「国産AIチップの旗手」として知られる寒武紀科技(Cambricon、688256.SH)が、資本市場とハイテク業界の注目を一身に集めている。
8月25日の取引終了時点で株価は1株1384.93元(約2万8800円)となり、1日で11.4%上昇。直近5営業日で45%超の急伸を記録し、時価総額は5794億元(約12兆円)に到達した。A株市場の高時価総額企業の一角に食い込み、半導体業界のリーダーとして存在感を示している。

大モデル公開、算力大会、高盛のレポートが追い風で株価上昇の背景には相次ぐ好材料がある。
まず8月21日、国産大規模言語モデル「DeepSeek-V3.1」が発表され、その精度仕様が「次世代国産チップ向けに最適化されている」との言及が市場を沸かせた。翌日には寒武紀と海光信息(688041.SH)の株価が急騰し、強い期待感が広がった。
さらに22日から24日にかけて開かれた「2025中国算力大会」では、政府が算力基盤の整備を加速させる方針を表明。2025年の中国におけるインテリジェント算力規模は40%以上成長する見通しとされ、AIチップ需要への期待は一段と高まった。
24日には米大手投資銀行ゴールドマン・サックスがレポートを発表し、寒武紀の目標株価を50%引き上げ1835元に設定。「買い」評価を維持した。同社は理由として、クラウド事業者の投資拡大、チッププラットフォームの多様化、そして寒武紀による総額450億元規模の研究開発投資計画を挙げている。
苦境を経て黒字転換
寒武紀は2016年、中国科学院計算技術研究所の研究者らが中心となり設立。設立からわずか4年で科創板に上場し、上場初日に時価総額1000億元を突破した。

しかし、その後は技術競争や市場圧力の中で業績が振るわない時期もあった。それでも研究開発投資を止めず、製品やエコシステムの強化に注力。2024年後半には初の四半期黒字を達成し、流れを大きく変えた。
2025年に入ると業績はさらに加速。第1四半期の売上高は11.11億元(約229.61億円)と、前年同期比で4230%増。純利益も3.55億元(約73.37億円)を計上し、前年の赤字から一気に黒字へと転換した。半導体業界全体を見渡しても、この成長率は極めて異例だ。
85後の若き創業者、南昌の新富豪に
株価急騰により、創業者・陳天石氏(1985年生まれ)の資産も急増している。
陳氏は中国科学技術大学(USTC)天才少年班から博士課程へと進み、AIチップ分野に早くから取り組んできた。2016年の創業以来、深層学習向けプロセッサの開発で世界をリードし、寒武紀を国産AIチップの象徴へと育て上げた。

胡潤研究院が3月に発表した「2025胡潤世界富豪ランキング」では、陳氏の資産は870億元(約1兆7000億円)で世界195位。昨年10月の時点では320億元(約6613.29億円)で南昌の首富とされていたが、この半年余りでさらに資産を3倍以上に伸ばし、名実ともに“南昌首富”の座を固めた。
最新の持株比率28.63%を基に計算すると、陳氏の保有資産は1659億元(約3兆3千億円)に達する。中国の地方都市から、世界のAI競争の最前線へ。若き創業者の挑戦は、今後も投資家と業界関係者の注目を集め続けるだろう。
(中国経済新聞)