中国はなぜTPPに加盟したいのか

2022/04/27 08:17

 中国は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」への加盟を正式に申請した。

 商務部(省)の王文濤部長は2021年9月16日、CPTPPの寄託国であるニュージーランドのダミエン・オコナー貿易・輸出振興担当大臣に、中国のCPTPPへの正式な加盟申請書を送った。両大臣は電話会談も行い、中国の正式な加盟申請に関する今後の作業について話し合ったという。

 商務部(省)の束珏婷報道官は行った定例記者会見で、「中国はすでに『環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定』ルールについて全面的な研究評価作業を行っており、これから市場参入分野において中国がこれまでに締約し実践してきたレベルを超える高い水準の開放を承諾するつもりだ」と述べた。

 束報道官は、「中国は国内の大きな循環を主体としつつ、国内と国際的な二つの循環『双循環』によって相互に促進し合う新発展局面の構築を加速しており、これは世界各国により広大な市場と発展チャンスをもたらすことになる。CPTPPへの加盟申請には中国が引き続き改革を深化させ、開放を拡大しようとする意欲と決意が体現されている」と述べた。

 束報道官によると、CPTPPへの加盟を積極的に推進するため、中国はこれまでにこの協定のルールについての全面的な研究評価作業を行い、CPTPP加盟のために採用しなければならない可能性のある改革措置と修正しなければならない可能性のある法律法規をまとめ、また今後は市場参入分野において中国がこれまでに締約し実践してきたレベルを超える高い水準の開放を承諾するつもりであり、加盟国にビジネス上の利益が備わった市場参入の機会を提供することになるという。

 束報道官は、「中国はこれからCPTPPの関連プロセスを踏まえ、各加盟国と協議を進めていく」と述べた。

 また束報道官は、「中国は一貫して自由貿易を支持し、現在は世界に向けた高い水準の自由貿易圏ネットワークを積極的に構築しており、特に新型コロナウイルス感染症の背景の中、中国は各方面とともに、地域経済一体化と貿易投資の自由化・円滑化プロセスを積極的に推進して、グローバル経済の回復成長のためにより大きな貢献をしていきたいと考えている」と強調した。

 CPTPPを巡っては、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の旗振り役を務めてきた米国がトランプ前政権の下で離脱したため、米国を除く日本、カナダ、オーストラリア、チリ、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、メキシコ、ペルーの11ヶ国での出直しを余儀なくされたものの、日本が主導する形でCPTPPに『衣替え』して2018年末に発効するなどアジア太平洋地域における一大経済圏が構築された。カバーする人口は4億9800万人、加盟国の国内総生産(GDP)の合計は世界経済全体の約13%を占める。

■CPTPPへの参加が中国にとっての意義とは?

 中国を含む15か国が15日、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に正式締結したことで、世界最大の自由貿易圏が誕生を告げた。RCEPはASEAN10か国と中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを含み、総人口は22億7000万人、GDPは26兆ドル、輸出総額は5兆2000億ドルに達し、いずれも世界全体の約30%を占める。CPTPPはRCEPと参加国がある程度重なり合うことに難なく気づく。RCEP締結後、世界第2の経済大国である中国がCPTPPに参加するか否かが、世界的に大いに注目されている。今や中国の国家元首も参加に前向きな姿勢を表明した。これは間違いなくCPTPPの発展にとって重大な良いニュースであり、将来への期待が一層高まる。

 より低い関税、より自由な貿易が、全ての自由貿易協定に共通の特徴だ。RCEPへの締結により、中国が他の国・地域と締結した自由貿易協定の数は19となった。CPTPPへの「参加の前向きな検討」が、中国の輸出市場の拡大に寄与し、対外貿易・投資の布陣をさらに優れたものにすることは難なく予測される。

 また、CPTPPへの参加には比較的高い制度的敷居があるため、中国は交渉参加過程において自国のより深いレベルの制度的開放を推し進め、「第14次五カ年計画に関する提議」における『グローバルな高水準の自由貿易圏ネットワークの構築』という目標へ向けてさらに一歩進むことにもなるだろう。

 国際通貨基金(IMF)は今年、世界経済は4・4%縮小すると見るが、中国は世界の主要エコノミーの中で唯一プラス成長を実現する見通しだ。中国がCPTPPに参加した場合、自国の経済・貿易の発展に新たな道を切り開くだけでなく、アジア太平洋自由貿易圏の早期完成、世界経済の回復推進にとっても力強い原動力となることが予想される。

■議長国の日本は、消極的な態度

 日本政府は中国政府の加盟申請に対し、消極的な態度を示されている。

 岸田文雄首相は2021年10月4日夜の記者会見で、中国の環太平洋経済連携協定(CPTPP)への加盟に慎重な姿勢を示した。「中国がこの貿易協定が求める高い水準を満たすことができるかどうかを見ていかなければならないCPTPPの高いレベルを中国がクリアできるかどうか。なかなか不透明ではないか」と言明した。

 岸田首相は国有企業を重視する点や知的財産権への対応などでCPTPPが求める自由貿易の基準を満たすのは困難だとの見方を提示した。

 第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミストの西濵徹氏は、「仮に中国が様々なハードルをクリアしてCPTPPに正式加盟することが出来るとすれば、CPTPPの枠内の経済規模は世界全体の3割以上に達するなど、RCEPと並ぶ形でアジア太平洋地域に一大経済圏が構築されることになる。ただし、CPTPPに正式加盟するためには中国が既存の秩序を遵守するとともに、それに合わせて国内の法制度の改正などに取り組むなど『行儀よく』なる必要があるものの、上述のように攻撃的な動きを強めていることを勘案すれば、表面的に取り繕うことはあっても内実が変わる可能性は低いと見込まれる。よって、今後行われる協議については、中国のWTO(世界貿易機関)加盟を巡る交渉が事実上形骸化される形で今に至っている状況に鑑みて、透明性と公平性を前提とするルール作りというCPTPPの原則を曲げることなく、高い水準の自由貿易の枠組を中国に受け入れさせる努力が何よりも求められよう。他方、仮に中国がCPTPPに正式加盟すれば、中国は枠組全体の半分近い経済規模を有するなど圧倒的な存在感を示すことになり、枠組内の国々は中国経済に対する依存度を高めていくことは避けられそうにない。また、強大な経済的影響力を追い風に中国はアジア太平洋地域における外交及び安全保障面での『圧力』を強めることも予想される。」と分析した。(文・山本博史)