中国企業にとって、東南アジアは最も重要な海外市場の一つになっている。しかし、約6億人の人口を抱える巨大市場だからといって、単純に「一つの市場」として捉えることはできない。シンガポールのVC、Momentum Worksの李江玕CEOは、「東南アジア市場の複雑さは、一言では説明できない」と指摘する。
最大の特徴は、市場が多層的に細分化されていることである。インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナムでは人口規模も所得水準も異なり、都市への人口集中度やECの普及段階にも大きな差がある。さらに言語、宗教、文化、消費習慣、物流条件、ビジネス慣行も国ごとに違う。このため、中国国内で成功した商品や販売モデルをそのまま持ち込んでも、通用するとは限らない。
一方で、東南アジアのEC市場そのものは拡大を続けている。Momentum Worksによると、2025年の市場規模は1284億ドルに達し、成長率は22.8%だった。国別ではインドネシアが依然として最大市場だが、成長速度は鈍化している。これに対し、タイは2025年に51.8%、マレーシアも47.6%と高い伸びを記録した。
市場の変化でもう一つ重要なのが、消費者が「安さ」だけを求めなくなっている点だ。Lazadaによると、東南アジアには1億5000万~1億7000万人の中間所得層が存在し、消費者の関心は価格から品質やブランドへと移りつつある。「充電ケーブルなら急速充電、化粧品ならブランド品」という選択が増えているという。
これまで中国企業の東南アジア進出では、低価格商品を大量販売するモデルが目立った。しかし、この方法はプラットフォームの補助金や価格競争に依存しやすく、長期的な事業にはなりにくい。現在は、中国ブランドも「安い中国製品」から「ブランドを持つ中国企業」への転換を迫られている。
すでに化粧品の橘朵やINTO YOU、下着のNEIWAI、スポーツ用品の安踏など、多くの中国ブランドが進出している。また、Y.O.UやSKINTIFICのように、中国系チームが東南アジアで立ち上げ、現地ブランドとして成長したケースもある。

宝飾大手の周大福も東南アジアを重要市場と位置付けている。シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピンに店舗を展開するほか、Lazadaにも公式店を開設した。若年人口が多いことに加え、金製品を購入し、買い替える文化が根強いことが進出の背景にある。
ただし、周大福は中国の伝統的な商品をそのまま販売しているわけではない。シンガポールではマーライオンをデザインした金製品を投入するなど、現地文化に合わせた商品開発も進めている。過去1年間の東南アジア売上高は前年同期比で17倍以上に増えたという。
アウトドア用品メーカーの牧高笛も2026年からLazadaを通じて東南アジア市場を開拓しているが、参入企業の増加によって価格競争や商品の同質化が進んでいる。このため同社は、オンライン販売だけでなく、現地のアウトドアコミュニティとの接点を増やし、ブランド認知度を高める戦略を取っている。
ECプラットフォーム側も変化している。アリババ傘下のLazadaは、中国企業向けに「ワンクリック海外進出」サービスを開始し、天猫の店舗を東南アジア市場へ移植できる仕組みを構築した。物流、海外でのアフターサービス、広告運用などをプラットフォーム側が代行し、2026年上半期までに約1万社の天猫ブランドが参加した。
しかし競争は激しい。2025年の東南アジアEC市場では、Shopeeが53%、TikTokとTokopediaが合計35%のシェアを占めたのに対し、Lazadaは11%まで低下した。
中国企業にとって東南アジアは確かに成長市場である。しかし、人口が多いから売れる、価格が安いから勝てるという時代は終わりつつある。これから問われるのは、それぞれの国の所得、文化、消費習慣を理解し、現地に合った商品とブランドを長期的に育てられるかどうかである。東南アジア市場の本当の難しさは、その「大きさ」ではなく、「細かく分かれていること」にある。
(中国経済新聞)
