秋が深まり、貴州省の田んぼが黄金色に染まっている。畢節市黔西市甘棠鎮の紅星社区では、収穫期を迎えた水田をコンバインが行き交っていた。71歳の農家、李朝華さんは、たわわに実った稲穂と次々に収穫される米を田の畦から眺めていた。
「昔は『鶏の巣みたいな田んぼ』と呼んでいました。あちこちに小さな田が散らばっていて、山の奥にはやせた土地ばかり。鍬を入れると石に当たって、火花が出るほどでした」
農業を続けてきた李さんにとって、今の光景は大きな変化だ。かつては牛を田に入れられればまだいいほうで、「鉄の牛」――農業機械が田んぼに入るなど、とても考えられなかったという。
李さんの経験は、貴州の山地農業が長年抱えてきた問題を象徴している。貴州省は山地と丘陵が面積の92.5%を占め、中国で唯一、広大な平野を持たない省とされる。傾斜15度以上の耕地も44%を超える。
農地は細かく分かれ、斜面は急で、土は薄い。農道も十分ではなく、大型農機が入れない場所も多い。牛耕では作業効率が上がらず、収穫物を人が背負ったり、馬に運ばせたりすることもあった。
さらに、農村から若い世代が都市部へ流出し、村に残るのは高齢者や女性が中心になった。
「農作業ができない」「うまくできない」「やっても割に合わない」。多くの小規模農家が、そんな壁に直面してきた。
では、平地の少ない貴州で、どうすれば食料を安定して生産できるのか。鍵を握るのは、三つの問いだ。土地は耕せるのか。誰が耕すのか。そして、耕して利益が出るのか。
土地を整え、機械を山に合わせる——貴州で農業をする上で、まず立ちはだかるのが「土地」の問題だ。黔西市金碧鎮鉏口寨社区では、63歳の農家、王興貴さんが約2ムーの水田で収穫作業を見守っていた。以前、この水田の収量は1ムー当たり300~400キログラムほど。田植えから収穫まで、ほとんどを人の手に頼っていた。
今では、コンバインが田んぼの中まで入ってくる。「昔は田植えも脱穀も人力でした。今は機械がそのまま田んぼまで来てくれます」。変化の出発点となったのは、農地そのものの改良だった。
畢節市では、細かく分かれた農地をまとめ、「小さな区画を大きく」「短い区画を長く」「曲がった区画をまっすぐに」「急な斜面を緩やかに」する整備を進めてきた。貴州省では近年、高規格農地を累計2000万ムー以上整備。ばらばらだった田畑をできるだけまとまりのある農地に変え、農業機械が入れる環境をつくってきた。李さんの田んぼも、こうした取り組みの対象になった。
「今は牛も入れるし、鉄の牛も入ってこられる」、ただ、農地を整えるだけでは十分ではない。山の地形に合わせて、農業機械そのものを変える必要がある。中国農業大学の楊麗教授は2022年から研究チームを率いて畢節市に入り、丘陵・山地向けの農業機械の開発に取り組んできた。
北方地域で使われている4条播種機は、最も軽いタイプでも約1.2トンある。研究チームはこれを約910キログラムまで軽量化した。機体の長さも約2メートルから1.7メートル程度に縮め、狭い農地でも方向転換しやすくした。
石が多く、傾斜があり、区画も小さい山地では、従来型の農機は使いにくい。そこで、土を掘る部分を従来のくわ型から円盤型に変更し、衝撃を吸収する仕組みも加えた。石を避けながら作業でき、故障も起こりにくくするためだ。
さらに、種を傷めにくい空気式の播種装置を導入。傾斜地でも種のまき漏れを抑え、播種精度は90%以上に達したという。山地特有の粘り気の強い土に対応するため、付着しにくく、摩耗にも強い構造へと改良している。
同じように山地向けの機械づくりに取り組むのが、黔南州長順県の梁厚運さんだ。「90後(1990年代生まれ)」の新しい農業者である梁さんは、幼いころから、父親の世代が急斜面の棚田を人力で耕す姿を見てきた。そこで、山の田んぼでも使える機械を自分で作ろうと考えた。
