2026年、中国の半導体業界では新規求人数が大幅に増加し、平均採用年収も上昇を続けている。中国の人材採用サービス大手・猟聘(リエピン)が中国メディア「第一財経」の記者に提供した最新データによると、2026年1~9月の半導体業界の新規求人数は前年同期比22.2%増加した。平均採用年収は29万1,900元(約671万円)で、前年同期比8.8%上昇した。(※日本円換算は、1元=23円として試算。実際の為替レートによって変動する。)
最近では、中国の半導体メーカー各社が先端パッケージ技術者の採用を強化している。摩爾線程(モーア・スレッズ)は「先端パッケージ設計技術者」の月給を2万5,000~5万元(約57万5,000~115万円)に設定。寒武紀(カンブリコン)の新卒採用でも「半導体パッケージ工程技術者」の募集が登場した。
さらに、人工知能(AI)半導体メーカーの燧原科技(エンフレーム・テクノロジー)は、複数の半導体チップを組み合わせる「チップレット」技術や、チップ同士を直接接続する技術に関するAI半導体設計責任者の求人で、年間報酬の上限を180万元(約4,140万円)と提示している。
先端パッケージ技術が半導体産業の成長分野に
「パッケージ技術の産業全体に占める重要性は年々高まっており、AI、ロボット、生体チップなど幅広い分野で成長の可能性がある」
中国の電子科技大学・集積回路科学工程学院の研究グループ関係者は、こう指摘する。
従来、半導体のパッケージングと検査は製造工程の後半に位置し、付加価値が比較的低い領域とみなされてきた。しかし、半導体の微細化が物理的な限界に近づき、製造コストも高騰する「ポスト・ムーアの法則」時代に入り、先端パッケージ技術やシステム集積によってチップの性能を高める手法が、計算能力を向上させる重要な手段となっている。
こうした動きを背景に、中国の半導体メーカーは、半導体設計だけでなく、製造装置、製造工程技術、パッケージ技術などの重要分野へと採用対象を広げている。
猟聘のデータによると、2026年1~9月のチップレット関連の新規求人数は前年同期比211.2%増と急伸した。2年間の累計増加率は451.4%に達している。
チップレット関連職種の平均採用年収は64万9,500元(約1,494万円)で、半導体業界全体の平均年収の約2.23倍に相当する。
その基盤となる先端パッケージ分野も拡大している。同分野の新規求人数は前年同期比134.6%増加し、平均採用年収は42万2,400元(約972万円)となった。
職種別では、デジタル回路の後工程設計技術者の新規求人数が前年同期比121.08%増となり、増加率で首位となった。半導体製造装置技術者は82.67%増、アナログ回路の配置設計技術者は75.66%増で続いた。パッケージ技術の研究開発職も50.73%増と大きく伸びている。
年収約4,140万円のAI半導体設計者、候補者は中国全土で200~300人
半導体業界で10年以上の人材紹介経験を持つヘッドハンターの「半導体ハンター・陳氏」は、現在、最も需要の伸びが速い分野として、中央演算処理装置(CPU)、画像処理装置(GPU)、人工知能処理装置(NPU)など、AI関連半導体の設計職を挙げる。
このほか、記憶用半導体、光半導体、光通信、計算能力の向上に関連する分野でも採用需要が拡大している。一方、従来型の民生用電子機器や防犯監視関連分野の需要は比較的安定しているという。
ただし、最も高い報酬を得られる人材はごく一握りだ。
燧原科技が年間報酬の上限180万元(約4,140万円)を提示したAI半導体設計責任者の求人では、修士号以上の学歴に加え、半導体の基本構造や設計方式を決める「アーキテクチャー」の設計で10年以上の経験が求められる。
ある上場AI半導体企業の関係者は、中国メディア「第一財経」の取材に対し、次のように説明した。
「10年以上の経験があり、大規模計算向けAI半導体や画像処理装置のチップレット開発プロジェクトに携わったことのある設計責任者は、中国全土でも200~300人程度しかいない。その多くは、すでに大手企業に確保されている」
中国国内のチップレット開発プロジェクトの大半は、まだ初期の設計構想や検証段階にとどまっているという。そのため、実際の開発プロジェクトを通じて、設計全体を統括できる人材を育成できる企業は限られている。
人材の希少性は、採用コストの上昇にも直結している。同関係者によると、企業が技術面接に進む候補者を1人選ぶまでに、平均50~80件の履歴書を確認する必要がある。最終的に内定段階まで進む割合は5%未満で、重要な設計責任者の平均採用期間は70~90日に及ぶ。
高額報酬の背景には、半導体の設計構想、パッケージ技術、チップ間接続の知識を横断的に備えた複合型人材に対する、企業の強い需要がある。
一方、半導体業界への就職が容易ではなくなっていることも、今回のデータから浮かび上がる。中国科学院の博士号を持ち、速顕微電子の共同創業者である王攀(Wang Pan)氏は、半導体業界の雇用環境は、業界の景気循環と密接に結びついていると説明する。
2005年前後には、中国国内でマイクロエレクトロニクスを専攻する大学卒業生は少なく、一部の有力大学でも卒業生は数人程度だった。専門分野に合った就職先が限られ、インターネット業界など別の分野に進む人も多かったという。
その後、2021~2022年には関連企業が急増し、人材需要が大幅に拡大した。当時は実務経験3~5年の中堅・上級技術者が極端に不足し、給与が従来の3倍に上昇するケースもあった。熟練した半導体設計技術者の年収が100万元(約2,300万円)を超えることもあったという。
