2024年12月、アメリカの自動車メーカーGMは、上海汽車集団(上汽)との合弁で設立した工場を、27億ドルを投じて閉鎖すると発表した。ひところタイトだった両者の提携が幕を閉じることになる。
自動車業界全体に響き渡ったこの情報には、中国市場で外国の自動車メーカーがじり貧状態であり、国内のメーカーが大逆転して舞台の中央に立っているという背景が存在している。
時計の針を1990年代に戻すと、開放が進みつつある中国に外国の自動車メーカーがこぞって進出し、中国の自動車産業も過去にない追い風を受けることになった。海外大手の代表格であったGMは思い切って上汽集団をパートナーに選び、合弁企業を発足させ、ほどなくしてGMのブランドや技術、営業経験が地元ならではの強みを持つ上汽とタイアップし、たちまちシェアを奪った。当時、街中を走り回るGMのビュイックやシボレーは憧れの的であったこと今も覚えている。
中国の自動車市場はまだ夜明けの段階であり、外国メーカーは輝かしい存在であった。ビュイック、あるいはVWのパサト、それに日系ではトヨタやホンダ、これらはいずれもほぼ「メンツ維持事業」の代名詞であった。ハイカラで「格の違う」外国車は、かたかたと音を立てて走る古めかしい家の国産車とは何もかも対照的だった。
ところがここ最近、風向きが変わってきた。中国政府が国産の電気自動車(EV)の成長支援に乗り出したことで、従来型ガソリン車を軸とする外国勢が不振に陥っている。データによると、中国市場における外国自動車メーカーのシェアは、2016年には57%であったが2023年にはそのほぼ半分となる30%以下まで落ち込んでしまった。
隆盛を誇った海外勢がもろくも転落した大きな理由は、激しさを増している市場競争である。今は外資系のメーカーをしり目に国内勢が力をつけており、多様なラインナップを提供して、コスパもよく利用者のニーズに沿った造りを施していることで、市場シェアを拡大している。GMはこのペースから脱落しつつある模様であり、利用者の好みの変化に合わせられず、シェアはじり貧状態である。
このほかGMは、新エネ車の普及という現実にも対応せざるを得ない。環境意識が高まり新エネ車に目を向ける動きが強まっている中、従来の自動車メーカーは方向転換が遅々として進んでいないようであり、GMもEVを手掛け始めてはいるが、反応の速さも技術の蓄積もテスラなどの新興メーカーと比べれば随分と後手である。
この結果、ひところ市場を先取りしていたGM、フォード、トヨタ、日産などの大手は今、売上面で総崩れとなっている。
ただし、この原因がすべてこれらメーカー側に起因するものというわけではない。今の中国はもはや、20年前のような車が手に入りにくい時代ではないのだ。
外国メーカーの中国での「失速」は、昨日今日に始まったことではなく、かなり前から危機的状態になる予兆があった。転換点は、テスラが上海に工場を建設して中国本土での生産を始めると発表した2018年だろう。これが中国のEV市場に火をつけたのである。
ただし予想外だったのは、中国メーカーの成長がまるでショートビデオさながらの高速走行だったことである。小鵬(Xiaopeng)、蔚来(NIO)、理想(Li Auto)、極氪(Zeekr)、問界(AITO)、シャオミなど、業界内の「新星」と見られていた各社が今、若者たちの視線をごっそりと奪うようになった。1、2年前はまだ新参者に過ぎなかったこれら各社は、デザインや走行距離、さらにはスマート化に至るまで、中国で幅広く信頼される存在になった。
中国の新エネ車トップメーカー・BYDは今、グローバル化の先頭を走るまでの成長し、海外でも評価されるようになり、外国勢中心だった世界の自動車業界を徐々に突き抜けようとしている。
中国メーカーはこの中で、EVの基幹技術についてほぼ整備された産業チェーンを形成している。電池の開発からAIの運転ソリューションまで、イノベーション力やコストカットといった面で「中国スマート」という力強さをアピールしている。
これとは対照的に、早くに中国進出を果たした外国勢はこのような変化に後手後手になっている。GMの場合、世界で新エネ車への転換をはかってはいるが、急速にEVが普及している中国では波に乗れず、テンポの遅れで結局は市場から見捨てられてしまった。今回の工場閉鎖は、「中国市場の変化についていけないなら市場から見捨てられる」という外国メーカーに対する警鐘である。
ところで、「27億ドルをかけて上海の工場を閉鎖する」と発表したGMだが、その27億ドルの使い道は何だろうか。設備や資産の処分だけでなく、従業員の受け入れ先探しも資金が必要だ。工場の閉鎖は、働く人たちにとっては生活に関わるショッキングなものである。GMは閉鎖を発表する前に、従業員の不安感をある程度和らげるために補償金の支給やサポートを約束していた。
中国の自動車市場は、今回のGMの工場閉鎖でどのような影響が出るのだろうか。利用者の焦りを招くだろうし、特にこれまでGMブランドを十分に信頼していた人からすれば、「ほかの外資系メーカーは大丈夫なのか」などと考えてしまうだろう。こうなると車選びにも影響してくる。外資系はほぼ品質的に問題ないと考えられていた中、今回の件は国内メーカーにとっては追い風となり、市場シェアも変動するだろう。GMの撤退で国産車への切り替えが進むことが予想される中、中国メーカーは実力が問われることになる。
これまで30年間、中国で工場を建設した外国の自動車メーカーはおおむね日本、アメリカ、ドイツ、韓国の会社だった。これら各社の中国での見通しはどうだろうか。
外国メーカーにとっては悩ましい問題である。
GMは、今後も中国で成長の場を求めるのか、それとも中国に別れを告げ、将来が見込める東南アジアなどへ資源を集中させる道を選ぶか、今は定かでない。日系車も中国での生産規模縮小に乗り出している。三菱はすでに撤退を発表しており、ホンダや日産も中国で複数の工場を閉鎖し、トヨタも中国での生産体制見直しを始めた。購入サイドからも「いつの日か日系車がごっそりと中国を撤退するのではないか」などと心配する声が出始めている。
GMの今回の決定は、一見単なる経営上の判断に見えるが、中国の自動車業界全体における課題が如実に反映されたものである。利用ニーズが変化し、市場環境も変わり、それに適応した者だけが生き残る。これから多元化する中国の自動車市場にあって、イノベーションや進化を怠らない者だけが存在感を示せるのである。
(中国経済新聞)