宇樹科技のIPOで巨額利益 早期投資家に「数百倍」のリターン、次の勝者探しへ

2026/08/20 11:00

中国のロボットメーカー、宇樹科技(Unitree Robotics)が19日、A株市場に上場し、初日の取引で株価が一時900元(約2万1150円)を超え、時価総額は3500億元(約8兆2250億円)を突破した。

わずか10年ほどで小規模なロボット企業から中国を代表する人型ロボットメーカーへと成長した宇樹科技。その急成長の裏側では、創業初期から投資してきたベンチャーキャピタルや個人投資家が巨額の含み益を得ている。

創業当初は「十数人」の小さな会社

宇樹科技への投資を2020年に始めた祥峰投資(Vertex Ventures)の元投資担当者、趙楠氏は、6年前に初めて同社を訪れた当時を振り返り、「チームは十数人ほどで、オフィスには部品を製造する工作機械もあった」と語る。

当時、創業者の王興興氏は著名大学の出身ではなく、十分な職歴もなかったうえ、ロボットという当時は比較的ニッチな分野に取り組んでいた。そのため、初期の資金調達では有力投資機関から断られることも少なくなかったという。

宇樹科技は当初、個人投資家の尹方鳴氏から200万元(約4700万円)の出資を受け、その後2018~19年のエンジェルラウンド、Pre-Aラウンドで複数の投資機関から資金を調達した。当時の企業価値は「億元規模」、すなわち数億元程度だったとされる。

ところが現在、その企業価値は3500億元超。単純比較すれば、創業初期の評価額から数千倍規模に膨らんだことになる。

投資家が評価した「王興興氏の執念」

祥峰投資が2020年に投資を決めた背景には、王氏の技術力だけでなく、製品の量産化を重視する姿勢があった。趙氏によれば、王氏はロボット開発に「ほぼ執着に近い」情熱を持ち、研究室での技術実証にとどまらず、量産や工場建設まで重視していたという。

危険な現場で四足歩行ロボットを活用する可能性にも投資家は注目した。中国企業が製造コストを引き下げることができれば、大きな市場が生まれると判断したという。

2020年の時点で宇樹科技は、減速機、コントローラー、モーターなどに関する特許を蓄積し、製品ラインアップも明確に計画していた。顧客にはMeta、Google、Apple、NVIDIAなど世界的なIT企業も含まれていた。

紅杉中国の李彦男・董事総経理も、最終的な投資判断の決め手はビジネスモデルの確実性よりも「起業家としての王興興氏」だったと説明している。紅杉中国の評価では、王氏は「極めて少数の異色の起業家」を意味する「Outlier」と「Vision」の両項目で10点満点中9点を得たという。

消費向けロボットから人型ロボットへ

2021年には宇樹科技が中国の春節恒例番組「春晩」に登場し、消費者向け四足歩行ロボット「Go1」を発表。雷軍氏が率いる順為資本も約1000万ドル規模の投資を行い、この時点で企業価値は10億元(約235億円)規模に達していた。

その後、資金調達は加速。2022年には経緯創投、Hexagon、深創投、順為資本、中国互聯網投資基金などが相次いで出資した。

2023年には人型ロボットを発表。2024年には源碼資本、美団、中信証券などが株主に加わり、2025年にはテンセント、アリババ、アントグループなど大手企業の名前も並ぶようになった。公開された目論見書によると、宇樹科技の株主数は46社・者に達している。

美団は約4.2億元投資で「300億元」規模の含み益

IPOによって特に注目されているのが、創業初期から投資してきた株主のリターンだ。美団(Meituan)傘下の漢海信息、Galaxy Z、成都龍珠は宇樹科技株について共同歩調を取る関係にあり、美団系の合計保有株数は3512万3600株、上場後の持ち株比率は8.69%となる。

時価総額3500億元を基準にすると、美団系の保有株式価値は約304億元(約7144億円)。資料によれば、美団側は2024年1月以降、累計約4.20億元(約98.7億円)を投資しており、単純計算では約300億元(約7050億円)の含み益を得たことになる。

