11月17日(金)、東京の単向街書店で渡辺淳一『失楽園』新中国語訳出版記念イベントが開催された。
会場となった単向街書店は、今年8月26日に銀座一丁目にオープンした中国の有名な独立系書店。書店の名前である「単向街」は、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの著書『単向街(この道、一方通行)』が由来となっている。2023年現在、銀座店以外にも北京に4店舗、杭州(浙江省)に2店舗、秦皇島(河北省)、仏山(広東省)の計8ヶ所に展開。そして、アジア諸国の多様な思想やライフスタイルを知るための窓口となるべく、日本、中国、韓国、その他のアジア諸国間の民間文化交流の活性化をはかる場として多くのイベントが開催され、中国語、日本語、韓国語、英語など多言語の作品が本棚に並んでいる。
単向街書店
トークイベントには、『失楽園』の新訳を担当した翻訳家の林少華(リン・シャオファ)氏、復旦大学中文系教授の梁永安(リャン・ヨンアン)氏、作家で単向街書店の創業者でもある許知遠(シュ・ジーユエン)氏、ポッドキャスト「日談公園」創業者の李志明(リ・ジミン)氏がゲストとして出席した。
左から林少華氏、李志明氏
左から梁永安氏、許知遠氏
新訳を担当した林少華氏は、「今年は現代日本を代表する作家・渡辺淳一氏の生誕90周年であり、この時期に渡辺氏の代表作『失楽園』の新中国語訳出版イベントを東京で開催することは、間違いなく特別な意義があります。青島出版グループを代表して、渡辺直子さんのご臨席に心より感謝申し上げます。また、ここ銀座でこのような発売記念イベントの場を提供してくださった徐志遠氏にも感謝申し上げます。私は『失楽園』の中国語翻訳者でもあり、村上春樹氏の作品も四十数作品を翻訳してきました。渡辺氏も村上氏も現代作家であり、彼らの作品は現代人の実存的ジレンマに触れています。そして2人の作風の違いは、村上氏が個人の心に存在する無数の漠然とした感情を、紙の上の美学、遊べる美的オブジェに変える傾向があるのに対し、渡辺氏の作品は、苦しい葛藤や深い無力感、真夜中のため息が特徴的であることが多いと考えています。また、性の表現に対しても、村上作品では一種の修辞、装飾であることが多いのに対して、『失楽園』では、真実の愛を表現する上でとても重要な役割を担っています。今の日本では真の意味での男女の情熱が失われ、草食男子が増え出生数も減少傾向にあります。中国でもここ数年、「恋愛しない」「子供を産まない」という選択をする若者が増えており、こうした傾向は大きなスケールで見れば国家の存亡に関わる問題であり、小さなスケールで見れば家族の存亡に関わる問題です。『失楽園』の二人が表現するある種遅らせることのできない真実の愛は、こうした時代の到来を渡辺氏自身が憂慮していたことを感じ取ることができ、同時に彼の先見の明に驚かされます。そして最後に翻訳者として申し上げたいのは、読書の過程で、渡辺氏の愛や性の描写に焦点が当てられ、彼の文章の文学的価値を無視してしまいがちだということです。渡辺氏は情熱的な小説家であるだけでなく、洗練された文体を持つ文学者でもあります。私の翻訳に少し特色があるとすれば、原作の文学性をより適切な形で復元したことです」と挨拶をした。
渡辺淳一氏の次女・直子さん
特別ゲストとして登壇した渡辺淳一氏の次女・直子さんは、「青島出版さんが『失楽園』を出版するまで、中国語訳は全て女性翻訳家によって行われてきました。そしてそれを父は、すごく残念がっておりました。今回、林少華先生という素晴らしい翻訳家によって翻訳していただけて、父も空の上から喜んでいると思います。今日は、本当にありがとうございました」と祝辞を述べた。
会場には、日本と中国から多くのファンが詰めかけ『失楽園』の新訳出版を共に祝った。
(中国経済新聞)