田園用の多機能管理機は、幅を1メートルから70センチに縮小。農薬散布、耕うん、除草、溝掘りなど、複数の作業に対応できるようにした。価格も1台3万元(約70万円)から1.5万元(約35万円)に引き下げた。梁さんが開発した山地向けの耕うん機は、すでに海外にも進出している。フィリピンには320台が輸出された。
「農地を機械に合わせる」だけではなく、「機械を農地に合わせる」。この二つの取り組みが、山地農業の第一の課題――「土地は耕せるのか」――を変えつつある。
「誰が耕すのか」から「農作業を頼める」へ土地の問題が改善すると、次に浮かび上がってくるのが「人」の問題だ。長順県白雲山鎮の農家、陳金強さんは10年以上、農業を続けてきた。
以前は、農薬や肥料を背負って運び、散布するのも自分の仕事だった。収穫期に農業機械を確保するのも一苦労だったという。ところが今年は、「長順農服」というスマートフォンのアプリから農作業を依頼した。

翌日には、ドローンが田んぼにやって来た。「これはもうスマートフォンというより、新しい農機ですよ」陳さんは笑う。この仕組みを支えているのが、県から郷、村までを結ぶ農業サービス網だ。長順県が独自に開発した農業サービスのプラットフォームでは、スマートフォンから作業を依頼すると、注文の受付から作業者の手配、作業状況の管理、オンライン決済まで一括して行える。県内では12万ムーの水田で秋の収穫が進んでおり、機械化によって人手や人件費の負担が軽減されている。
遵義市鳳岡県の群豊農機サービス農民専業合作社では、さらにきめ細かなサービスを展開している。672台・セットの農業機械と378人の農機オペレーターを抱え、農作業をまとめて委託できる「全托管」と、必要な作業だけを依頼する「点単式」のサービスを提供する。進化鎮で120ムー余りの水田を耕作する張仁洪さんは、こう話す。
「電話一本で、コンバインが来てくれる」——かつては農家が自分で機械を探し、作業者を手配しなければならなかった。今は、農作業そのものをサービスとして利用できる。貴州省全体でも、こうした農業の社会化サービスを広げている。
2026年には、中央政府の農業社会化サービス事業に21億元を充て、少なくとも162万ムーの農地で農作業の受託サービスを実施する計画だ。さらに、農業機械化のための省級資金などを活用し、15県で総合的な農事サービスセンターの整備を重点的に進める。
若い世代が農村から減っても、農家一人ひとりがすべての作業を抱え込む必要はない。「一人で全部やる農業」から、「必要な作業をサービスに任せる農業」へ。それが、人手不足に悩む山地農業の新しい形になりつつある。
米を売るだけではない――「田んぼ」を地域の資源に。もう一つ、避けて通れない問題がある。せっかく作った農産物を、どうやって売るのか。
かつては、農家が収穫した米を業者が買い取りに来るのを待つのが一般的だった。小規模農家は生産量が少なく、価格交渉力も弱い。販路も安定しなかった。貴安新区高峰鎮龍宝村で470ムー余りの水田を耕作する56歳の劉文龍さんも、以前は販売に頭を悩ませていた。
その村で始まったのが、「稲香龍宝」芸術収穫祭だ。訪れた人は農作業を体験したり、稲田を眺めながらコーヒーを楽しんだりできる。つまり、米だけを売るのではない。田んぼそのものを観光資源にする。
今年の収穫祭は、村全体で約20万元(約470万円)の収入を生み出した。農家が自宅の近くで収入を得られることから、村では収穫祭を「増収の場」に変えようとしている。
観光客を呼び込むことで、米のブランド化も進んだ。村では「禾緑野金穂」「猫跳米」という二つの商標を登録。劉さんの合作社では、今年の水稲生産額が70万~80万元(約1650万円~1888万円)になる見込みだ。「米の品質がよく、リピーターも増えました。注文販売と小売りの両方があるので、もう販売に困ることはありません」
農業と観光を組み合わせる取り組みは、ほかの地域でも進んでいる。安順市平壩区白雲鎮では、1万ムー規模の水田に馬や牡丹、万里の長城などの図柄を描き、展望台から田園風景を楽しめるようにした。「ここから眺めていると、食料を作る田んぼだということを忘れてしまいます」訪れた重慶市の観光客は、そう話した。
