この夏、中国を訪れる外国人観光客の熱気が高まっている。中国では今、観光名所を巡るだけでなく、漢服やチャイナドレスを着て写真を撮ったり、ネイルサロンを訪れたりする「体験型消費」が外国人旅行者の間で人気を集めている。
中国国家移民管理局によると、2026年上半期に中国に入国した外国人は延べ2291万4000人で、前年同期比20.4%増加した。このうち、ビザ免除措置を利用して入国した外国人は1781万5000人に達し、外国人入国者全体の77.7%を占めた。ビザ免除による入国者は前年同期比30.6%増と、大幅な伸びを見せている。
こうした外国人観光客の急増は、宿泊や飲食、交通だけでなく、写真撮影や美容など中国の日常生活に根ざしたサービスにも波及している。一部の店舗では、外国人客が国内客を上回るケースも出ている。
中国のSNSでは、漢服やチャイナドレスを身にまとい、中国らしい街並みを背景に撮影した外国人観光客の動画や写真が相次いで投稿されている。海外のSNSで公開された漢服の旅フォト体験動画には、100万回を超える再生数を記録したものもある。「旅拍*(lǚpāi)」(旅フォト)店では、外国人客が95%を占めている。

中国の生活情報・口コミプラットフォーム「美団」によると、7月の「旅フォト」に関する検索人気度は6月に比べて約70%上昇した。
上海・外灘と福州路で旅フォト店を運営する程七七氏によると、2店舗は開業当初、主に中国人観光客を対象としており、外国人客の割合は約10%にすぎなかった。しかし、2025年下半期から外国人客が急増し、現在では外灘店で外国人客の注文が全体の40%、福州路店では実に95%を占めている。
興味深いのは、外国人客の増加によって客数が減少したにもかかわらず、売上高はほぼ変わっていない点だ。現在、両店舗の月間平均注文数は1店舗当たり約200件で、2年前の約300件から減少している。一方、客単価は従来の500~600元(約1万1500~1万3800円)から900~1000元(約2万700~2万3000円)へと大幅に上昇した。
外国人客は追加の写真を購入する傾向が強く、客単価を押し上げているという。さらに、注文数の減少に伴って人件費も抑えられたため、店舗側にとっては「少ない客数でも高い収益性を確保する」経営モデルにつながっている。従業員の負担が軽減される一方、収入も増えているという。
外国人客の増加は、広告費の削減にもつながっている。SNSでの口コミや情報発信が、広告に代わる新たな集客手段となっている。程氏によると、以前は中国人観光客を呼び込むために多くの広告費を投入していたが、現在は海外で広告を積極的に展開していない。外国人客の多くは、Instagramなど海外のSNSに投稿された写真や口コミを見て店舗を知り、「上海チャイナドレス」などのキーワードで検索して予約している。
韓国の芸能人やインフルエンサーが自費で撮影に訪れたことも知名度向上につながったという。こうしたSNS上の投稿が新たな旅行者を呼び込むという循環が生まれている。
外国人客の好みも特徴的だ。過度に伝統を再現したスタイルや、極端に「SNS映え」を狙った衣装よりも、自然な雰囲気の現代風チャイナドレスや、爽やかなテイストの古装を好む傾向があるという。
外灘店はチャイナドレスを中心に扱い、外国人客の多くは韓国人。一方、福州路店は古装を中心とし、欧米からの観光客が多い。
接客では英語を中心に翻訳アプリを活用しているほか、外国人客の増加に伴い、スタッフも撮影時の基本的な英語や簡単な韓国語を身につけるようになった。
外国人観光客の間では、ネイルサロンも人気を集めている。美団によると、7月以降、「ネイルサロンの割引・セットプラン」に関する検索人気度は6月と比べて約30%上昇した。検索数が多かった都市は、上海、北京、深圳、成都、広州の順となっている。
上海のネイルサロン「森小鹿」の店長・美辰氏によると、外国人観光客の来店には季節的な特徴があり、春の3~4月と夏の6月下旬から8月中旬に集中する。今年の夏は前年同期に比べて外国人客が明らかに増えており、とりわけ韓国人観光客の増加が目立つという。
韓国政府の統計によると、2026年1~6月に中国を訪れた韓国人は約171万4000人で、前年同期比16%増加した。美辰氏は、航空便の利便性に加え、SNSインフルエンサーによる紹介が訪中客の増加を後押ししているとみている。
同店の複数の店舗のうち、外国人客が最も多いのが静安寺店だ。外灘や虹橋空港、鉄道駅に近く、交通アクセスが良いことが理由という。6月末以降、同店を訪れる外国人客は前年同期比で約30~40%増え、1日当たり5~8人に達している。
こちらも積極的な海外広告は行っておらず、海外SNSのインフルエンサーによる紹介が集客の中心だ。高い再現性、リーズナブルな価格、店内の雰囲気、アクセスの良さなどが評価されている。
外国人客のネイルの好みは、中国人客とは少し異なる。特に韓国人客は、装飾が多く、アクセサリーや小さなキャラクターなどを取り入れた華やかなデザインを好む傾向がある。

来店時にはシンプルなデザインを選んでいても、施術後にはより華やかで複雑なデザインに仕上がっているケースも多いという。店舗側も外国人客の需要に合わせ、季節や流行を考慮しながら、さまざまな装飾パーツを用意している。
予約はオンラインで行われ、外国人客には翻訳アプリを使って、デザインや施術時間、料金などを事前に確認する。外国人客が増えるにつれて、店舗側も接客方法を工夫し、外国人旅行者に対応するノウハウを蓄積している。
中国を訪れる外国人観光客の旅行スタイルは、単に万里の長城や故宮などの観光名所を見るだけのものから、中国の文化や流行、日常生活を「体験する」スタイルへと変化しつつある。
漢服やチャイナドレスを着て写真を撮り、ネイルを楽しみ、SNSでその体験を発信する――。こうした「旅フォト」「美容」「SNS」を組み合わせた消費が、外国人旅行者の新たな「中国旅行3点セット」として定着し始めている。外国人観光客の増加は、中国の観光業だけでなく、地域の生活サービスや文化消費にも新たな商機をもたらしている。
注:「旅拍(lǚpāi)」は、中国でよく使われる表現で、旅行先で衣装を着たり、観光地を背景にしたりして、プロのカメラマンに写真を撮ってもらう旅行体験を指します。
(中国経済新聞)