紅杉中国は約1億元の投資から224億元規模へ

紅杉中国も大きな勝者の一つだ。紅杉中国は寧波紅杉、厦門雅恒を通じて2589万9500株を保有し、上場後の持ち株比率は6.4%。時価総額3500億元を基準にした保有株式価値は224億元(約5264億円)を超える。一方、IPO資料によれば、紅杉中国の累計投資額は約1.02億元(約24億円)。単純計算では、約223億元(約5240億円)の含み益となる。

経緯創投も170億元超の含み益

経緯創投は経緯壹号、経緯参号を通じて1984万9200株を保有。上場後の持ち株比率は4.9075%で、保有株式価値は約171.9億元(約4040億円)となる。累計投資額は約1.29億元(約30.3億円)で、単純計算した含み益は約170.6億元(約4009億円)に達する。

また、創業初期に200万元(約4700万円)を投資した尹方鳴氏にも注目が集まっている。同氏の出資分はその後譲渡を経て、2020年に君万弘毅へ移った。現在、同機関は宇樹科技1117万4900株を保有し、上場後の持ち株比率は約2.76%。

時価総額3500億元を基準にすると、この保有分の価値は約96.6億元(約2270億円)。尹氏が君万弘毅の約16.62%を保有しているとされることから、間接的な保有株式価値は約16.05億元(約377億円)に相当する。

「次の宇樹」を探す投資家たち

宇樹科技の成功を受け、中国では「次の宇樹科技」を探す動きが加速している。

IT桔子のデータによると、2026年上半期、中国の具身知能(エンボディドAI)分野の資金調達総額は935億元(約2兆1970億円)に達し、前年同期の約5倍となった。資金調達件数も322件と、前年同期比137%増加した。

資金は具身知能向けの大規模モデル、大規模なデータ収集、製品の量産・納入などに集中している。

また、今年上半期にはロボット関連企業10社が香港市場に上場。A株市場でも、雲深処、楽聚智能、越疆科技などがIPOプロセスに入っている。

智元機器人、銀河通用など、企業価値100億元(約2350億円)を超えるユニコーン企業も相次いで誕生している。今年上半期だけでも、雲深処、自変量、智平方、星海図、千尋智能、衆擎智能、霊心巧手、光輪智能、星塵智能、星動紀元など、多数の企業が新たに注目を集めた。

投資家は「次の勝者」をどこに見いだすのか

宇樹科技に投資した機関も、次なる投資先を探している。

紅杉中国は2026年上半期に少なくとも20件の資金調達案件に参加し、14社に投資。深創投も少なくとも12社に投資したほか、美団やテンセントも複数の具身知能関連企業への投資を進めている。

注目されるのは、宇樹科技の初期投資家の一人だった尹方鳴氏だ。今年7月には銀河通用の主要人物として名前が確認されており、現在は同社の董事長を務めている。

一方、2023年に祥峰投資を離れた趙楠氏も、早期投資・アクセラレーション機関を設立し、AI、ロボティクス、コンシューマーハードウェアなどへの投資を進めている。

趙氏は、宇樹科技について「過去に掲げた製品の反復計画を実現してきた点が特別だ」と評価する。そのうえで、今後の注目点として宇樹科技が具身知能の「頭脳」部分でどこまで発展できるかを挙げた。

ただし、「次の宇樹科技」が必ずしもロボット本体メーカーから生まれるとは限らない。むしろ、まだ市場の注目が十分に集まっていない別の分野から、次の巨大企業が誕生する可能性もある。

宇樹科技のIPOは、1社の成功物語にとどまらない。数百倍規模のリターンを生み出した初期投資家の存在は、中国のロボット・具身知能市場に巨額の資金を呼び込む新たな呼び水となっている。今後は、宇樹科技に続いてどの企業が「次の勝者」として台頭するのかが、投資市場の大きな焦点となりそうだ。

(中国経済新聞)