しかし、好況期に多くの学生が半導体分野へ流入したことで、現在は人材供給が増え、採用競争の様相が変わっている。中国の有力大学でマイクロエレクトロニクスを専攻した博士課程修了者の方万氏(Fang Wan仮名)は、今年の就職活動を終え、国内の大手インターネット企業に入社した。
同氏によると、ここ数年は関連専攻の新卒者が急増し、異分野からの参入者も増えている。一方、業界が調整局面に入ったことで、給与水準が大幅に下がっていなくても、企業の採用枠は縮小し、求職の難易度は明らかに高まっている。
「4年前は、有力大学で専門教育を受けていれば内定を獲得できた。しかし今は、企業が数百から数千件の応募書類の中から、学歴と専門分野に直結したインターン経験の両方を持つ人材を選べる。名門大学のブランド力だけでは十分ではなくなった。学歴は入社のための最低条件になりつつある」
方氏はこう指摘する。博士号取得者は平均的に高い給与を得られる傾向があるものの、企業が求める専門分野での実務経験も、より厳しくなっているという。周囲の同級生は外資系企業、国内の大手インターネット企業、大手半導体メーカーなどに就職しているが、いずれも競争は激しい。
王氏も、半導体産業は技術と資本への依存度が高く、技術者の育成には長い時間がかかると強調する。独り立ちした技術者になるには、3~5年程度の開発プロジェクト経験が必要であり、新卒者や異業種からの転職者が短期間で中核的な研究開発業務を担うのは難しい。
中国の人材採用サービス大手・猟聘(リエピン)のデータでも、2026年1~9月の半導体業界の求人のうち、実務経験3~5年を求める職種が31.86%を占め、最も大きな割合となった。経験5~10年を求める職種は30.48%で、求人の増加率は26.4%と、経験年数別の区分で最も高かった。
AIの急速な進化も、半導体技術者に求められる能力を変えつつある。方氏は、半導体の中でも素子、材料、トランジスタ単位の回路設計など、物理的な知識や高度な専門性が求められる領域は、AIによる代替が比較的難しいと指摘する。
一方、半導体設計の上位工程におけるプログラムコードの作成や数理モデルの構築では、AIによる自動化が進んでいる。同氏によれば、プログラムコードの80~90%をAIで生成できるケースもあるという。
こうした環境では、技術者の役割は単純なプログラム作成から、課題の分解、設計方針の検討、AIへの適切な指示、生成された成果物の検証へと移行する。初級のプログラム作成職については、今後、採用需要が減少する可能性がある。
人材獲得競争が激しくなるなか、中国の半導体企業は大学との連携を強化し、採用後の育成だけでなく、学生時代から実践的な経験を積ませる取り組みを進めている。前述の上場AI半導体企業の関係者によると、同社の人材確保は、経験豊富な即戦力の採用が約6割、将来性のある人材の育成が約4割を占める。
同関係者は「給与を引き上げて人材を獲得する手法は、以前ほど効果的ではなくなっている」と説明する。トップクラスの人材が転職する際の給与上昇率も、10~20%程度の比較的合理的な水準に戻っており、報酬だけを武器にした競争は持続しにくいという。
同社では、設計責任者級の重要ポストには高い報酬を用意する一方、中核技術者については経験年数の条件を柔軟にし、半導体設計データを製造工場に送り、実際の製造工程へ移行する「製造投入」までの一連の経験を持つ人材や、学習能力の高い人材を優先している。実際のチップレット開発プロジェクトに参加させ、実務を通じて成長を促す方針だ。
大学側でも産学連携が進んでいる。上海電機学院は大学院生の研究スペースを産業団地内に設け、学生が在学中から準社員のような立場で具体的な開発業務を担当し、成果に責任を持つ仕組みを導入した。
北京の集積回路産学融合基地では、企業が課題を提示し、大学が解決策を提案する方式で、中芯国際、北方華創、長鑫集電などの企業と大学が共同研究を進めている。
チップレット分野では、広東工業大学と硅芯科技が、複数のチップを中間基板などを介して高密度に接続する「2.5次元・3次元実装技術」の共同研究室を設立したほか、上海大学も関連企業と連携し、先端パッケージ技術に特化した人材育成コースを開設している。
こうした取り組みは、実際の開発プロジェクトを通じた人材育成を、入社後から大学在学中へと前倒しするものだ。
中国の半導体業界では、AI向け半導体や先端パッケージ技術の成長を背景に、特定の専門技術を持つ人材への需要が急拡大している。
今回のデータでは、半導体業界全体の平均採用年収が約671万円であるのに対し、チップレット関連職種は約1,494万円、先端パッケージ関連職種は約972万円に達した。AI半導体の設計責任者では、年間報酬が約4,140万円に達する求人も登場している。
ただし、こうした高額報酬は、10年以上の経験や大規模AI半導体の開発実績など、非常に厳しい条件を満たす一握りの人材に向けられたものだ。
複数の関係者は、今後、中国半導体業界の人材競争はさらに激化すると予測する。とりわけ初級職では競争が厳しくなる一方、実務経験3~5年を持つAI半導体分野の設計責任者や上級技術者は、引き続き企業間の争奪戦の中心となりそうだ。
半導体業界の採用市場は、単純な人材不足から、専門性と実務経験を備えた人材への需要集中へと移行しつつある。高い給与を提示するだけでなく、実際の開発プロジェクトを通じて次世代の技術者を育成できるかどうかが、企業の競争力を左右する重要な要素となっている。
(中国経済新聞)
