請求額は5566億円に拡大――寒武紀と元CTO・梁軍氏、終わらない株式報酬紛争の内幕

2026/10/5 13:03

寒武紀(Cambricon)は、自社開発のAIチップと、それに対応するソフトウェアを中核事業とする中国のAIコンピューティング企業だ。2016年に北京で設立され、2020年には上海証券取引所の科創板(STAR Market)に上場した。中国企業の中でも比較的早い段階からAIプロセッサーの商用化を実現した企業の一つであり、業界でも注目を集めてきた。

その一方で、寒武紀と元CTO(最高技術責任者)の梁軍氏をめぐる株式報酬紛争は、長期化するとともに対立が次第に先鋭化している。

9月30日夜、中国の国慶節連休を前にした最後の取引日が終了した後、寒武紀は訴訟の進展に関する公告を発表した。

公告によると、同社の元副総経理(副社長)兼元最高技術責任者(CTO)の梁軍氏は、寒武紀に対する株式報酬をめぐる損害賠償の請求額を、これまでの42億8700万元(約857億円)から278億3200万元(約5,566億円)へと引き上げた。

この278億3200万元(約5,566億円)という金額は、寒武紀の同日の時価総額6345億元(約12兆6,900億円)の約4.4%に相当し、同社の2025年通期純利益の13倍以上に達する。

しかも、この株式報酬をめぐって梁軍氏と寒武紀側は、これまでにすでに6件の訴訟で争っており、いずれも梁氏側の敗訴に終わっている。それにもかかわらず、かつて寒武紀の成長に大きく貢献し、現在では時価総額100億元(約2,000億円)規模のユニコーン企業を率いる梁氏は、なぜ何度敗訴しても争い続けるのか。

さらに不可解なのは、訴訟で敗れるたびに、請求額がむしろ大きくなっていることだ。

梁軍氏と寒武紀の物語は、ある一本の論文から始まる。

梁氏が雷峰網のインタビューで語ったところによると、2014年、華為(ファーウェイ)でスマートフォン向けSoC技術を担当していた梁氏には、毎年まとまった時間を確保し、論文を集中的に読む習慣があった。

その年、梁氏は寒武紀の創業者である陳天石氏、陳雲霽氏らのチームが発表した、深層学習向けプロセッサー・アーキテクチャに関する論文「DianNao」を読んだ。これをきっかけに、梁氏は中国科学院計算技術研究所を母体とするこの研究チームの存在を知ることになる。

2016年、梁氏はファーウェイのスマートフォン向けSoC「Kirin 970(麒麟970)」の開発を担当していた。ちょうどその頃、Kirin 970のエンジニアリングサンプルには、AIプロセッサーを搭載できるだけのチップ面積が一部残っていた。

そこで梁氏は、陳雲霽氏と寒武紀の副総経理(副社長)である劉道福氏をファーウェイの北京研究所に招き、2時間にわたって技術説明を受けた。その後、梁氏は海思(HiSilicon)社内でもこの案を報告し、最終的に採用が承認された。

こうして寒武紀のIPがKirin 970に搭載されることになり、両社は同年、ライセンス契約を締結した。

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