アメリカ大統領選挙で共和党から出馬している前大統領のトランプ氏は、7月15日の党大会初日で、39歳の上院議員・バンス氏を相棒役にするという驚きの発表をした。トランプ氏が当選すれば、バンス氏は副大統領となる。
副大統領候補のバンス氏は過激な「反中国派」
家が貧しく「田舎者」だったバンス氏は、海軍陸上戦闘隊員、エール大学法科大学院博士課程修了を経て弁護士、ベンチャーキャピタリスト、ベストセラー作家となった。「1980年代生まれ」の上院議員が初めて全米で脚光を浴びたのは、トランプ氏が予想を覆してベテランのヒラリー氏を破り大統領当選を果たした2016年である。ベストセラーとなった回想録「ヒルビリー・エレジー」で、「ラストベルト」(錆びついた工業地帯)で辛酸をなめつくし、白人労働者の生活でもまれた経験を描いた。トランプ氏が当選に至った本当の理由をリアルに描いたものと見られている。
ただしバンス氏は当時、トランプ氏について「絶対に支持しない」と言い、「ばか」「文化的なヘロイン」「アメリカのヒトラー」と称した。しかし2021年に上院議員選挙に出馬した際に、それまでの態度を一変させ、トランプ氏を「アメリカの偉大なリーダー」と称賛し始めたのである。
バンス氏は、中国訪問の経験があるか否かは今のところ定かでないが、中国について経済や技術や軍事面でアメリカに重大な課題を与え、ロシアよりも脅威であるとみなしている。
バンス氏は7月16日、副大統領候補への指名後から初めて臨んだ取材で、中国をアメリカの「最大の脅威だ」と語った。
アメリカのメディア・ブルームバーグによると、バンス氏はウクライナ問題に対する質問に答えた際、トランプ氏ならロシア、ウクライナと交渉して「この問題を速やかに決着させるだろう。そうすれば真の課題に集中できる。それが中国だ」と述べたという。
バンス氏は、「中国はわが国の最大の脅威であるが、われわれはこの問題にまるで専念していない」と述べた。
またバンス氏は台湾問題について、アメリカの政策は「事実上のあいまい戦略だ」、「われわれはまず、できるだけ中国による台湾への占領へのハードルを引き上げるべきだと思っており、率直に答えると、中国が台湾を攻撃したらどうすべきかをはっきりさせるべきだ」と話している。
「今できることは、彼ら(中国)が台湾進攻した際に高価な犠牲を払わせることだが、われわれはそのようにしていない。なぜならどうでもいい武器を台湾でなくウクライナに与えているからだ」と述べた。
バンス氏は、台湾は中国に攻め込まれたらパトリオットミサイルがどうしても必要になるという。「ウクライナへの支援を理由に台湾へのパトリオット供与を遅らせてはならない。すでに台湾はアメリカに9億ドルを支払っているからだ」と強調している。
バンス氏は、軍事力は工業から生まれるものと見ている。アメリカがスーパー軍事大国になれたのは、1980~90年代の工業基盤によるものだという。一方で、現在の中国の工業はアメリカを超えていることから、20年以内に軍事力もアメリカを上回ることになりそうだ。
バンス氏の話は本人の見解であるほか、トランプ氏の立場を示すものでもあり、ともに中国をアメリカの最大の脅威と見ている。バンス氏は今年6月もニューヨークタイムズで、「多極化する世界でわれわれは同盟国に大胆に行動させなくてはならず、東アジアにひたすら注力していく」と同様の見解を述べていた。中国は向こう20年ないし30年間の「最も重要なライバルだ」というのである。