中国の住宅市場で、住宅ローンへの依存を抑え、現金で購入したり、頭金を大きく積んだりする動きが広がっている。背景には、住宅市場の長期的な調整に加え、家計が積極的な借り入れを避け、バランスシートの改善を優先する傾向がある。
特に広州や深圳では、中古住宅の取引に占める全額現金購入の割合が上昇している。また、比較的低価格の住宅の取引比率も高まっており、中国の住宅購入が「投資」から「実需・自住」へとシフトしていることをうかがわせる。
広州市房地産中介協会のデータによると、広州の中古住宅取引における住宅ローン利用率は今年6月以降、低下傾向が続いている。
6月には45.08%だった住宅ローンによる購入比率が、7月には38.85%まで低下。8月にはさらに35.6%まで下がった。
つまり、8月には中古住宅の成約者のうち、住宅ローンを利用したのは約3分の1にとどまり、残りは現金購入やローン利用の少ない購入だったことになる。
深圳でも同様の傾向がみられる。深圳貝殻研究院によると、今年上半期の中古住宅取引に占める全額現金購入の割合は25.3%となり、前年同期から6.3ポイント上昇した。こうした数字は、住宅市場における「高レバレッジで住宅を購入する」という従来の行動様式が変化していることを示している。
住宅購入者の行動変化は、購入価格帯にも表れている。広州では200万元以下の中古住宅が全取引の62%を占め、深圳でも500万元以下の物件が64.6%を占めている。
中国の大都市ではかつて、住宅価格の上昇を見込んで、借り入れを増やしてより高額な住宅を購入する動きがみられた。しかし現在は、住宅を資産運用の対象としてではなく、「現在の生活に必要な住居」として捉える購入者が増えている。
中原地産の首席アナリスト、張大偉氏は、低価格住宅の取引比率が高いことは現在の北京、上海、広州、深圳の住宅市場に共通する特徴の一つだと指摘する。
現在住宅を購入しているのは主に実需層であり、「現在の生活に十分な住宅があればよい」と考える人が多いという。
さらに、住宅を買い替える際に、より大きな住宅から小さな住宅へ移る「ダウンサイジング型」の買い替えもみられる。これは、住宅ローンなどの債務負担を減らすための、いわば「反向置業(逆方向の住宅取得)」ともいえる。
58安居客研究院の張波院長も、低価格住宅の成約比率が高まっている背景には、全額現金で住宅を購入する人が増えていることがあると分析する。
一般に、全額現金で購入できる場合、住宅ローンというレバレッジを使う必要がない。その結果、購入者が選択する住宅の総額も抑えられやすい。
張氏は、全額購入比率の上昇について、住宅市場の「脱レバレッジ化」「実需化」「自住化」の流れと対応していると指摘。住宅が従来のような金融資産としての性格から、より消費財としての性格へ変化しているとの見方を示している。
現在の住宅購入者では、1995年以降生まれの「95後」や2000年以降生まれの「00後」の存在感も高まっている。この世代の親にあたる1960~70年代生まれの世代には、一定の資産を蓄積している人も少なくない。子どもの住宅購入に際して、親が資金を援助するケースもあり、これが若い世代の全額購入や高額な頭金の支払いを支えているとみられる。
実際、住宅ローンを完全に避けるわけではなくても、借入額をできるだけ小さくする動きが広がっている。福建省泉州市のある男性は、昨年、息子のために住宅を購入した際、購入価格の6割を頭金として支払った。残りの数十万元については住宅積立金(公積金)を利用し、子どもに返済負担を負わせたくないと考えたという。
住宅購入行動の変化は、家計全体のバランスシートにも表れている。ここでいう「居民資金杠杆率(家計資金レバレッジ比率)」は、住民部門の貸出残高を住民の預金残高で割った指標だ。地域によって水準には大きな差があるものの、中国では全体として南部の都市ほど高く、北部ほど低い傾向がある。
数年前には、住宅価格の高い一部の都市でこの比率が100%を超えていた。つまり、家計の借入残高が預金残高を上回っていたことになる。2021年末には、厦門(アモイ)が147.3%、珠海が145.4%、杭州が143.2%、深圳が135.5%だった。
ところが2025年末には、これら4都市の比率はいずれも100%を下回った。預金残高が借入残高を上回る状態に転じたことになる。
これは、家計が新たな借り入れを増やすよりも、預金を積み増したり、既存の借金を返済したりする方向に動いていることを示す一つの材料となっている。
住宅市場の調整が家計の「脱レバレッジ」を促す
専門家は、個人向け融資の伸び率低下や家計のレバレッジ低下について、家計が自主的に債務負担を軽減し、バランスシートを改善している自然な過程だと指摘している。
中国では近年、不動産市場が大幅に調整した。住宅価格や取引規模をめぐる環境が変化するなか、家計の信用拡大意欲も弱まっている。
かつては「住宅を買うために借金を増やす」という行動が一般的だったが、現在は既存の借金を減らし、家計の財務体質を安定させようとする動きが目立つ。
住宅市場の調整が長期化するなかで、住宅購入のために新たに積み上げられる借金が減少し、さらに一部の家庭では繰り上げ返済も進んだ。結果として、家計全体のレバレッジ率が低下している。
住宅ローン負担の低下は消費回復につながるのか。家計の脱レバレッジは、住宅市場にとっては必ずしも明るい材料だけではない。住宅購入者が借り入れを避ければ、新規住宅ローンの伸びは抑えられ、住宅市場の信用拡大も弱くなるためだ。
一方で、家計の財務体質という観点からは別の効果も期待される。住宅ローン残高が減り、利払い負担が軽くなれば、家計が自由に使える所得は増える。その結果、予期せぬ支出などに対応する家計の耐久力が高まるとともに、消費に回せる資金も増える可能性がある。
張大偉氏も、住宅市場の調整によって、以前のピーク時と比べて年間の住宅取引額が大幅に減少し、4年間累計すれば新たに積み上げられなかった住宅関連の借金はかなりの規模になると指摘する。
さらに、住宅投資への意欲が低下する一方で、旅行など自己実現につながる消費への関心は比較的強いという。つまり、「住宅を買わない」という選択によって、家計が住宅以外の消費に使える資金が増える可能性がある。
中国の住宅市場は「資産形成」から「生活消費」へ変化している。
現在の中国住宅市場で進んでいるのは、単なる住宅ローン利用率の低下だけではない。「より大きな家を買うために借金を増やす」から「今の生活に必要な家を無理なく買う」へ。そして、「住宅を資産として保有する」ことから「住むための消費財として利用する」方向へ、住宅購入者の意識そのものが変化している。
全額現金購入の増加、頭金比率の上昇、低価格住宅への需要集中、住宅のダウンサイジング、繰り上げ返済、家計レバレッジの低下――。
これらは個別の現象に見えるが、共通しているのは、家計が住宅市場に対する過度なレバレッジを避け、財務の安定性を優先する姿勢だ。
中国経済にとって今後の焦点となるのは、この「脱レバレッジ」が住宅市場の低迷を長期化させるのか、それとも住宅ローン負担の軽減を通じて家計の可処分資金を増やし、旅行やサービスなど住宅以外の消費を押し上げるのかという点にある。
住宅市場の「高レバレッジ・投資型」モデルから「低レバレッジ・実需・自住型」モデルへの転換が進むなか、中国の家計と消費の構造も大きな転換期を迎えている。
(中国経済新聞)
