1942年10月、イギリス軍の捕虜1816人を乗せた日本軍の輸送船「りすぼん丸」が、中国浙江省舟山市の東極島近くを航行中、アメリカ軍の潜水艦の魚雷に撃たれ、現地の漁師255人が救助に駆け付け、384人を救出した。
82年が過ぎた今、この出来事を知る人は少ない。映画のプロデューサーや監督を務める方励氏は2014年、同じく映画監督の韓寒氏と「後会無期」を共同制作した際に、東極島の漁師から近くの海で沈没した船のことを耳にし、興味を持って資料を調べた。方氏は2016年と2017年にそれぞれ専門スタッフを率いて捜索に当たり、史実に記された場所から36キロメートル離れた海底に沈んでいた「りすぼん丸」を発見した。
それから8年間、方氏はメンバーとともにイギリス、アメリカ、カナダ、日本に赴き、新聞の尋ね人やテレビ中継を通じて関係者の子孫など計380人を探し出した。さらに、当時の兵士で漁師に救出され、カナダに住んでいる元ミドルセックス連隊のウィリアム・ベネフィールドさん(William Benefield)と出会った。
方氏は当事者や生存者、そして犠牲者の子孫への取材や音声、手紙、写真などを通じ、プロデューサーおよび監督としてこの出来事を再現するドキュメント映画「りすぼん丸沈没」を制作した。歴史の背後における普通の兵や漁師たちの感動物語を描いたものである。
戦争は人々に拭い去りえない傷跡を残し、残酷で卑劣な人間性、そして勇気や気高さを膨らませる。方氏は上海で9月5日に行われた「りすぼん丸沈没」の街頭PRイベントで、「肉親や家庭や愛情を大切にすること。世間のぬくもりは本当に貴重であり、こうした気持ちのある場もとても貴重だ。それが平和なのだ。別れと出会いの物語を通じてこれを伝えたい」と率直な気持ちを訴えた。
この事件に直接関わり、映画にも登場した、救助活動をした舟山の漁師の林阿根さん、ロイヤル・スコットランド連隊のデニス・モーリーさん(Denis Morley)、そしてベネフィールドさんの3人は2020年から2021年にこの世を去っている。イベント会場で、映画のプロデュースに加わった韓氏は「われわれは一刻も早く完成させたかった。あと5年や10年遅れていたらこの事件はもう消え去っているだろう」と語った。
「りすぼん丸沈没」は、9月6日から上映されている。
(中国経済新聞)