北京で行われていた中国共産党の第20回「三中全会」は、政治や経済、社会の今後10年間の目標を打ち出して7月18日に閉幕した。全体としては、中華人民共和国の建国からちょうど80年となる2029年までに改革の任務を完成させ、2035年までに高水準の社会主義市場経済体制を完全に構築し、国の統治体系や統治力の現代化や、社会主義の現代化をほぼ完成するとしている。
中国は、新型コロナウイルスの終息が発表されたその時から、著しく後退してしまった経済状況の中で、年に一度の共産党の最高意思決定会議に厚い期待が寄せられていた。これ以上の後退を阻止できるような一連の救済策が打ち出されることを願っていたのだ。しかし今回の三中全会では、国民の大部分の期待には沿えず、遠大でガイドライン的な目標とその実行ステップが示された。
三中全会のコミュニケによると、2029年までの改革任務完成のために次のような目標が示されている。
1, 高水準の社会主義市場経済体制を構築し、経済の質の高い発展体制を健全に進めていく。
2, 全面的なイノベーション体制を構築し、マクロ経済の統治体系を健全化する。
3, 都市との農村部が融合し発展する体制を整備する。
4, 高水準の対外開放体制を整備する。
5, 全過程の人民民主制度体系を健全化し、中国の特色ある社会主義法治体系を整備する。
6, 文化体制の改革を深化する。
7, 民生制度体系を健全に保障し改善する。
8, 生態文明の体制改革を深化する。
9, 国の安全体系や能力の現代化を推進し、国防や軍の改革を引き続き深化する。
10,全面的な改革の深化や中国式現代化の推進に対する党の指導レベルを引き上げる。
それでは、これら10項目の目標を果たすにはどうするか。コミュニケでは以下の方策が打ち出された。
1, 経済面について、より公平で活力のある市場環境を創造し、公有制経済をゆるぎなく打ち固めて発展させ、非公有制経済をゆるぎなく後押し、支持、誘導し、各種の所有制経済で、生産要素を法に従い平等に使用させ、市場競争に公平に参加し、同等に法的保護を受けられるようにし、各種の所有制経済は長所を補い、ともに発展させていく。全国統一の大きな市場を構築し、市場経済の基礎制度を整備する。
2, 新しい質の生産力体制を地域に応じて健全に発展させ、実体経済とデジタル経済を深く融合する制度を健全に促進し、サービス業の発展体制を整備し、現代化インフラ整備体制を健全化し、産業チェーンとサプライチェーンの強さと安全レベルの制度を健全に引き上げる。
3, 教育、科学技術、人材は中国式現代化の基礎的で、戦略的な支えである。新たな挙国体制を健全化し、国家イノベーション体系全体の機能を引き上げる。教育の総合改革、科学技術の体制改革、人材発展の体制改革を深化する。
4, 国家戦略計画の体系や政策の統括、協調体制を整備し、税制改革、金融体制の改革を深化し、地域で協調発展する戦略体制を実施する。
5, 新たな工業化や都市化、農村の全面振興を統一手配し、都市との農村部の要素の平等な交換や双方向の流れを促進し、都市と農村部で差を縮小し共同で繁栄、発展させていく。新たな都市化体制を健全に推進し、土地制度の改革を深化する。
6, 対外開放という基本的国策を堅持し、超大規模な市場という利点を支えに、国際協力を拡大する中で開放力を引き上げ、より高水準の開放型経済という新たな体制を整備する。制度型開放を緩やかに拡大し、貿易体制の改革や外国企業の投資、対外投資の管理体制の改革を深化し、地域開放の仕組みを改善し、質の高い「一帯一路」体制を整備、推進する。
7, 国の安全体系を健全化し、公共安全統治体制を整備し、社会の統治体系を健全化し、外交面の安全体制を整備し、国家の長期的な安定を確実に保障する。軍の強化戦略という改革を深く実施し、共同作戦体系の改革を深化し、国防と軍の現代化をほぼ実現する。
5000字に及ぶこのコミュニケではまた、内需の格上げ、社会の安全保障、医療衛生の改善、財産の分配など、広範な目標が並べてある。しかし市場関係者によると、これらの目標は過去数年間に政府公式発表でしばしば見られたもので、真新しいものは少ないという。
コミュニケではまた、今抱えている差し迫った経済問題について「発展と安全を両立させ、不動産、地方政府の債務、中小の金融会社など主な分野のリスクの予防や解消をする様々な措置を確実に実行する」と書かれている。しかし、消費者の自信回復や外国資本の流出など外的な課題への対応や、経済再建の方策について、特に示されたものはない。
中国経済は今、疲弊している。工業生産額が落ち込み、輸出も減り、第2四半期の経済指標も予想を下回った。一方で不動産の不振も緩和する兆しがなく、個人消費も低迷状態である。加えて地政学的な問題、地方の債務、不動産、高齢化社会、若者たちの雇用など、一連の厄介な問題で国民の多くは将来に自信が持てなくなっている。
三中全会が始まった15日、習近平総書記は共産党機関誌の「求是」に、「自信と自立を堅持すること」とのタイトルで文章を発表した。この中で、2016年に発表していた「党全体で進路の自信、理論の自信、制度の自信、文化の自信を定めるべきだ。今の世界で、どの政党、どの国、どの民族が自信があるかと言うなら、それは中国共産党、中華人民共和国、中華民族にほかならない」との一説を引用している。
習総書記はこの文章で述べた通り、今回の共産党会議を利用して再び「質の高い発展は社会主義現代化国家を全面的に整備する上での一番の任務だ」と述べた上、「新たな質の生産力」を発展させる重要性を強調した。
「新たな質の生産力」とは習総書記が去年打ち出したもので、技術研究や技術革新により製造業の現代化を実現することで、高成長の新時代を切り開くことである。
しかし今回の三中全会は、国民の自信を高めるものにはならなかったようだ。
ただし経済学者の間では、コミュニケについて「新しいアイデアもないが、政府が経済の先行きに心配感を抱いていると明言したことで、景気刺激策が続々と打ち出されるのではないか」との前向きな考えも出ている。
7月21日、三中全会で採択した独自の発展モデル「中国式現代化」の推進に関する決定の全文を公表した。不動産不況の長期化で地方政府の巨額債務が問題となる中、嗜好品に課される「消費税」の税収を地方に配分するなど、地方財源を拡大する方針を示した。また、不動産政策でも地方政府の裁量を増やすほか、不動産税制を改善する方針も示した。一方、消費喚起策では、所得分配の改善や、基礎年金引き上げなどの社会保障制度見直し方針などは盛り込まれたが、具体性を欠く記述にとどまった。
(中国経済新聞)