この水田には昨年、15万7000人の観光客が訪れ、農村での雇用を通じて170万元(約4015万円)余りの賃金が支払われた。
一方、遵義市湄潭県では、ネット通販が新たな販路を開いている。永興鎮分水村では、駐村第一書記の胡成龍さんが田んぼにライブ配信の場を設け、農産物を販売している。9月9日のライブ配信では、1回で6万元(約140万円)余りを売り上げた。湄潭県は「村播センター」と呼ばれるネット販売の仕組みを構築し、地元のライブ配信者を300人以上育成した。昨年の農産物のネット販売額は30億元(約710億円)を超えた。
米を「米」として売るだけではない。風景として売る。体験として売る。ブランドとして売る。そして、ネットで直接消費者に届ける。山地農業の「作っても採算が合わない」という問題に、農業以外の価値を組み合わせて新たな収入源をつくる試みだ。
山地農業を支える「良い種」と「良い農法」——こうした取り組みを支えているのが、もう一つの重要な要素だ。良い種と、その土地に合った農法である。貴州省は種苗産業の振興に力を入れ、遺伝資源の保護・利用、品種改良、種苗企業の育成、生産拠点の強化、市場管理の強化という五つの取り組みを進めている。安順市農業科学院が育成した大豆品種「安豆10号」は、普定県猫洞郷の実証圃場で、1ムー当たり258.64キログラムという貴州省の大豆高収量記録を打ち立てた。
また、黔西市鉏口寨の実証地区では、「水稲専用肥料+生物有機肥+葉面肥」という施肥方法を導入した。実測収量は1ムー当たり549キログラムに達し、従来の栽培方法に比べ20%以上増えたという。桐梓県九壩鎮白塩井村では、大豆とトウモロコシを組み合わせる「帯状複合栽培」にも取り組んでいる。
耐陰性が高く収量の多い大豆「黔豆12」と、密植に強いトウモロコシ「正大659」を組み合わせた結果、平均収量は大豆が1ムー当たり115.26キログラム、トウモロコシが557.96キログラムとなった。トウモロコシの収量を落とさず、そこに大豆の収入を加える。
限られた土地から、より多くの収益を生み出す工夫だ。貴州省農業科学院の専門家は、良い品種と適切な栽培技術を組み合わせることで、1ムーの土地から得られる効果を大きく高められると説明する。実証圃場の役割は、「農家に見てもらい、一緒に取り組む」ことにある。
もちろん、課題がすべて解決したわけではない。山地向けの農業機械には、まだ改良の余地がある。農地の機械化に向けた整備も十分とはいえず、さまざまな地形に対応できる農機の開発も引き続き必要だ。農事サービスについても、対象地域を広げるだけでなく、サービスの質をどう高め、維持するかが課題となる。農業と観光の融合についても、各地で似たような取り組みが増えれば、地域ごとの特色が埋もれてしまう可能性がある。どうすれば「ここでしかできない」体験をつくれるのか。新たな課題も見えてきた。
それでも、貴州の山地農業は確実に変わり始めている。農地を整え、機械を山に合わせる。農作業をサービス化し、人手不足を補う。米を売るだけでなく、風景や体験、ブランドとして売る。そして、その土台を良い品種と栽培技術で支える。
貴州の農業を支える力は、どこか遠くにあるわけではない。毎日のように田んぼを見回る李朝華さんの姿にあり、スマートフォンで農作業を依頼する陳金強さんの手元にあり、「もう販売に困ることはない」と話す劉文龍さんの言葉にある。土地は少しずつ整い、農作業を支えるサービスも田んぼまで届くようになった。販路も広がっている。
「土地は耕せるのか」「誰が耕すのか」「耕して利益が出るのか」。長年、山地農業を悩ませてきた三つの問いに、一つずつ答えを出していく。平地の少ない貴州で、食料をつくり続けるための力は、そうした小さな変化の積み重ねから生まれている。
(中国経済新聞)
