中国市場での変化に迅速に対応するため、トヨタ自動車は中国事業のローカライズをかつてないスピードで推進している。2025年4月に開催された上海国際モーターショーでは、トヨタの中国戦略の転換を示す象徴的なシーンが数多く見られた。
まず注目されたのは、4月23日午前のトヨタの新車発表会で壇上に立ったのが、就任からわずか3か月のトヨタ中国総経理・李暉氏だったことだ。トヨタ中国の会長である上田達郎氏は壇下からその様子を見守った。同日午後に行われた中国メディアとのグループインタビューでも、主役として登壇したのは再び李氏であり、彼に同行したのは一汽トヨタの研究開発責任者・王君華氏だった。上田会長はここでも補足的な立場にとどまった。
さらに、今回のモーターショーでは、トヨタ、一汽トヨタ、広汽トヨタ、レクサスの各ブランドが「グローバルでありながら、より中国らしく」というテーマのもと、同一ブースで統一感のある展示を行った。これらの動きから、トヨタが本格的に「中国主導」の経営体制へと舵を切ったことがうかがえる。
この変革を支える柱となるのが、二つの重要な取り組みだ。ひとつは「ONE R&D(ワン・アールアンドディー)」体制の構築である。中国各地に分散していた開発拠点(天津の一汽トヨタ、広州の広汽トヨタ、深圳のBYDとの合弁会社)を連携・統合し、日本本社から中国側への研究開発権限の移譲を進めている。
もうひとつは「RCE(中国首席エンジニア)」制度の導入である。これは日本本社の「CE(チーフ・エンジニア)」制度をローカライズしたもので、中国人エンジニアが車両開発の全権を担う仕組みだ。彼らは市場分析、企画、設計、生産、販売に至るまで全工程に責任を持つ。
現在、中国のRCEとして名を連ねているのは、bZ5の開発責任者・王君華氏、広汽トヨタのEV「鉑智3X」を担当する柳文斌氏、「鉑智7」の葉志輝氏、次世代カローラの開発を担う許天龍氏などである。彼らは中国市場を熟知する若手の技術者であり、トヨタにとって次世代車開発の要となる存在だ。
トヨタは「中国に適応する」のではなく、「中国が定義する」時代に入ったとし、中国をグローバルな研究開発と技術革新の中核拠点と位置づけている。しかし、実際に中国ユーザーが真に求めるEVを定義・開発することは容易ではない。技術的優位性と優れたユーザー体験を両立できなければ、トヨタとレクサスは今後も中国市場での苦戦を強いられる可能性がある。
事実、トヨタとレクサスの中国における販売台数は2021年の217万台をピークに、2024年には195万台へと減少している。RCE体制とONE R&D戦略が成果を上げるかどうかは、今後のトヨタ中国戦略の成否を左右する重要な鍵となる。
(中国経済新聞)