2月14日(現地時間)、アメリカ国防総省が「中国軍事企業リスト」(Chinese Military Companies List、CMC、または1260Hリスト)を更新し、中国の著名企業を多数追加した。追加された企業はアリババ、百度、比亜迪(BYD)、蔚来(NIO)、京東方(BOE)、晶澳科技、天合光能、宇樹科技などで、これでリスト上の中国企業は72社になった。
このリストは2021年度国防権限法第1260H条に基づき、アメリカ国防総省が「中国軍事企業」または中国の軍民融合戦略に寄与していると判断した企業を公表するものだ。直接的な制裁(米商務省のエンティティリストのような輸出規制)ではないが、上場企業にとっては名誉毀損に近く、米政府との契約、融資、補助金などが難しくなる。国防総省との契約は事実上禁止される。
追加の理由を詳しく見てみよう。
宇樹科技:中国国防工業基盤の軍民融合参加者と認定され、中国政府の科学・技術・産業支援を受け、「専精特新“小巨人”」(専門特化型小巨人企業)に指定されたため、中国軍工産業計画の推進に寄与しているとされる。
アリババ、百度、比亜迪:工業・信息化部(MIIT)と関連があり、軍民融合参加者。アリババと比亜迪は国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)と直接・間接的に関連している。
他の企業(京東方など):PLA(人民解放軍)との関連や軍民融合企業ゾーン所在などが理由。
この更新は2025年1月にテンセント、商湯科技、寧徳時代(CATL)などが追加された流れをさらに加速させた形だ。リストは伝統的な防衛・半導体企業に限らず、インターネット、AI、EV(電気自動車)、ロボット、太陽光パネル、ディスプレイパネルといった民間ハイテク分野にまで広がっている。
興味深いのは手続きの混乱だ。2月13日(現地時間)に一度公表されたリストが、数時間後に撤回され、14日に再公表されたものの、その夜また撤回された(Federal Registerで「Page not found」表示)。内容は変わらず、二度の上掲・二度の撤回という「朝令暮改」の状況だ。国防総省は理由を説明していないが、内部調整ミスや政治的配慮(例:トランプ大統領の訪中予定など)が絡んでいる可能性がある。この「撤回劇」は米側の政策の一貫性や透明性に疑問を投げかけ、中国側からは「政治的恣意性が高い」との批判が出ている。
中国企業側の反応は素早い。アリババは即座に声明を出し、「当社は中国軍工企業ではなく、軍民融合戦略にも参加していない。会社イメージを歪曲する行為に対しては、あらゆる法的措置を取る」と強く反発している。百度や比亜迪も同様に否定している。
このリストの影響を冷静に見ると、直接制裁ではないため即時の事業停止や輸出禁止にはつながらないが、米投資家や年金基金などはESG(環境・社会・ガバナンス)基準で売却圧力がかかりやすい。米政府契約や補助金が得られにくくなり、特にAI・クラウド・EV分野で米中競争が激化する中、米市場依存の企業には痛手だ。ただ、中国国内市場が巨大なアリババや百度、比亜迪にとっては「致命傷」にはならない可能性が高い。一方で、グローバル展開中の宇樹や速騰聚創のような新興企業は、国際的な信用低下が深刻だ。
背景として、米中ハイテク摩擦はトランプ政権2期目に入り、再び激化の兆しを見せている。昨年10月の習近平・トランプ会談で貿易休戦が延長されたはずだが、こうしたリスト更新は「休戦」の限界を示しているのかもしれない。国防総省は「中国の軍事力増強を支える民間企業」をターゲットにし続け、リストは今後も拡大する公算が大きい。
日本企業にとっても無関係ではない。中国サプライチェーンに依存する日本メーカーは、米中間の板挟みになりやすい。京東方(BOE)のディスプレイ、比亜迪のバッテリー、晶澳・天合の太陽光パネルなど、日本企業が調達する部品が多く影響を受ける可能性がある。
結局、このリストは「警告」以上のものではなく、米中デカップリング(切り離し)の象徴だ。中国企業は「軍民融合」のスローガンを掲げつつ、民間イノベーションを推進しているが、アメリカ側はそれを「軍事転用リスク」と見なしている。両国の認識の溝は深まる一方だ。
こうした動きを見ていると、グローバル企業にとって「地政学リスク」が最大の課題になっていることを改めて実感する。日本企業も、中国依存を減らしつつ、多角化を進める必要がある。
(中国経済新聞)
