中国の外食業界に衝撃が走った。雲南料理チェーン「雲海肴(ユンハイヤオ)」の創業者である趙晗(ちょう・はん)氏が9月19日、心筋梗塞のため急逝した。享年40。遺体告別式は20日午前、昆明市の殯儀館で営まれる予定だ。
雲海肴のCEOを務める朱海琴氏は追悼の言葉を寄せ、「我々と同じく、皆さまも深い悲しみに包まれていると思う。外食業界はこの数年、大きな試練を経験し、趙晗も強い重圧にさらされていた。だが私は彼との約束を胸に、雲海肴を守り抜き、理想を実現していきたい」と語った。

1984年生まれの趙氏は、中国人民大学国学院の一期生。学生時代から商才を発揮し、故郷・雲南の火腿月餅を大量に仕入れて学内で販売、1シーズンで数千個を売り切り「最初の一桶金」を手にした。
2008年、大学卒業を前に「自分の店を持ちたい」と考え、両親が住宅購入用に準備していた30万元余りを元手に起業を決断。仲間3人とともに飲食業界に飛び込み、現場で修業を積んだ。翌2009年24才で、北京・什刹海に1号店「雲海肴」を開業した。
当初は閑古鳥が鳴く状態で、1日数十人しか来客がない日も続いた。だがキャンペーンや宣伝を工夫し、翌年には中関村のショッピングモールに2号店を出店。これが若者を中心に大ヒットし、看板料理「雲南汽鍋鶏」がSNSで話題となった。
中関村店の成功を機に、雲海肴は「商業施設への出店」「400平米以下の効率的な店舗」という戦略を確立。ショッピングモールの“常連ブランド”として急成長を遂げた。2014年にはセコイア・キャピタルなどから資金調達し、拠点を昆明へ移転。2018年には売上高約11億元に達し、中式正餐チェーンの有力ブランドに躍り出た。
2025年7月時点で、同社は中国29都市に143店舗を展開。そのうち96.5%がモール内店舗で、北京、上海、広州、深圳、杭州といった大都市に広がる。さらに2019年からは海外展開に乗り出し、シンガポール・チャンギ空港に初の海外店を開設。ピーク時には現地に5店舗を構えた。

趙氏は単なる飲食経営者にとどまらず、食材サプライチェーンの整備にも注力した。昆明に米線工場を設立し、無添加米線を開発。2018年には米国FDAの認証を取得し、雲南米線の海外輸出を切り開いた。また、米線専門の新ブランド「刀小蛮」を立ち上げ、2023年時点で全国に約150店舗を展開するまでに育てた。
しかし順風満帆の成長の裏で、2024年にはシンガポールで大規模な食中毒事故を起こし、100人以上が被害を受けた。裁判所は最高額の罰金を科し、同社は現地法人向けケータリング事業を永久停止。これを機に経営陣は刷新され、2025年2月、趙氏は董事長職を退き経営から完全に手を引いた。
ただし趙氏は依然として40社以上の企業の役員として関与しており、飲食、投資、経営管理など幅広い分野に事業を展開していた。
学生起業から始まり、15年で全国チェーンに成長させた雲海肴。趙晗氏は「雲南料理」という地域性を武器に、中国飲食市場に新風を吹き込んだ存在だった。その早すぎる死は、外食業界に大きな衝撃を与えている。
(中国経済新聞)