。

 それぞれ思惑を抱えている中国のフランチャイズ経営者が、増田氏の長期主義を粘り強く徹底できるか、あるいは本当に「生活スタイルの提供者」という役割で中国の一般市民に浸透していけるかは、かなり疑問視せざるを得ない。

 蔦屋は結局、中国に馴染めなかったのである。

 西安の店では、夏場を迎えて割引セールを始めたことで売上も伸びたが、売れたあとの本棚が空いたままで補充をしていない様子から、本当に閉まってしまうのか、との思いが出始めている。

(中国経済新聞)