中国のアニメ産業が、AI(人工知能)の活用を軸に新たな成長段階へと入っている。AI技術が制作工程全体に浸透する一方、中国の伝統文化を生かした作品が国内外で高い評価を獲得し、人気IP(知的財産)を中心とした多角的なビジネス展開も加速している。2025年には中国のアニメ映画興行収入が250億元(約5,150億円)を突破したが、2026年は作品間の競争が一段と激化し、市場の選別が進んでいる。
業界関係者は、AI技術の急速な進化やエンターテインメント消費の変化を背景に、アニメ産業は本格的な構造転換期を迎えており、技術活用、コンテンツ品質、市場開拓を一体的に強化することが重要だと指摘する。
AIは、従来の制作支援ツールから産業全体を支える基盤技術へと進化している。AIGC(AI生成コンテンツ)、リアルタイムレンダリング、バーチャルプロダクションなどの技術は、脚本制作、コンセプトデザイン、キャラクターモデリング、映像効果、宣伝・マーケティングまで制作工程全体に導入され、制作コストの削減と生産効率の向上を実現している。
2026重慶国際アニメ映画ウィークで、火山引擎(Volcengine)のメディア業界向けソリューションアーキテクト、李慶彤氏は、最新の映像生成AIは高品質な長編映画制作にも対応可能な水準に達したと説明した。

同氏によると、従来約5,000万ドル(約74億円)の制作費を要した95分のSF長編映画が、AIを活用することで15人のチームが約14日、約50万ドル(約7,400万円)で完成できるようになり、制作効率は従来の数十倍に向上したという。人物の一貫性や映像の安定性、カメラワークも商業作品として十分な品質に達しており、AIによる映画制作の実用化が現実味を帯びている。
また、百度智能雲(Baidu AI Cloud)の劉玉大氏は、AIエージェントによるデータ駆動型の協業体制が、「10分の1のコストで10倍の生産性」を実現する可能性を持つと指摘。大量のコンテンツ制作で蓄積されたユーザーデータを活用することで、「生産能力向上―データ最適化―コンテンツ高度化」の好循環が形成されると述べた。
一方で、AI時代においては技術だけではなく創造性がより重要になるとの見方も示されている。映画『ライオン・キング』の監督として知られるロブ・ミンコフ氏は、「AIは制作の敷居を下げる一方で、独自の美的感覚や物語を創造する力はこれまで以上に重要になる」と語り、優れたクリエーターを育成する環境づくりの必要性を強調した。
中国アニメーション学会の馬黎会長も、中国のアニメ産業は工業化が進み、追光動画(Light Chaser Animation)など大手企業が企画から制作まで標準化された制作体制を構築しているほか、『ナタ 魔童の大暴れ』などでは独自開発ツールによる映像表現の高度化が進んでいると説明した。
伝統文化を生かした作品が世界へ。技術革新と並行して、中国アニメではコンテンツの質の向上も進んでいる。『ナタ』シリーズ、『長安三万里』、『中国奇譚』などは、中国文化を題材としながらも、成長や勇気、自己実現といった普遍的なテーマを描くことで、幅広い世代から支持を集めている。
北京電影学院アニメーション学院の馬華院長は、「AIが制作を効率化する時代だからこそ、物語構成や映像表現、芸術性といったクリエーターの専門性がこれまで以上に重要になる」と指摘する。
また、中国映画製作者協会の焦宏奮理事長は、「中国アニメは『子ども向け』というイメージを脱し、家族全員が楽しめる作品へと進化している。伝統文化と最先端の映像技術を融合させることで、文化的魅力と感情的な共感を両立させている」と評価した。
アニメ産業では、映画作品だけでなくIPを中心とした長期的な事業展開も進んでいる。
上海電影股份有限公司の李早副総経理は、「業界は作品中心からIP中心の発想へ転換している」と説明。作品の企画段階から商品化やブランド戦略を組み込み、キャラクターをグッズ、デジタルコンテンツ、リアルイベントなど多様な分野へ展開する取り組みが広がっている。
さらに、映画館も単なる上映施設から「スーパーエンターテインメント空間」への転換を進めている。万達院線の李勁波総経理によると、人気アニメ作品では劇場限定グッズやテーマイベントによる関連売上が数千万元規模に達するケースもあり、IPが新たな収益源として重要性を増している。
また、アニメIPは文旅(文化・観光)事業との連携も進んでいる。テーマパークやXR(拡張現実)コンテンツ、体験型施設などへの展開により、映画公開後も継続的に価値を生み出すビジネスモデルが構築されつつある。
専門家は、「実写映画に比べ、アニメはキャラクターの寿命が長く、異なる分野への展開もしやすい。『コンテンツ制作―IP活用―収益化―新作制作』という好循環を構築できることが、中国アニメ産業の大きな強みになる」との見方を示している。
(中国経済新聞)
